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愛と勇気とSDGs(3)

 出火元は台所のある1階ではなく、どうやら2階の寝室のようだった。階段を駆け上がり寝室の扉を開けると、一面炎に包まれた部屋の奥で子どもが倒れていた。


 カイルが駆け寄り、抱きかかえる。



「大丈夫、まだ息があります」



 急いでここを出ましょう、という彼の言葉を遮るように私たちの間に天井の梁が崩れ落ちてきた。振り返ると、来た道も炎で阻まれている。


 しまった……! カイルは子どもを抱えているので、きっと脱出するのが精一杯だろう。

 


 煙を吸ったせいかぼんやりしてきた頭が、ふと先日のボヤ騒ぎを思い出した。

 あの時も火の気のない場所が突然燃え出したが、今回もやはり原因は精霊の暴走なのだろうか……。だとしたら、彼らは何らかの目的のもと動いているのかもしれない。


 魔法も使えない、精霊を見ることもできない私がこんな事をするのは無謀だ。


 しかし、私には迷っている時間も他の方法を考える余裕もなかった。覚悟を決め、ありったけのエネルギーを振り絞って私は叫んだ。



「精霊さん、いるんでしょ? 言いたい事があるなら、暴れてないで直接はっきり言いなさい!」



 今まで以上の勢いで火の手が回ってきた。意思を持って集まってきたように見える炎は、やがて巨大なトカゲの形となった。



「我が名はサラマンダー。傲慢な人間ども、我らを奴隷のように扱ってきたことを後悔するがよい」


「……呼べばちゃんと出てくるんじゃない」



 あっさりと姿を現して拍子抜けしそうになるが、戦いはこれからだ。暴力で脅してくる者を相手に弱さを見せてはいけない。私は恐怖を抑えつけて、毅然とした口調で言った。



「私にはこの世界の事情はわからない。ひどい仕打ちをしてきたというのなら謝るわ。でも、無差別に攻撃してもなんの解決にもならない」


「人間ごときが偉そうな口を聞くな」



 サラマンダーが身にまとう炎が勢いを増す。物凄い熱さで、目の前がぐらぐらする。 

 ここで退いたら負けだ。私は精一杯平気なふりをして説得を続けた。



「人間と精霊が共存する方法があるはずだから。一緒に考えよう」



 炎の奥にある琥珀色の瞳を真っ直ぐに見つめて語りかけるが、反応がない。精霊を相手に説得を試みるなんて、やっぱり無理だったか……。


 逃げ道を探すためにサラマンダーから窓の外に目を移したその時、炎が一瞬弱まった気がした。



「もしや……貴様、なぜこんな所に……?」



 誰かと見間違えたのだろうか。信じられないといった表情で、ゆっくりと一歩ずつ私の方へと近づいてくる。


 その時、私の影が膨らみ人間の形となってサラマンダーに飛びかかった。カイルだ。



「何故人間の味方につく! 何故我々と共に戦わない!!」



 精霊は私の方に襲い掛かろうとするが、カイルが素早く剣を抜いて斬りつけると、鎮火したように姿を消した。同時に室内の炎も消えていく。



「アイーシャよ……!」



 最後の火が燃え尽きる瞬間、サラマンダーの声が聞こえた気がした。私は聞かなかったふりをしてカイルに駆け寄った。



「カイル! 魔法が使えたのね」


「精霊を使役しない闇魔法なら、もしかしてと思ったんです。

子どもを守りつつ窓から外に出るのに手間取りましたが、間に合ってよかった」



 カイルは、私の手を引いて外へと誘導する。その途中で彼はためらいがちに忠告した。



「さっき起きた事は、他の人には話さない方がいいと思います。アンジェラ様がおかしな目で見られてしまう恐れがありますから」



 前を向いて進んでいく彼の背中をじっと見ながら、私は無言で頷いた。



◇◆



「アンジェラさん! ご無事だったんですね!!」



 外へ出た私を見て、ハンナが勢いよく抱きついてきた。



(すす)だらけだから、ひっつくと汚れるよ」



 ハンナの隣には、先程の女性が涙を浮かべていた。腕には助けた子どもを抱えている。

 その後ろに、腕組みをしたエミールが勢いよく睨みつけているのに私は気付いた。



「一人で勝手に危険なことをしないでください。大体どうやって火を消し止めたんです」


「精霊を呼び出して、アンジェラさんお得意の交渉術で説得したに決まってるじゃないですか」



 代わりに答えたハンナに向かって、私は曖昧に頷いた。説得が成功したわけではないので彼女の言うことは半分間違っているが、この場は肯定した方がよさそうだ。


 私は、納得がいかない様子のエミールに向き直った。



「ここの精霊って、魔法の使い過ぎで酷使されていたりしないかな……。詳しい話まではできなかったけど、奴隷扱いされたことを怒ってる感じだったから」


「それは十分にあり得ますね。上位精霊を召喚して、向こうの言い分を聞いてみるのもアリかもしれません」



 彼は事もなげに言った。宮廷魔術師に大学時代の同級生がいるので、その人に頼んでみるそうだ。



「そんな事ができるなんて凄いね! でも危ないから気をつけて」



 そう言うと、

「安心してください。私は誰かさんと違って、できもしない事を無理にやろうとはしませんから」とイヤミで返された。


 これだから厄介なんだよなぁ。エミールは優秀だけど、いちいち一言多くてげんなりする。私は返事をする代わりに、大きなため息をついた。



 それにしても、魔法を日常的に使用したせいで精霊が反乱を起こすなんて。

 どの世界でもエネルギーの使いすぎは良くないんだ、異世界にもSDGsの波が来てるんだなぁ……。私はここと元の世界の地球環境に思いを馳せたが、それ以上のことは考えなかった。


 もしかしたら、事件の背景に恐ろしい事実がある気がして、あえて考えないようにしていたのかもしれない。


 全てが終わった今振り返ると、そんな気がしてならないのだ。

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