983 嵐の後
「ごめんね、キオ。キオに用はないから、帰って?」
私はできるだけ優しくお願いした。
風の吹く空の上だ。
すると、キオが……。
信じられないといった顔をして……。
何度かまばたきをして……。
「ふえ」
と、可愛らしい唇を、小さく変なカタチにして……。
「ふえーん! ふえーん! どうして私にだけ意地悪するのよー! 仲間外れなのはヤダー! 私も仲間に入れてよー!」
泣き出したぁぁぁぁぁ!
あわせて、嵐が吹き荒れるぅぅぅ!
空の上だと、さすがの私もバランスを取るのが厳しいぞぉぉぉぉ!
この後、頑張ってあやした。
いったい、いつから私は保育士になったのか……。
ともかく……。
「……ほんとに? 本当に私、オトモダチ?」
「うんっ! ほんとほんとっ! キオは大切なオトモダチだよっ!」
「ならいいけど……」
そんな感じで納得してもらって。
帰ってもらった。
疲れた。
なんか、怒涛の2連続で、私は本気で疲れました。
ふらふらと広場に戻る。
あー。
ふと見れば、施設の前に設置されていた魔石買い取り所のタープが、竜巻で倒壊してしまっていた。
その下にあった魔石や道具類も散乱してしまっている。
ただ、幸いにも……。
建物に影響はなかったようだ……。
おっといけない!
「エリアヒール!」
回復魔法はかけておかないと!
怪我人がいたら大変だ!
回復魔法を受けたことで、かかっていた睡眠魔法の効果は切れた。
みんなが目覚め始める。
「アヤ、おはよ」
私はアヤのところに行った。
「あ、クウちゃん……。私たち、また倒れちゃったんだね」
「みたいだねえ」
私も、うん、目覚めたフリをしました……。
ごめんよー!
「今度は、すごい風だったね。びっくりしたぁ」
「だねー」
すぐに先生が点呼を取る。
学院生は全員無事だった。
よかった。
職員の人にも怪我はなく、すごい風だったとタープの下から出てきた。
この後……。
本当に幸いにも……。
竜巻は、突然の自然現象として認識された。
私たち学院生は予定通り、通りから森の中へと続く道に入って、冒険者たちのキャンプ場の見学へと向かうことになった。
魔石買い取り所の片付けは、職員の人たちだけですることになった。
先生は手伝いを申し出たけど……。
それについては、職員の側からご遠慮されてしまった。
ホント、スミマセン……。
私のせいではないけど……。
うん。
私は悪くないよね!?
でも、じゃあ、私に責任がないかと言えば……。
悲しいけど……。
幼女たちの管理不行き届きですよね……。
今度、こっそり寄付するので、それでどうか許してください……。
キャンプ場には、水柱や竜巻のことで盛り上がる内――。
通りからそれほど離れているわけではないので、森の道を抜けて、すぐに到着した。
キャンプ場は、ただの空き地というわけではなくて、キチンと整えられた施設だ。
屋根のついた炊事場に加えて、トイレや洗い場も完備されていた。
綺麗な井戸水もある。
滞在には魔石取得の実績が必要だけど、ノルマはキツくないので、中には年単位で滞在する人もいるそうだ。
実際、たくさんのテントが立ち並んでいる。
午後の時間……。
のんびりくつろぐ冒険者たちの姿も、いくらかあった。
「あそこで休んでいる人たちは、夜間組なんだぜ。ダンジョンは、昼はどうしても混むから、実力に自信があるなら夜の方が効率的なんだってよ」
レオがクラスメイトの男子に語っていた。
「レオさんも、ここでやるとするなら夜間組ですね!」
お約束でカシムがヨイショする。
「だな!」
レオは、まだデビューすらしていないのに、すっかり実力者気取りだ。
いいんだろうか。
とは思うけど、私が説教してもね。
冒険者たちの近くを通りかかると、レオが自分から声をかけた。
「さっきはどうもー! 兄さんたち、話、ありがとなー!」
「おうよ! 研修頑張れよ!」
「おう! 完璧だぜ!」
打ち解けた様子のある、フレンドリーなやり取りだった。
レオは、俺は貴族だと威張ることも多いけど、一方で、平民のボンバーが憧れの先輩だと普通に言ったりもする。
そういう意味では意外と冒険者の世界で、上手いことやっていけてしまうのかも知れない。
私たちは、キャンプ場を歩いて、軽く見学した。
その後、先生からのサプライズがあった。
なんと!
にゃんと!
特別に少しだけ、ダンジョンに入れることになったというのだ!
うん。
毎年の恒例なので、みんな、知ってたけどね!
早速、希望者が募られた。
私は、元気に明るく、すぐに手を上げさせてもらった。
アヤとダリオとラハ君も参加を決めた。
ダンジョンは普通に暮らしていれば縁のない場所だ。
せっかくの機会だし、体験してもいいよね!




