994 12月になりました。
時が過ぎるのは早い。
ついに、たくさんのことがあった今年も、あと一ヶ月になりました。
12月です。
朝もすっかり寒くなって、布団から出るのが億劫です。
でも、学校があるので頑張って起きます。
身支度を整えて2階のリビングに降りると、いつものようにヒオリさんとフラウがいました。
「ヒオリさん、フラウ、おはよー」
「おはようございます、店長」
「おはようなのである、クウちゃん」
「ファーもおはよー」
「ニクキュウニャーン、マスター」
ファーもいつも通りに稼働している。
3人で朝食をいただく。
今日のメニューは、サンドイッチ。
大きなバケットに新鮮な野菜がたくさん挟まれていて美味しそうだ。
私が食べるのは、3分の1にカットしたものだけど。
さすがに1本は多すぎる。
ヒオリさんとフラウは、普通に何本か食べる。
相変わらずの食欲だ。
いただきまーす。
パクパク。
「店長、テスト勉強は調子良いようですね」
「まあねえ。放課後に毎日、丁寧に教えてもらっているからねえ。問題なくクリアできそうだよお」
エカテリーナさんには頭が上がりません。
感謝なのです。
ただ、さすがに毎回は申し訳ない。
次からは、ちゃんと自分の力で頑張るつもりだ。
でも、頑張れるのだろうか、私……。
自分でやれると言った挙げ句に落第点では、まさに本末転倒……。
それを考えると……。
なかなか言い出せないのですが……。
私がそのことを愚痴ると、フラウが提案してきた。
「クウちゃん、ファーに学習させるのはどうであるか? 内容に加えて、人への教え方も含めて」
「できるんだ?」
「おそらくは、できるのである。ファーに思考能力を形成させる、良い訓練にもなりそうなのである」
お願いしてみることにした。
成功すれば革命だ!
まあ、うん。
そんな手間をかけるならフラウが私に直接教えてくれれば……。
とは思わなくもないけど……。
フラウは恐縮して、私には教えてくれないのだった。
にわかには信じられない話だけど……。
フラウは未だに、私の頭脳を自分以上だと信じている様子なのだ。
学校の勉強は、私が天才すぎるが故に簡単すぎて逆にわからない。
のだと……。
すごいね、私……。
ヒオリさんは学院長なので、テスト前に私に教えるのは倫理的に問題がある。
普段なら教えてくれるそうだけど……。
普段から家で勉強するなんて有り得ないので却下させてもらった。
いろいろと難しい問題なのだ。
ちなみにテストは明日。
テストがおわったら、その翌日の朝にはユイに会う予定だ。
終戦の調印式の日程を聞かねばならない。
上手く話がまとまっているといいけど。
交渉には、私は関わっていない。
関わったところで難しい話なんてわからないし、寝ちゃうだけだしね……。
まあ、うん。
きっと、問題はない。
エリカとユイは、しっかり者で頼りになる子たちだ。
カメの子のナオだって頑張ってきた。
なんとかしてよクウえもーん。
という3人の声が気のせいか聞こえたけど、まさに幻聴だろう。
朝食を取った後は1階に降りて、お店の確認をする。
棚よし。
床よし。
どこもピカピカで、商品も揃っている。
うん。
エミリーちゃんとフラウがしっかりやってくれているので、私は商品の生成以外にすることがないねっ!
学校に行く。
教室は今日も賑やかだ。
みんなに「おっはよー」した後、今日はアヤがまだ来ていないので――。
教室を見回して、私はラハ君のところに行った。
「ラハ君、朝から頑張ってるねー」
ラハ君は勉強していた。
「そうだね。僕は次こそ、学年20位までに入るつもりだから」
「すごいねー。私には夢のまた夢だよー」
ラハ君は前回、総合上位には残念ながら入れなかった。
それでもこのクラスでは上位だった。
ちなみに最強のクウちゃんさまは、最下位のレオとは僅差で、このクラスで下から2番目でした。
私が感心すると、ラハ君は苦笑混じりに言った。
「……うちは、まわりの人間がうるさいから。ちゃんとした成績を取らないと、肩身が狭くてね」
「あー。なるほどー」
ラハ君は、帝国を代表する大商会のひとつ、シャルレーン商会の跡取り。
シャルレーン商会は歴史ある合議制の商会。
跡取りは象徴的な存在。
実権は、ほとんどないという。
だけど、それ故に、外観の良さは求められるのだろう。
大変だ。
ちなみに兄のボンバーは、とっくに跡取りの資格を投げ捨てた。
姉のシャルさんも、とっくに本家の義務を投げ捨てた。
がんばれ、ラハ君!
シャルレーン家の未来は君にかかっているぞ!
と、無責任に応援はできないけど……。
潰れてしまわないように、頑張ってほしいものだ。
私はラハ君から離れた。
教室では、エカテリーナさんがクラスの女子に羨ましがられていた。
「すごいですね、エカテリーナさん! またセラフィーヌ様からのお誘いを受けたんですよね!」
「もうすっかり仲良しなんですね!」
あーこれ、エカテリーナさん、困ってるヤツだ。
何しろ呼ばれて話すのは、私の勉強方針についてだろうし。
と思ったのだけど……。
「ふふ。そうですね。まさか私自身、ここまで殿下に信頼を示していただけるとは予想もしていませんでしたが――。光栄なことです。私も精一杯、応えさせていただきたいと思っています」
エカテリーナさんは、ものすごく鼻高々だった!
うん!
本気で嬉しそうにしている!
実は内心で困っているような様子は、まったくない!
「クウちゃん」
エカテリーナさんが、くるりと私に顔を向けた。
そして言った。
「今日もお勉強を頑張りますよ! 最後の放課後ですからね! 前回よりも良い成績を取りますよ!」
「う、うん……。頑張るね……。ありがと……」
「クウちゃん」
「は、はい……」
「皇女殿下の期待に応える為にも、お互い、全力でやり抜きましょう」
嫌味でないことはわかる。
エカテリーナさんは本気で言っている。
私は思った。
これは、アレだねえ……。
今後の勉強会は不要です、なんて、逆に迂闊には言えないね……。
皇女から頼み事をされるのは、本当に光栄なことなのだろう……。
立派な成績を取って……。
円満終了にするしかなさそうだ……。
頭が痛いです……。
 




