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996 テスト!




 2学期の期末テストが始まった。


 正直、私は、ナリユ卿のことがものすごく気になってしまっていた。

 今すぐに探しに出かけた方がいいような気もする。

 ただ、現実的に考えて、捜索は難しい。

 というか無理だ。

 だって私の捜索は、敵感知と魔力感知によるものだ。

 敵であれば、魔力持ちであれば、探すことはできる。

 だけどナリユ卿には、どちらもない。

 普通の人だ。

 この広い帝国の中、大陸の中で、たった1人の一般人を探すなんて、とてもではないけど無理なのだ。

 それこそユイの言った運命力でもなければ……。


 ふう。


 とにかく今はテストに集中しよう。


 私は気を取り直して、目の前の算術の問題に取り組んだ。

 内容は理解できる。

 バッチリ予習したところだ。


 あとは、計算して、冷静に解いていくだけ……。


 がんばろう。


 カキカキ……。


 カキカキ……。


 窓の外では、弱い雨が降り続けている。

 教室には照明が灯っていた。


 そんな中、私は問題を解き続けた。


 やがてチャイムがなる。

 最初のテストがおわった。


「ふいー。ちかれたー」


 背もたれに身を預けて、私はゆったりと天井を眺める。


「クウちゃん、どうだった?」


 となりの席のアヤが話しかけてくる。


「うん。できたよー。アヤはどうだった?」

「バッチリだったよ。さすがに学年10位には入れないと思うけど、30位くらいなら目指せそうな気がするよ」

「おおー。優秀だー」


 そんなわけで、テストは順調に進んだ。

 そして、おわった。


 昼。


 ついに解放されて、私は心からの背伸びをした。

 結果は上々だ。

 名前はちゃんと書いたし、少なくとも赤点になることはないだろう。

 エカテリーナさんには、あらためてお礼をした。

 一緒に勉強してくれたみんなにも感謝した。

 ありがとう!

 ありがとう!

 その後、ショートホームルームを経て、私たちは教室を出た。


 外は、相変わらずの雨。


 私はアヤと一緒に、傘を差して歩いて正門から出た。


 私には大切な仕事がある。

 ナリユキでね……。

 ナリユキだけにナリユ卿を見つけないといけないのだ。

 ただ、当てはない。

 ナリユキで帝都にいるかも知れないとは思うけど。


 なので本当は、のんびりせずに、姿を消して、空を飛んで……。

 捜索するべきなんだろうけど……。

 とはいえ、帝都は広い。

 当てもなく飛び回っても発見の可能性は低い。

 というか、飛び回って探しても、お店の中にいたり路地にいたりすれば、見つけることはできない。

 特に今日は雨だ。

 通りを歩いている可能性は低いだろう。


 なので運命力を信じて、傘を差して歩いてみることにしたのだ。

 意外と、帰路で通りかかるカフェのテラス席にいて、「発見!」ってことになるかも知れないし。


「じゃあ、クウちゃん。また明後日ねー!」

「うん。またー!」


 アヤとは、いつもの交差点でお別れした。

 明日は休日。

 次に会うのは明後日だ。


 私は1人で、左右に目を向けつつ、雨の日の通りを歩いた。

 帝都には、雨の日でもそれなりに人の流れがある。


 その中で、いかにも貴族っぽい、イケメンではあるけど弱々しい、草食動物みたいな青年がいれば……。

 それがナリユ卿である可能性は高い。


 だけど残念ながら、見つからないまま我が家に到着してしまった。

 ユイ、私に運命力はなかったよ……。

 どうしようかなーと思いつつも、とりあえず帰宅する。


 普通にお店から入ると、


「あ、おかえりなさい! 店長!」

「おかえりなのである」

「ニクキュウニャーン、マスター」


 店番をしていたエミリーちゃんとフラウとファーが出迎えてくれた。

 お客さんはいない。

 エミリーちゃんとフラウは、カウンターの上に小さなにゴーレムを生成して可愛らしく踊らせつつ、勉強をしていた。

 ファーも同じように勉強していた。


「3人とも熱心だねえ」

「はい。今日は雨で、お客様もほとんど来ませんので、学院のテキストでお勉強をしていました」


 エミリーちゃんが店員口調で答える。


「エミリーは優秀なのである。1年生の範囲がおわりそうなのである」


 なんと。

 いつの間に。


「ファーと一緒に店長に教えてあげられるように、わたし、もっともっとお勉強も頑張りますねっ!」

「う、うん。ありがとね……」


 まだ9歳のエミリーちゃんに混じり気のない笑顔でそう言われて……。

 私の笑顔は、ほんの少しだけ、引きつったのでした。


 この後、少しだけ休憩して――。


 私は再び、今度は『透化』と『浮遊』を使って。

 雨を気にしないで済む幽霊さんスタイルで、帝都の町へと出た。


 さあ、果たして。


 私の運命力は、ナリユ卿に繋がるのか。

 がんばろう。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 失踪してから2週間ならまださすがに帝国まで来てないかな 何キロ離れてるか分からないけど、情報収集が困難な距離らしいし
[一言] さて見つけることはできるのか
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