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異世界の休日(2)

 月に一度の大市場の日、私は前世プレイした乙女ゲームの主人公である聖女ダニエラと偶然の出会いを果たした。


 高い地位にいるために、自由に外を出歩けないダニエラ。


 そんな彼女の境遇を気の毒に思った私は、神殿に送り届けようとするリヒト王子を説得して、彼女に観光案内をしてあげることにした。



 町の中心部に戻る前に、私はダニエラを変装させることにした。彼女は絹でできた純白のワンピースを着ていたが、あまりに上等すぎて一目で只者ではないとバレてしまう。


 幸い、私の実家は留守のようだった。合鍵を使って侵入し、妹の普段着を拝借する。


 私の見立てで選んでほしいと言われたので、レースをふんだんに使用して裾がふんわりと広がった茶色いスカートと、リボンがあしらわれた生成りのブラウスに決めた。


 ダニエラは着替えが終わると私たちの前に出て、クルリと回ってポーズを決めた。



「わぁ可愛い。一度こういう格好がしてみたかったの!」



 シックな色合いだが地味になりすぎないよう注意したのがよかったのか、とても気に入ってもらえたようだ。幼い少女のようにはしゃぐ彼女を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。


 外へ出ると、まずは近所の道具屋へ行った。ダニエラは魔法道具を見た事がないようで、一つひとつの名前や使い方を王子や私に聞いてくる。



「この万年筆は、普通の物とどこが違うんですか?」


「これは口述筆記ペンだね。人が話す言葉をノートに書き写してくれるの。

昨日お給料が出たから買っちゃおうかな」



 そのペンは軸のコバルトブルーがとても綺麗で、手に取った感触もとても良かった。少し値は張るが、手の出せない価格ではないし、外回りの仕事で使えそうである。


 私はダニエラの顔をチラッと見た。



「お揃いでよかったらあなたの分も買うけど、どう?」


「ええっ、そんな! 会ったばかりの方に買っていただくなんて、とんでもないです」


「いいのいいの。お近づきの印よ」



 私はお会計を済ませて、申し訳なさそうにしているが喜びを隠しきれない彼女に一本を手渡した。



「ありがとうございます! 大切にしますね」



 くぅー、可愛すぎる。お店の外に出てニッコリと微笑む彼女を見て、私は思わず声を上げそうになった。ダニエラなら男性向け恋愛ゲームのメインヒロインになっても人気が出そうだ。



「授業中に使うのは程々にしておけよ。自分で書かないと身につかないからな」


「クラスメイトにお説教するようになるなんて、王子も偉くなりましたね」



 横から注意してきたリヒト王子に向かって、カイルは意地悪な笑いを投げかけた。



「去年しょっちゅう居眠りをして、僕に起こされてたのを覚えてないんですか?」


「おい、それは言わない約束……」


「耳打ちしても全然起きないから、ゆすったり叩いたり大変だったんですよ~。魔法で姿を消してたので王子がひとりでに揺れてるみたいに見えて、隣の席の人に気味悪がられましたよね」



 決まり悪そうに赤面するリヒトを見て、私はダニエラと一緒に大笑いした。


 しかし私は笑いながら違和感を覚えた。確か、ゲームでは勉強熱心な聖女に触発されて王子は居眠りをやめたはずだ。でもこの様子では、ダニエラが入学した時には既にマジメに勉強していそうである。



『あの子ってば春頃から急に勉強熱心になったのよ』


『アイツが新入りの女性職員に夢中だって、嫁ぎ先にまで噂が流れてきたよ』



 王子のお姉様たちの言葉を思い出す。私が転生したせいで、原作が改変されてるのだろうか。


 とんでもないクソゲーではあるが、こんなゲームにもちゃんと作った人はいるのだ。顔も知らない製作者に怒られないか、私は急に心配になった。



◇◆



 その後私たちは市場に戻り、食料品やアクセサリー屋などの露店や大道芸人を見て回った。ダニエラは何を見ても目をキラキラと輝かせて、「これは一体何?」と私に説明を求めてきた。


 私はそんな彼女の無邪気な姿を微笑ましく思う一方で、あまりにも知らない事だらけで切ない気持ちになった。私の複雑な表情を見て、ダニエラは慌てて謝ってきた。



「さっきから質問してばかりで、ごめんなさい。見た事がない物があまりにも多かったので、つい」


「全然いいよ。でも、魔法道具やアクセサリーなんかがそんなに珍しいなんて不思議ね」



 町に出るのが初めてでも、その位は神殿で目にしていそうなのに。



「俗世間の汚れた物に触れるなって、お兄様に止められるから」



 ダニエラは伏し目がちに答えた。その言葉を聞いた途端、王子とカイルは一斉に顔をしかめた。



「『お兄様』って……ルピス先生の事か? 魔法の授業に出られないのは知ってたが、道具まで禁止されてるのかよ」


「あっ、また呼び方を間違えちゃった! 外では先生って呼ばないと」



 照れ笑いをするダニエラとは対照的に、2人は難しい顔をしている。


 聖女が魔法を使えないのは、彼女の所属する教団が精霊と敵対しているからだと、カイルは小声で教えてくれた。その横で王子は、ダニエラを気遣う様子でこう言った。



「俺たちが口出しできる話じゃないけど、過保護もいい加減にしろって言った方がいいぜ。

家でも学校でも監視されてるなんて、ダニエラも窮屈過ぎるだろう」



 彼女は何も答えずに、寂しい表情で首を横に振った。


 ダニエラの従兄(いとこ)は神官と王立学院の講師を兼任しているエリートで、攻略対象の一人になっている。ゲームでは温和な印象しかなかったけれど、話を聞いた感じではかなり厳格なようだ。


 リヒト王子やカイルもそうであったが、ゲームでのキャラ設定と実際の性格がだいぶズレているのはなぜだろう。私は疑問に思ったが、答えは浮かびそうになかった。

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