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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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999/1359

999 閑話・少女オルデの新生活?



 夕食は、とんでもない挨拶から始まった。


「初めまして、ナリユと申します。オルデさんとは結婚の約束をした間柄です。どうぞよろしくお願いします」


 ナリユが礼儀正しく、爽やかな笑顔でそう言って頭を下げた。

 私は固まった。

 いきなりこの男は何を言っているのか。


「結婚……。そんな話は初めて聞いたが……。なあ、母さん?」

「オルデ、彼とは1度、会ったきりなのよね?」


 父と母が当然ながら戸惑う。


「そ。今日で2度目。変な関係じゃないわよ。何故か行き倒れていたから放置もできないし拾ってきただけ」

「オルデ……? それで、約束はしたの?」


 母の怪訝な目が私に向いた。

 すると即座にナリユが言う。


「はい。しっかりと。オルデ、また会えて僕は本当に嬉しいよ。こうして出会えたのはまさに精霊様のお導きだ」

「あー、はいはい」


 私は肩をすくめた。

 あまりにまっすぐに言われると、さすがに照れる。


「ま、まあ、とにかく、まずは食べようじゃないか」


 父に言われて、食事になった。

 我が家の夕食は質素だ。

 パン、スープ。

 以上。

 とはいえ、スープには野菜だけではなくて、肉もちゃんと入っている。

 栄養は取れるし、味も悪くはない。

 私は、特に不満もなく、毎日、食べさせてもらっている。

 ただ、どう考えても貴族の食事ではない。

 私はナリユの顔を見た。

 確実に微妙な顔をすることだろう。

 と思ったのだけど……。

 ナリユは意外なことに、スプーンでスープを口に運ぶや否や、微妙どころか本気で感動する様子を見せた。


「ああ……。美味しい……。この温かさ、体に染み入るようだ」

「大げさね。いくらでも食べてきてるでしょ」

「そんなことはないよ。僕はずっと針のむしろだったからね。どんなにご馳走が並んでも、味なんて感じることもなかったし。旅の中では、襲われたり騙されたり盗まれたりと、散々だったし」


 ナリユがしみじみと言う。


「……アナタ、よく帝都まで来れたわよね」


 世間知らずの化身なのに。


「精霊様のお導きさ。それに僕は、どうしても君に会いたかったんだ」

「ホンットにバカね」


 私は心の底から息をついた。

 その様子を見た母が言った。


「結局、2人は、いい関係ってことなのよね?」

「はい!」

「簡単に返事をしないでよね。貴方、そんな身分じゃないでしょ」

「そんなことはないよ、オルデ! 信じてくれ! 僕は君のために公爵家の身分も貴族連合の盟主も、すべて捨ててきたんだ! だからどうか僕のことを養ってくださいお願いします!」

「あのね! どうしてそうなるのよ!」

「え?」

「え、じゃないわよ。男なら、私を養ってよね!」


 なぜか沈黙が流れた。


「な、なあ、オルデ……。結局、そちらの彼はどこの誰なんだい? もしかしてどこかのお貴族様なのかい?」


 父がおそるおそるの様子で聞いてくる。


「あ、うん、そうよね」


 隠しておくつもりだったけど、今、ナリユが思いっきり叫んだか。

 そもそも隠し通すのは無理か。

 なにしろ世間知らずの生粋のボンボンだし。


「ナリユ、自己紹介してあげて」

「いいのかい? 秘密にしておく話なんだよね?」

「ええ。もういいわ」

「それなら――」


 席から身を起こしたナリユは、姿勢を正した後、うちの父と母に向けてそれはもう優雅に一礼した。


「お初にお目にかかります。私はナリユキーノ・デ・ナリユ。この度はオルデさんとの約束を果たす為、すべてを捨てて帝国へと参りました。トリスティン王国ナリユ公爵家の者です」

「こ、こここ、公爵家のお方ですか……!?」


 慌てた父と母が立ち上がって、しどろもどろでお辞儀を返す。

 やはり、本物は違う。

 今のナリユはみすぼらしい格好をしていて、髮だってもつれているのに、育ちの良さはわかる。

 挨拶を見れば、とても庶民とは思えない。


 この後は、なんとも微妙な空気の中……。

 とりあえず、夕食を続けた。


「そ、それで、オルデ……。おまえはこれから、どうする気なのだ?」


 父がたずねてくる。


「どうするも何も、どうすればいいと思う?」


 私が聞き返すと――。

 ナリユが相変わらずの笑顔で言った。


「オルデ、わかったよ。僕は、君の父上の仕事を手伝おう。そして、君のことを養うことにするよ。父上、僕に仕事を教えてください」

「オ、オルデ……?」

「んー。好きにさせてあげたらー?」


 放り出すこともできない以上、うちに置いておくしかない。

 それなら働かせたほうがいい。

 最近は好景気で、仕事はたくさんあるし。


 それに……。


 多分、その内に迎えが来るだろう。

 探しているに決まっている。

 そうすれば、お礼がたっぷりと貰えるかも知れない。


「どうぞ僕のことは、気楽にナリユとお呼びください」

「貴方って、家名と名前がかぶってるのね」

「ああ。我が家の伝統でね」

「へー。そうなのねー」

「ともかく、僕はもう家を捨てた身さ。これからはオルデの夫として、精一杯に頑張ることを誓うよ」

「ちょっと、それは勝手に決めないでくれる?」

「オルデ、いい子を作ろうね!」

「だーかーらー」


 いきなり子供なんて作るわけないでしょ!

 本当に常識から、ナリユには叩き込む必要がありそうだった。


 ともかくこうして……。


 私とナリユの、突然の共同生活は始まったのだった。










995話に出てきたナリユの家出時期ですが、距離を考えて

2週間から1ヶ月に変更しました。

ご指摘ありがとうございました\(^o^)/


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 『惚れた相手くらい、自分で見つけてみせよ。その時には私――いや、センセイがその名において、祝福を与えよう』 ヤバいですね!  まさかナリユ卿がここで男を見せるとは。  相手が誠意を見…
[一言] これは苦労しそうだなあ
[良い点] 次で4桁に突入ですね。 日々楽しみにさせて頂いてます。 [一言] 旅の道中で行き倒れてたら、気が付いたら帝都にいたパターンがいいかなとは思いました。 (クウちゃんさまが見つけて回復させてこ…
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