第一論:ホットスタートの定義
全5話くらい?
大体書き上げてて毎日投稿。
ホットスタート。なろうで創作活動を行っていて、わざわざこのエッセイを覗いたということは、おそらくあなたはホットスタートという言葉を聞いたことがあり、興味があるのだろうと思われるがどうだろうか。
ここではまず、ホットスタートという用語の説明と起源、定義から始める。
ウケるテンプレパターンやホットスタートの書き方にのみ興味があるならこの下は読まずに次のページへどうぞ。
さて、なろうで少なくとも書く側に回ってるなら、ホットスタートという言葉を聞いたことある人はそれなりにいると思うのだよ。
その意味は、字義通りホットなスタート。物語(小説とは限らない)の開始時に熱いシーンを置くと言う意味だ。……多分。
多分?
なぜ多分なのか。
では逆に聞きたい。ホットスタートの定義とはなんだ?いつ、誰がこの言葉を使い始めた?
ちなみに知ってる人がいたら教えてくれ。マジで。
「そんなのいいからググレよ(Googleで検索しろ)」って思うじゃん?
……出てこねえんだよ。正確にはPC等の技術用語として出てくるが、物語手法としてのホットスタートは検索しても出てこない。
英語で検索しても同じなので、和製英語かなってのが分かるくらいだ。これは意味あることであり、ホットスタートはハリウッド的な創作手法が元ではない可能性が高いと分かる。
なんか適当なオタクカルチャーの用語をあなたのパソコンやスマホでググってみてくれ。
大体Wikipediaとニコニコ大百科とピクシブ百科事典のどれかまたは全てがヒットするだろう。
例えば「ショタ」って入れればどれも出てくる。
だがこの手の創作用語関連はなぜか辞書化されてないのが非常に多い。2021年6月現在、「ホットスタート」はそれら辞書に登録されてないし、例えば「ドアマットヒロイン 意味」で検索すると、わたしの書いたエッセイ『なろう用語の基礎知識』が上から2番目に出てくる有様だったりする。
ホットスタートは古いPC用語なので、それを元に創作系のホットスタートという用語が発生したのはおそらく間違いないだろう。
わたしが知る限りにおいてホットスタートという創作系の用語は20年くらい前には既に使っていた記憶があるのだ。ただ、それを何を読んで、または誰に聞いて知ったのかは記憶にない。
ただ、どこで使っていたのかは覚えている。TRPGだ。
90年代には存在した用語だと思うが、確証はない。2004年にすでに定着した用語として使われているのは確認ずみ。
ネット上では以下の記事を発見。
【ホットスタート】
(用語:TRPG)
シナリオ開始直後にPC(プレイヤーキャラクター)が危機的状況に陥る、あるいは既に陥った状態からシナリオが開始するという展開。
プレイヤーに焦燥感と強い興味を持たせるため、あるいは拒否やサボタージュを許さず冒険に追い込むための「押し」のマスタリング技法。
ギャングものならいきなりマシンガンが乱射されるところだが、ファンタジーものの場合はいきなりファイアボール(火の玉)の魔法が炸裂するという描写が定番とされ「ファイアボールスタート」と言われることもある。
卓上ゲーム板用語辞典 - atwiki(アットウィキ)
より引用。2011/12/14
わたしはファイアボールスタートは未経験だが、ホットスタートについては概ねこの意味で認識している。
例1
GM:んじゃゲームはじめるよー。
PLたち:ういー。
GM:君たちの目の前をファイアーボールがかすめて飛んでいく。
PL:は?
GM:背後で大爆発。村が燃えている。そして目の前にはボロボロの衣服を身に纏った緑色の皮膚の小鬼たちが飛び出してきて、錆びたナイフを振りかざしている。どうする?
こんな感じ。「逃げ場は?」と言われたら、「火の手に囲まれていて、小鬼たちの向こうに抜けなければ死ぬ」って言ってあげればいい。
つまり、PLたちの演じるPCを、オープニングでいきなり動いている状況かつ考える余地のない状況に追い込むのである。
次も有名なホットスタートの例だ。
例2
GM:君たちが目を覚ますと、そこは四方を壁に囲まれた部屋の中だ。高いところにある小さな窓には鉄格子がはまっている。腰にあった武器はない。
PL:えーと牢屋?
GM:はい。部屋の隅には糞壺、鍵のかけられた扉の向こうから声がかけられる「愚かな冒険者たちよ。処刑は明日の正午だ」
牢獄スタートというパターンである。
これら2つの例はいきなり危機的状況に置くことで、プレイヤーたちに「焦燥感と強い興味」を与える(多用しなければ)。
ただ、「拒否やサボタージュを許さ」ないこと。TRPGの初期の頃はこちらの意味が大きいのではないかと感じる。
つまり、生き残るには戦闘したり脱獄するしかないのだ。
TRPGというゲームは自由度の高いゲームだ。
それ故に極めて多くのトラブルが発生し、それを踏み越えてきたゲームである。例えば一般的な導入だが、こんなのはどうだろうか。
例3
GM:君たちが酒場にたむろしていると、店主が声をかける「よう、お前ら。ちょっと依頼があるんだがどうだ」
PL:ほう。
GM:「そこの商人が隣町まで行きたいそうなんだが、ちょっと街道そばにゴブリンが住み着いたらしくてな。護衛をして欲しいってんだ」
ありがちなビジネスの依頼っぽい導入、あなたならどうする?
商人と話をする。/ああいいね。
交渉で報酬の増額を要求する。/ふむ、多少ならいいだろう。
商人が真っ当な商売をしてるか調べる。/ん?普通だよ?
いや、そんなはずはないきっと悪党に違いない。/何でだよ。
酒場の店主もグルに違いない調べないと。/いや、いつも行く店だって。
運んでるものが実は麻薬に違いない。/違いないじゃねえよ!
ち、じゃあ出発します。/やっとかよ……。
町から離れたあたりで、店主に攻撃します。/は?
殺害して商品と現金奪って逃走します。/正気か貴様!?
極論こういうことできちゃうんですよ。TRPG。
そこまで悪意あるPLはいない?いや、少しでもいるから困るんだ。
例えばこの例で、セッションが失敗したあとにPLがなんで商人を悪党だと思い込んでるのか聞くとしますよね。
するとそれ以前に別の卓を囲んだ時に、GMが出した嘘の依頼に引っかけられて全滅したとかね。それで何が悪かったか聞くと、「冒険者なら依頼の裏取りくらいすべきでしたね」とか「依頼を受けたのが失敗でしたね」と言われたとか。
1人の悪意に晒されると、大勢のPLが迷惑するし、悪意が連鎖する可能性がある。
こういう害悪に対抗すべく生まれたシステムが『冒険者ギルド』であったりするのね。要はギルドがケツ持ち、信用を担保してくれるシステムになった訳だ。裏取りが不要。
なろうの作品でも良く登場する冒険者ギルドだけどあれが中世っぽい世界観では明らかにありえない超国家的組織だったりする(小国乱立状態でそんな組織は本来発生しえない)理由はここが原点だから。
ゲームプレイにおいて面倒くさいところを補ってくれるための組織だからってのがそもそもの理由。物語においても便利なんです。そういう組織。
で、害悪を防ぐ導入の工夫として生まれたものの1つがホットスタートであったはず。
もちろん、害悪なユーザは無くしていきたいため、ゲーム会社側もそういった工夫をしなくてもプレイしやすいように環境は整っていく。
日本ではグループSNEなどによるTRPGのリプレイや雑誌の記事を通じて楽しみ方が示された。F.E.A.R.が『ゴールデンルール』というゲームプレイを楽しむ心構えを明文化した。『ハンドアウト』『今回予告』『PC間コネ』といった、シナリオの方向性を事前にPLたちに伝える手法、PCが自然と合流しやすくなりPC間で敵対・裏切りし辛くする手法が確立された。などなど。
こうして害悪なユーザは減り、その対処もしやすくなったため、ホットスタートの必要性は減る。だが楽しみ方として残りはする。
つまり、普段の導入とは違い、インパクトある導入の方に重きが置かれるようになる訳だ。
で、これが創作論に用語として流入したのかと思われる。
TRPGは創作と関連性の深い趣味であり、ライトノベルやなろう作家、漫画家には割とTRPGの経験者多いため自然な流れであるように感じられる。
わたしもその一人だ。
最初に言ったようにこれが正しい保証はない。ただ、こうである可能性は高いかなというようなものであることはご理解いただきたい。
では創作論におけるホットスタートの定義とは何か。
定義が無い。逆説的に言えば、定義が存在しないのだからわたしが定義しても構わないのではなかろうか。という訳で以下定義。
ちなみに根拠あって以下の定義に誤りがあると言えるのであれば、ぜひ教えていただきたい。
ホットスタート【ほっとすたーと】
①TRPG用語。ゲームのオープニングにおけるシナリオ展開のパターン。
プレイヤー演じるキャラクターたちを戦場の真ん中や牢獄の中といった、問答する間もない状況に陥ったところからゲームを開始する。なぜそうなったかの説明は後回しとなる。
プレイヤーに考える間も無く行動させることができ、強くシナリオへの興味を集めることができる。ゲーム進行を拒否したり非協力的なプレイヤー、雑談が終わらないプレイヤーなどを許さずにシナリオへの参加を強制できるというメリットがある。
②創作論の用語。映画、小説、漫画などにおいて、いきなり事件に巻き込まれた主人公を描くなどすることにより読者・視聴者の興味を強くひく手法。
ミステリーなどで言われる『冒頭に死体を転がせ』も同様である。
こんな感じか。
次項より創作におけるホットスタートについて書いていきたいと思う。