982 ランチタイム! 水柱! 竜巻!
私たちは、通りに面したレストランに入った。
一般のお客さんのいる1階のフロアを抜けて、2階に上がった。
2階は学院の貸し切りだった。
班ごとに席に座る。
私は、アヤとラハ君と、逃げていったダリオと――。
4人で丸い木のテーブルを囲んだ。
注文はしない。
自動的に出てくるようだ。
「ねえ、クウちゃん。なにが出てくると思う?」
「んー。そうだなー。森の中だし、やっぱり盛り合わせかなー」
もり、と、もり、的に。
もりもり。
「なんの?」
「えっと、なんだろね……」
アヤに嫌味なく聞かれて、私は困った。
「ルシーデ、今のはマイヤ的には、森のモリと盛り合わせのモリをかけたことに対する恐らくは冗談だ」
ダリオが冷静な声で解説してくれる。
「あーそっかー。ごめんね、クウちゃん。面白かったよ!」
「うん……。ありがと……」
「盛り合わせと言えば、僕はポテトとソーセージが好きかな。定番だけど」
ラハ君が気を利かせて、ふんわりと話を進めてくれた。
そこにアヤが乗っかって、どんなソーセージが好きかで盛り上がった。
うん。
優しい班員たちで私は幸せ者です。
そんなこんなの内――。
私たちのランチが運ばれてきた!
わーい!
私はわくわくして出迎えたのだけど……。
並んだのは……。
バケット、チーズ、野菜のハーブスープ、干し肉。
あと、水。
実にシンプルだった。
お皿がみんなに並んだところで、先生が言う。
「今日の昼食のテーマは冒険者の食事です。
このマーレ古墳は冒険者の町。
今日は、冒険者が冒険の中で食べている食事を再現していただきました。
みなさんも冒険者になった気持ちで味わってみてください」
なるほど、さすがは学院。
意識が高い。
ぱくぱく。
ごちそうさまでした。
味は、スープについては普通に良かった。
パンと干し肉は硬めだったけど、スープに浸けると柔らかくなって、味も付いて美味しく食べられた。
食事の後は、しばらくの自由時間だ。
班ごとに別れて、それぞれ好きに行動することができる。
だいたいの班は、通りの散策に出かけた。
私たちは森の道を抜けて、湖を見に行く。
今日の天気は晴れ。
湖は、赤色や黄色の混じる秋の森と、澄んだ青空を映して――。
本当に鏡みたいにキラキラと輝いていた。
「綺麗な場所だね。それこそ水の精霊様がいそうなくらいに」
「本当にいるのかも知れないな……」
「みんなでお祈りしてみよっか! 来てくれるかも!」
ラハ君とダリオとアヤが、湖面に向かってお祈りを始めた。
「ほら、クウちゃんも」
「あ、うん」
アヤに促されて、私もとりあえずは……。
――えー。あー。
――水の精霊さま、水の精霊さま、聞こえますか?
――聞こえたら応答をお願いします。
――こちらは、かわいい精霊さんですよー。
なんて呼びかけてみた。
私はこの時、湖の水の精霊と聞いて……。
童話に出てくるような感じの、穏やかで優しいお姉さんを想像していた。
こう、なんというか……。
ふんわりと静かに、上品に湖面から現れる感じの……。
だけど……。
うん。
どこからともなく聞こえてきたのは……。
――聞こえるなのー!
という、元気で幼い弾むような声だった。
湖面が揺らめく。
強い魔力を感じた。
いかん!
思った時には、手遅れだった。
激しく湖面が跳ねた!
跳ねるだけならよかったけど、そのまま天高く水柱があがった!
派手だぁぁぁぁ!
まわりにいた人たちも当然気づいたぁぁぁぁ!
「じゃーん! 呼ばれて、こんにちはーなのー! こんなに早くまたコッチに来れるなんて嬉しいなのー!」
その水柱の中から、水の大精霊な幼女、イルが現れたぁぁぁぁ!
私は素早く対応した。
「スリープクラウド!」
からの――。
飛行!
水色の髪のイルを脇に抱えて、私は遠くの空に離脱した。
アヤたちには、しばらく寝ていてもらおう。
ごめんね!
ちなみに水柱については、派手に崩れたりして波を立てることなく、静かに湖面へと消えていってくれた。
「やっほー、イル」
「クウちゃんさま! イル参上なの! 今日は何をして遊ぶのなの!?」
「ごめんねー。間違えただけなのー。帰っていいよー」
イヤなのー!
と、ダダをこねられたけど、帰らせた。
ふう。
上空からよく見れば、湖の中に精霊界へのゲートがあった。
なので声が届いてしまったようだ。
迂闊でした。
という思わぬ事故もありましたが――。
なんとかごまかして!
うん。
ごまかせるものではないのですが!
すごい自然現象だったね!
感動だね!
え?
アヤ、水柱の中に小さな女の子を見た?
またまたー!
気のせいだよー!
でも、精霊さんかも知れないねっ!
だったら素敵だねっ!
なんて感じで、私は必死に無邪気な子を演じて……。
人が集まって来ちゃったけど、すごかったよー! で、感動を共有して、こちらもなんとかごまかして……。
時間が近づいたので……。
私たちは興奮の冷めやまない中、商業ギルド前の広場に戻った。
集合時間、5分前。
すでに大半の生徒は集まっていた。
さすがは学院生。
ただ、うん、見る限り、まだレオがいないね。
「ねえ、エカテリーナさん。レオたちは?」
「さあ……。どこで何をしているやら。町や冒険者の方と、喧嘩とかになっていなければいいですけど」
「だねー」
話していると、レオたちが戻ってきた。
「クウ、おまえ、湖を見に行くとか言ってたよな? なんか、湖の方がすごかったんだって? 俺、キャンプ場で冒険者の先輩方に話を聞いてたから、そっちは全然わからなかったんだけどよ」
「俺たちも、いい経験にはなりましたよね」
「だな。やっぱ先輩からは、いろいろと学べることが多いな」
レオとカシムの態度を見るに、冒険者の先輩方を見下して、貴族の息子として大いに横暴を働いてきた、とかの様子はない。
「レオ、成長したね……」
私はしみじみと、レオの肩をポンポンと叩いた。
「はぁ? おまえには言われたくねえよ。それより湖の方は――」
その時だった。
「おい、あれ!」
誰かが空を指さして叫んだ。
「竜巻か!?」
「竜巻だ!」
「うわああああ! 来たぞおおお!」
「逃げろおおおおお!」
「無理ぃぃぃぃ!」
「きゃああああ!」
竜巻は、あっという間に、私たちのいる広場に降りて。
ものすごい風を撒き散らした。
「スリープクラウド!」
ごめんみんな、少し寝てて!
「いったい、どういうことなの! イルだけ呼んで私は呼ばないなんて! 仲間外れなんて酷いじゃない! そういうのはいけないのよ! 遊ぶなら、私もちゃんと混ぜなさいよね!」
竜巻の中から風の大精霊な幼女、キオがいきり立って現れた!
「あー、もう! 行くよ!」
私はキオを抱えて、空の上に飛んだ。




