第五論:婚約破棄追放ざまぁはホットスタートか、まとめ
なろうの異世界恋愛ジャンル、果ては他ジャンルまで侵食している婚約破棄。あるいはハイファンタジージャンルを占拠する追放系。
これらはホットスタートと言えるのだろうか。
意見の分かれるところであろうとは思う。
私の解答もまたイエスでありノーである。
イエスである理由は、オープニングであそこまで読者を強く掴めているのであるから当然ホットスタートであると言うもの。
ノーである理由は、あまりにも広まり過ぎていて完全にテンプレートと化してしまっており、目新しさが失われていると言うもの。
これに関して反論の余地はないだろう。
ではなぜこれがそこまで強いテンプレなのか。
まず婚約破棄・追放・ざまぁ・もう遅いだが、人間に共通する感情として、成功者、特に実力以外の要因により評価されている成功者に対しての妬みは多かれ少なかれ存在する。
特に彼らを失墜させるために労力を割きたいわけではないが、なんか破滅してくれねえかなこいつという感情である。
これをドイツ語でシャーデンフロイデという。英語でもそのまま通じる言葉である。
日本語では「他人の不幸は蜜の味」という諺(似たような表現は他にもある)がこれに当たる。一昔前の2chねらーであれば、「メシウマ」という言葉を知っているだろう。あれは何の略であるか。「他人の不幸で飯が美味い」の略である。
漢文では春秋左氏伝に「幸災楽禍」という言葉があるらしいので、2500年くらい前から同様の感情は理解されているということだ。
つまり、これらのテンプレは人類にとって普遍的に楽しめる要素である。
そして前話で話した、ホットスタートの結論。
・想定読者層に刺さる。
・物語の方向性を示す。
・主人公の立ち位置を明確化する。
・主人公に感情移入させる。
これらは婚約破棄もの、追放系においてかなり表現されていると言える。感情移入できるかは読者にもよるだろうが、テンプレとして確立されているため、それが読みたい読者に刺さり、話の方向性は概ね示されるし、立ち位置も明確。
またヒロイン・ヒーローについても婚約破棄においては大半の場合、1シーン目か次話にヒーローが登場するしパーティー追放系だとパーティーと別れるのが1話、2話で通りすがりの女の子かギルドで女の子にパーティー組もうって言われるだろう。
つまり、私が思うにこれらは強いオープニングパターンをしっかり踏んでいるのだ。
実のところ、異世界転移転生のテンプレである開幕トラックに轢かれて主人公が死亡する、神に会って異世界へと移動する。これらも同様に元々は強力なホットスタートであったのだと言える。
つまり、主人公が死亡して始まるという意外性から始まり、転移・転生時に神からの説明が入ればそれは明らかに方向性・立ち位置を決める。
それは何をしてくれという依頼でもそうだし、特に何もない、自由に生きてくれと言われた場合でも話の方向性ってなんとなくわかるだろう?
赤子として生まれる場合でも、大人としての意識が自分がどう成長しようという思考がだいたい話の最初の方に入ってくる。
なろうにおいて転移転生は隔離されてしまったため、人気が薄れた。
他サイトやWEB書籍化においてはまだまだ強いとは聞くので、なろうの隔離による特殊状況であり、本質的な人気が落ちているとは言えないだろう。
さて、ではまだなろうでランキングの覇権を握っていると言える婚約破棄と追放であるが、正直飽きたと思っている諸氏も多かろう。
だが、それはあなたがなろうをかなり読み込んでいるベテランであるからではなかろうか?
2020年はCovid-19による外出規制等による影響が大きいと思われるが、なろうのpv数は増加した。これはデータとしても出ているし、私のように異世界恋愛のポイントインフレからそれを感じたユーザも多いだろう。
これが新規読者及びライトユーザの流入を示すものであるとすれば、彼らにとって婚約破棄スタート、追放スタートというのは目新しい、あるいはまだ飽きるほどでない可能性は高い。
基本的にランキング上位層の作品を古参ユーザがつまらないと思うのは、主にそのあたりの認識の違いが原因である。ライトユーザはまだ飽きていない。
ただ、例えば追放系もパーティーからの追放以外に、子供の頃に家から追放されるというパターンも存在する。
テンプレはマイナーチェンジを繰り返しながら新たなテンプレを形成していくのだ。
ではあなたが婚約破棄や追放ではないスタートを書きたいとして、ホットスタートの文法として完成度の高い婚約破棄や追放にどう打ち勝っていくのか。
拙作、「モブ令嬢テサシア・ノーザランは理想の恋を追い求めない」もそのバリエーションであるとは言えよう。
つまり、婚約破棄スタートだが他人の婚約破棄を見るいわゆるモブ視点という作風で、モブ令嬢ものというパターンではある。婚約破棄とか悪役令嬢とか聖女とかパワーワードだけ借りた。
つまり『テンプレずらし』である。
物語の方向性とか主人公の立場、ヒーローとの関係は序盤から分かり易いでしょ。
分かり易い方向性で、私の場合は比較的文体とかセッティングに癖があるので「はいはいテンプレテンプレ」って感じにはなっていないとは思う。
無論、私の文体やら作品の内容を好まない読者は当然いる。
それは特にランキング上位に行けば読者数が増えるので当然のことであろう。だがまあ、それでも1つの基準として言えば9割。
KASASAGIで部分別ユニーク確認して、第一話読んだ読者の9割が平均して第二話読んでくれているなら、ランキング的な意味でのホットスタートが成功していると言える。
メリリースとかテサシアは実際そうだし、総合上位の作品も大体9割前後である。
ランキング目指していて継続率9割あるけどランキング登れないよって作品は、タイトルかあらすじか更新頻度がまず悪い。
それと、そもそも一般的にはウケないネタで書いているかだね。
継続率が8割を下回ってる場合のパターンは、タイトルで読者が期待している内容と1話の内容が乖離している場合が考えられる。私が今書いている「王都の決闘士」は最初なろうっぽいサブタイわざとつけたので、やはり継続率75%程度と悪かったね。
まあ、少しでも読まれたかったし仕方ない。後は完結時に日間ハイファンタジーランキング入った時にどうかって感じ。
そうでなければ単純に1話が面白くないかですよ。残念無念。
ちょっと話を戻すけど実際、婚約破棄・追放系は短編から10万字程度までの作品としては現状最強のテンプレなのだ。
ところが異世界恋愛はこのくらいの長さの作品が好まれる傾向が強いが、ハイファンタジーってジャンルはそうじゃないだろ。本数冊分に及ぶ作品をだらだら読み続けたいという読者が多い。
その上で言うと、追放系には大きな問題がある。
読者がざまぁを期待することだ。
つまり、こういう構造になる。
1:権力者(国家、パーティー、親など)が主人公を所属から追放する。
Aパート:主人公が幸せになっていく
Bパート:権力者が破滅していく
AパートBパート繰り返し……
2:権力者が高圧的に主人公を組織に戻そうとする。だが断る。
AパートBパート繰り返し……
3:権力者が破滅する(ざまぁが終わる)。
実はここで読者の興味が切れる。
この後も連載を継続しようとすると結局、昔からある形式のだらだら冒険譚になってしまい、読者が読むのを止めるパターンが多い。
PV見るとランキング上位にいたのに割と明らかにそうなっている作品もある。
これねー、実は凄い心配してるんだけど。このパターンって書籍化爆死率高くならねぇ?あるいは続刊率低くならねぇ?
無論、そのあたりを打開しようとしている作品も見られる。実際、この手の作品を書いているのであればここは意識して書いたほうが良いだろうとは思う。
まあ、これに関してはホットスタート論とは無関係になってしまうので掘り下げないが、テンプレ書くなら別のエンタメの軸を用意したい。
私が異世界恋愛にスチームパンク要素持って行ったりするやつ。あれは世界観での遊びだが、独自性とか追放ざまぁ後に読者が残る理由とか色々考えると、なんらかの別のエンタメの軸がしっかりしていることは望まれる。
とまあ、追放系とて無敵じゃあない。
だがテンプレに全く別の方向性でぶん殴って勝てるのは天才だ。
私は自分をそうは思ってない。だからテンプレの婚約破棄も書いているし、テサシアでは『テンプレずらし』のスタートで勝った。
あなたはどちらで書いてもいいし、別にテンプレを書いたっていい。
いわゆるホットスタート。読者がハッとするような1話から引き込まれるような文章を私も読みたい。
でもそれが独りよがりになってしまってはダメだ。
開幕バトル?クールで良いじゃ無いか。だが読者はそれを読んでどういう状況かちゃんとわかるかい?
主人公格好いいなとか可哀相だなと読者は思えるかい?
その上でそのシーンの続きが、あるいはどうしてこのシーンに至ったのか読者は気になるかい?
1話の要件として、
・想定読者層に刺さる。
・物語の方向性を示す。
・主人公の立ち位置を明確化する。
・主人公に感情移入させる。
・2話以降を継続して読ませる力がある。
これを意識して書いてみてくれたまえ。それがあなたの熱いスタートだ。