984 遺跡の広場
私たちはキャンプ場を抜けて、さらに森の奥に進んだ。
その先には古代の遺跡がある。
崩れた廃墟の点在する寺院跡のような広場だった。
奥にある廃墟は大樹に絡まれて一体化している。
鏡面のようになっている池が、苔むしたそれらの廃墟を映していた。
ダンジョンは、脇に建つ円形の廃墟の中にある。
廃墟の手前にはフェンスのゲートがあって、そこで衛兵さんたちが冒険者の出入りを管理している。
「おお、クウちゃんさんではありませんか!」
遺跡についたところで、待機していた冒険者から声がかかった。
声をかけてきたのは、背中に大剣を背負った筋肉のかたまり、元学院生で爆発野郎のボンバーだ。
冒険者の中には、ボンバーズの面々がいた。
私は気づかないフリをした!
「……クウちゃん! タタさんがいたよ、タタさん!」
「いたねー」
幸いにもアヤは、お気に入りのタタくんにご執心していた。
タタくんもボンバーズの一員。
アヤと同じ犬人族。
実質的にボンバーズをまとめているしっかり者だ。
遺跡広場で整列したところで、先生が言った。
「これから参加者は、冒険者の護衛でダンジョンに入ります。最大8人となるように班単位で組んでください」
「しゃーねーな。おい、クウ。おまえの面倒は俺が見てやるよ」
なんか、ものすごーく嫌そうな顔でレオに言われた。
「え。べつにいいけど……」
むしろ面倒を見ること確実だし。
「なら決定な」
あ、拒否したつもりが、なんか逆の意味で取られた。
「よかったな、マイヤ! レオさんと一緒なら、ダンジョンでも安心だぞ!」
すかさずカシムがヨイショする。
レオが私を指さして、呆れたように言うには、
「こいつ、野外研修の時も、好奇心だけで参加して、結局、スケルトンにビビって奥に隠れててよ。困ったモンだよな」
わはははは!
クラスの男子どもが盛大に笑ったぁぁぁぁ!
…………。
……。
まあ、いいんですけどね。
私は大人なので、そのくらいでは怒らないのだ。
そもそも力は誇示したくない。
どちらかといえば、劣等生でいいのだ。
「貴方たち、クラスメイトを笑うとは、どういう了見ですか。後で処分を受けることになっても知りませんよ」
エカテリーナさんが注意してくれて、すぐに静まったしね。
ただ、うん。
「……クウちゃんも、1人で歩いたり、1人で騒いだりせず、ちゃんと指示に従うんですよ」
そのエカテリーナさんにまで、なぜか注意されたけど。
ちなみにエカテリーナさんは待機組だ。
ダンジョンには入らない。
うちのクラスだと、女子は大半が待機組だった。
まあ、うん。
お嬢様ばかりだしね。
当然と言えば当然か。
しかし、それはともかく……。
「ねえ、アヤ」
「どうしたの、クウちゃん」
「私ってさ、ちゃんとルールは守るし、大人しいし、1人で騒いだりなんてしない素直ないい子だよね?」
「え。……あ、うん! そうだよね! 私もそう思うよ!」
なんか挙動不審だけど、まあ、いいか。
そうだよね!
うん。
おかしいのはレオの方だし!
ぜーったい、レオがダンジョンの中でやらかして……。
私が迷惑をこうむるハメになるのだ。
そんなフラグの予感しかしないのだ。
まさに後始末のために、パーティーを組まされたようなものなのだ。
パーティーが決まったところで、護衛の冒険者が付いた。
うちのパーティーの護衛は……。
なんと……。
「あー……」
アヤががっくりと肩を落とす。
「惜しかったね」
残念ながらタタくんは、となりのパーティーの担当になってしまった。
私たちの護衛に付くのは『黄金の鎖』という冒険者パーティーだった。
私は、彼らのことを知っている。
去年、ディシニア高原の大規模調査を行った時――。
難敵のフロスト・ギガントを見事に討ち倒して、式典でその武勇を大いに称えられたパーティーだ。
私は、戦いの現場は見ていないけど、式典には参加していたのだ。
レオも『黄金の鎖』の武勇は知っていたようだ。
大喜びで挨拶する。
「俺も冒険者目指してるんで、今日はいろいろと教えてください!」
「よろしく頼む。俺たちは地方の出でな、帝都中央学院の生徒に教えられることはほとんどないと思うが――。そうだな。これでも実績だけはあるから、何かの参考にしてもらえれば嬉しいよ」
リーダーの男性は謙遜して言うけど、『黄金の鎖』は堅実で隙のない信頼度の高いパーティーだと聞いている。
彼らの仕事は、きっと、レオには良い勉強になることだろう。
いやー、うん。
ボンバーにならなくてよかった!




