追放されたけど、ざまぁはしません
「ルストン、このパーティから出ていけ。お前はもう役立たずだ」
冒険者ギルドに併設された酒場で、パーティのリーダーであり、俺の幼馴染であり、そして勇者であるユーティから俺はクビを宣告された。
「そんな! ルストンさんは今まで一緒に冒険して来たんですよ! いきなり追放なんてあんまりじゃないですか!」
付与術士のエミリーが俺のことを庇ってくれた。彼女は本当にいい子だ。
でも、ユーティの言っていることは事実。今の俺は足手まとい。大いなる使命を背負った勇者パーティでは不必要なのだ。
「エミリー、その怪我はなんだ?」
ユーティがエミリーの右腕の包帯に指を差す。
「これは……」
エミリーが言い淀む。それはそうだ。だって俺に付与魔法を掛けることに夢中になってできた傷なんだから。
「ルストンに付与魔法が集中するせいで、お前をガードするはずのタンクのザルフもお前を守りきれなくなってきている」
誰の目から見ても明らかだった。俺がいることで、パーティ全体の戦力が下がっていることは。
「今はいいかもしれないが、後々取り返しが付かなくなる。だからルストンは追放する。これは変わらない」
ユーティは心を鬼にして追放を決断した。これを覆すことなどできないだろう。
「ありがとう……」
俺は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、ユーティにお礼を述べ、その場を後にするのだった。
★★★★★
「待てよ」
宿に戻る途中、ユーティから声をかけられた。
「さっきは悪かったな。ひどいこと言って」
「気にするな。全部本当のことだし」
俺は勇者の仲間として、一緒に旅をしていく中で実力不足を感じるようになった。
幼き頃に剣を学び、鍛練を怠ったことなどなかったが、才能という壁にぶち当たってしまった。
常に強力な魔物と戦うことが余儀なくされる勇者達にとって、才能も必須なのだ。
冒険を始めてから、俺はずっと剣士のままだ。才能があれば剣聖になれたのかもしれない。
成長の限界を迎えた俺は、つい先日ユーティにパーティからの脱退を申し出た。
ユーティは当初、俺がパーティを抜けることに反対した。苦楽を伴にした仲間を切り捨てられるほど、冷酷ではなかったからだ。
しかし、俺が何度も頼み込むと渋々了承してくれた。だが、パーティを抜けるとなると、その後の収入に影響が出てくる。
故に、ユーティは俺が辞める形ではなく、パーティから追放するという形を取ってくれた。
追放――冒険者としては不名誉なことではあるが、自分からパーティを抜けるよりもはるかにリターンが大きい。
昔、追放された冒険者が、追放したパーティへの復讐に駆られ、そのパーティを壊滅させた。
その事実を重く受け止めた冒険者ギルドは、パーティから追放された冒険者に保証金を支払うようになった。
これにより、追放された冒険者も追放したパーティを恨むようなことはなくなった。
ただし、この保証金は自分からパーティを抜けた場合は支払われない。
ユーティは俺の生活のことを考え、追放してくれたのだ。まったく、頭が上がらない。
「いいなあ、ルストンはギルドからの保証金でこれから悠々自適な生活だろ?」
「何言ってんだよ。ユーティが魔王を倒した時のお祝いのために保証金はとっとくさ」
「お! 約束だからな! 盛大に祝ってくれよ!」
「もちろん。これからは勇者パーティの元メンバーとして、応援してるよ」
それから一年後、ユーティは使命を全うした。見事魔王の討伐という苦難を乗り越えた。
凱旋を終え、時間ができたユーティは俺のところにやって来た。俺から祝ってもらうために。
俺はあの時手に入れた保証金を使って、豪華な食材を取り揃え、自分で調理してユーティに振る舞った。
冒険をする前から俺は料理が得意だ。
俺もユーティも元々は孤児で、食材はユーティが集め、料理は俺が担当していた。俺とユーティは肩を寄せ合うように生きてきた。
ユーティが勇者として、神官に見い出されなければ人生は変わっていたのかもしれない。
「……」
「どうした?」
ユーティがスプーンを口に加えたまま固まっていた。
「いや、やっぱりルストンの作ってくれる飯が一番だなって……」
「そいつは嬉しいな。でも、城でいいもん食べたんだろ?」
「貴族様の料理は俺の舌に合わねぇ。薄味ばっかで、食った気にならねーんだよ」
「そうか、ならいっぱい食べてくれ」
そのまま料理にかぶりつくのかと思いきや、ユーティは手を止めたまま、俺のことを見つめてきた。
「なぁ……。もういいよな」
「ああ、お前はよく頑張ったよ」
幼馴染の俺だけが知ってる勇者の秘密。
パーティメンバーは美女だらけ、魔王を倒したことで令嬢からも求婚されているユーティが、誰にも手を出さなかった理由――。
「もう、一人の女に戻っていいんだよな?」
ユーティは女だったのだ。タマなし勇者なんて揶揄されたが、実際そうだった。
「いいと思うぞ」
「よし決めた! 俺勇者辞める! そして今日からルストンとまた一緒に暮らす!」
「いきなりだな」
「嫌か?」
「嫌じゃないさ」
ユーティは今まで女の身で懸命に戦って来たのだ。残りの人生は穏やかに過ごしたってバチは当たるまい。
「あ、でも俺、家事スキルはないから、ルストンからしたら役立たずだろうけど、追放しないでね」
するわけねーだろ。