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998 閑話・少女オルデはナリユキで再会して……。





「ねえ……。ナリユ、よね……?」


 いったい、どうしてこんなところにいるのか。

 眼の前にいる貧民かと思った青年は、公爵家のお坊っちゃまだった。

 間違いはない。

 トリスティン王国のナリユだ。


「ああ、そうさ! 僕さ! 君は、オルデだよね!?」

「うん……。そうだけど……」


 私はオルデ・オリンス。

 帝都の住民。

 ここは帝都。帝国。

 トリスティン王国とは山脈を隔てた遠くの国だ。


「よかった……。僕はまだ、精霊様に見放されていなかったんだね……。精霊様のお導きに感謝を……」


 あ。


 元気に微笑んだと思ったら……。

 まさに糸が切れたみたいに……。

 壁にもたれて座っていたナリユが、そのまま横向きに倒れた。

 動かなくなる。


「ちょっと!? ねえ、生きてる!? 死んでないよね!?」


 私は慌ててナリユを揺さぶった。

 だけど返事はない。

 ただ、息はあった。

 私は必死にナリユを持ち上げると、引きずりながら、どうにかリアカーのところまで運んだ。

 とにかく介抱しないと……!

 私は荷台にナリユを乗せて、急いで家に帰った。


「お母さん、ちょっといい!?」

「お帰りなさい、オルデ。大きな声でどうしたの? 何かあった?」

「拾った!」

「なにを?」

「男の子! 行き倒れ!」

「え」

「知り合いなのよー! 家に上げるから手伝って!」


 そこから先は大変だった。

 お母さんにも手伝ってもらって、ナリユを家に入れて。

 びしょ濡れだったので……。

 服を脱がせて、体を拭いて。

 傷の手当をして。


 ナリユは、有り金は全部取られたのね……。

 見事に一文無しだった。


 お父さんの服を着せて、他に場所もないので、私のベッドに寝かせた。


 お母さんには当然ながら、どこの誰なのかを聞かれた。

 私は返答に困った。

 正直には言えない。

 なので、以前に偶然に知り合った他国の人で、お金持ちのボンボン。

 なのに、なぜか1人で路地裏にいた。

 とだけ答えておいた。


 そんなこんなの内、


「ただいまー」


 お父さんが親戚の仕事の手伝いから帰ってくる。

 お父さんにも男を拾ったと話した。

 さすがに驚かれたけど……。

 知り合いなら放置もできないだろうと、許可はもらうことができた。


 ナリユは幸いにも、夕方には目を覚ました。


「おはよ」


 私が声をかけると――。


「ここは……?」

「私の部屋」

「君の……。ああ、オルデ!」

「ええ。そうよ。久しぶりね」

「ああ、ああ……。会えてよかった……。僕は、君に会いたくて、はるばる帝都を目指していたんだ……」

「へー」


 私はぶっきらぼうに答えつつも……。

 内心では、いろいろ思っていた。


 ナリユは、トリスティン王国の公爵家の人間。

 なのに以前、私に求婚してきた。

 ただそれは、私のことを聖国の貴族令嬢だと勘違いしていたからだ。

 その勘違いを正したら話は自然に消えた。

 ただ……。

 ソード様は言ったのだ。

 私がほしければ、自力で見つけてみせろ。

 と。

 そうすれば、ソード様どころか、その上にいるセンセイという存在が、私たちの仲を祝福してくれる、と。


 そして、ナリユは来た。


 私の人生、一発逆転の大チャンス到来?

 普通ならそんなの不可能だし……。

 たとえそうなっても、まわりが許してくれるはずもなく、私の人生は悲惨なものになると思うけど……。


 ソード様の後ろ盾があれば……。

 その上にいる人が認めてくれるというのであれば……。

 上手くいっちゃうのかも知れない……。


「オルデ、聞いてくれ」


 ナリユは身を起こすと、まっすぐに私を見つめてくる。


「はい」


 私も身を正した。


「実は、君にお願いがあるんだ」

「はい」

「僕を養ってください」

「はい?」


 え?


「僕は、君だけを頼りに、すべてを捨てて、ここに来ました。今の僕は、もう公爵家の人間でもなければ、貴族連合の盟主でもない。ああ、オルデ。僕のこれからの人生を導いてくださいお願いします」


 えっと……。


 目の前にいるボンボンは、いったい、何を言っているのだろう。

 私にはしばらくの間、理解することができなかった。


「ねえ、ナリユ」

「ああ、なんだい、オルデ」

「全部、捨てちゃったの? 地位もお金も?」

「ああ、そうさ。最後のお金も奪われてしまったからね。今の僕は、まさに正真正銘の無一文さ」

「……ねえ、ナリユ」

「ああ! なんだい、オルデ!」

「地位もお金もない貴方に、いったい、何があるのかしら?」

「愛があるさ!」

「他には?」

「優しさもあるさ!」

「……ねえ、ナリユ」

「ああ、ああ! なんだい、オルデ!」

「愛と優しさってさ……。どんなに貧乏でも、どんなに無能でも、どんなに阿呆でも、手軽に主張できる素晴らしい美徳よね」

「ああ、そうだね! 今の僕には、たくさんあるよ!」

「それは、自分が貧乏で無能で阿呆ってこと?」

「ああ、そうさ! 自慢じゃないけど、僕には何もできないからね! 剣も魔術も政治もからっきしだし、商売も得意ではないし、今まで1度も人に自慢できることはしたことがないんだ!」

「へー」


 どうして堂々と、輝く笑顔で無能を宣言できるのだろう。

 不思議だ。


 私は、思いっきり冷めた心の中……。


 目の前にいる青年を、どうしてくれようかと考えた。


 ただ、ここで完全に話の腰を折って。


 ぐうううう。


 ナリユのお腹が鳴った。


「とりあえず、夕食でも取りましょうか。もう準備できるてるから、実は呼びに来たところだったのよ」

「それは嬉しいな! いただくよ!」


 その前に、口裏合わせだけはしていおく。

 ナリユはトリスティンからの旅人。

 故あって、素性は言えないけど、家から飛び出してきた。


「あと、礼儀正しくすること。犯罪者と思われたらいろいろ大変だし」

「ああ、もちろんさ。そこだけは任せてほしい」

「……そうね」


 仮にも貴族なんだから、さすがに礼儀に問題はないか。

 ナリユは貴族なのに妙に腰も低いし。


「ちなみに夕食は、私の両親と一緒に取ることになるけど、大丈夫?」

「ああ、平気さ」

「ならいいけど……」


 不安はあるけど、うちに居候する気なら……。

 両親への挨拶は絶対に必要だ。


 ……というか、居候させることになるのよね、流れ的に。


 さすがに、衛兵に突き出すことはできない。

 お金もかかるし、宿も無理だ。

 かといって追い出せば……。

 一週間もしない内に、どこかの道端で野垂れ死んでしまいそうだし。











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― 新着の感想 ―
[一言] あかん……こいつやっぱり全然成長してなかったw オルデは頑張ってたのに
[一言] >「拾った!」 >「なにを?」 >「男の子! 行き倒れ!」 母親「元の場所に返してきなさい」
[気になる点] 馬車で2週間てことは帝都〜トリスティンの山脈を迂回した距離は東京〜鹿児島以内の距離ってことか 意外と近いね
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