980 社会見学! 馬車は街道を進む
こんにちは、クウちゃんさまです。
さあ、今日は!
ついに!
待ちに待った――。
というほど、キタイしていたわけではありませんが……。
でも、いくらかは楽しみにしていた――。
キタイ……。
キタイは、うん、したいよ……。
したいですけど……。
普通科クラスのみんなで行く、ダンジョン町への日帰り社会見学の当日です。
天気は晴れ。
準備したものは、水筒っ!
学校側から指示されたわけではないけど、やっぱり遠足といえばこれだろうということで、肩からかけましたっ!
他には特になしです。
お気軽です。
昼食は、ダンジョン町にある食堂で食べるそうです。
どんなものが出るのか楽しみです。
残念ながら社会見学では、おやつは1人300円まででーす。
とかはなかった。
おやつは、持っていかないようだ。
「おっはよー!」
教室に入る。
みんな、いつも通りだ。
朝の挨拶をしていると、机の上に座っていたレオとも目が合った。
「なあ、クウ。それ、なんだ?」
「ん? 水筒だけど?」
「水筒? 子供の遠足じゃあるまいに、なんで持ってきてるんだよ」
「いや、うん。子供だよね、私たち」
まだ12歳だよ?
「レオの方こそ、なんで腰に剣なんてぶら下げてんのさ。危ないでしょー」
「今日はいいんだよ。なにしろ、マーレの町に行く途中で魔物が出たら、退治しないといけないだろ」
「出ないよー。そもそも護衛の人の仕事でしょー」
「ふふー! 見ろよ、この輝き!」
教室で剣を抜いちゃった。
しかも真剣だ。
「そして、この腕前!」
うわ!
しかも振り回した!
バカかぁぁぁぁ!
「はい。没収です」
預からせていただきました。
「え。お。あ」
「ねえ、エカテリーナさん。今日は、剣を持っていくのはアリなの?」
「許可を得た生徒であれば、校外に出る日には、自衛のための帯剣は許されているはずですね、残念ながら」
「そかー」
「俺は、ちゃんと許可は取ったぞ」
「取れたんだ?」
「ふふーん。俺には、家柄と実績があるからな」
「あー」
野外研修で、なぜか活躍したことになっていたね、そういえば。
あと貴族の子か。
「でも、教室で振り回すのはダメでしょ?」
「わかってるって。さっきのは、ちょっと見せただけだろ」
「もうやらない?」
「おう」
「はぁ……。約束だからね」
危なっかしいことこの上ないけど、仕方なく返した。
私は自分の席に着いた。
「クウちゃん、すごいね。今の、どうやったの?」
アヤが聞いてくるけど、それについては笑ってごまかした。
あははー。
なんか咄嗟だったよー。
と、朝からそんなこともありましたが……。
あとは問題なく。
私たちはそれぞれに馬車に乗って……。
かたこと、かたこと。
まずは大門から帝都を出て、田園の中の街道を進んでマーレ古墳のダンジョン町を目指すのでした。
「うわぁ……。ついに帝都から出ちゃったねぇ……。魔物とか、ホントに大丈夫なんだよね……」
「あはは。普通に農作業してる人、たくさんいるよねー」
外の景色は平和だ。
田園には、冬の作物の手入れをしている人たちの姿が多くあった。
「そっか。そうだよねえ、平和かぁ」
アヤは外の景色に夢中だ。
ほとんど帝都から出たことがないそうだから、当然だろうけど。
さっきから、犬耳がぴこぴこしていて可愛い。
「ルシーデさん、まるで魔物に出てほしいみたいだね」
なんとなく落胆したように見えたアヤの様子に、ラハ君が苦笑する。
ボンバーの弟だけど、ボンバーとは真逆の真面目で温厚な青年、ラハ君も同じ馬車に乗っていた。
ちなみにルシーデというのは、アヤの名字です。
「この隊列には金持ちの子供ばかりが乗っている。現れるとすれば、むしろ強盗の方だろうな」
メガネをくいっと持ち上げて、なんとも物騒なことを言うのは――。
クラスメイトの成績優秀なメガネ男子、ダリオだ。
馬車には私を含めて、この4人が乗っていた。
うん。
学院祭の時に、共にパティを担当した仲間たちだね。
その縁もあって同じ班になった。
まあ、実際には……。
先生に勝手に決められただけなのですが。
馬車の外の景色は、やがて田園から丘陵へと変わった。
マーレ古墳への道は、正直、しょっちゅう使っている。
だけど大半の場合は、空の上を飛び抜けるだけなので、こうしてゆっくりと眺めるのは私にとっても新鮮だ。
お。
若い冒険者パーティーが、マーレ古墳の方から歩いてくるね!
4人組だ。
ダンジョンで稼いで、帝都に凱旋するところなのかなー。
通り過ぎざまにちらりと顔を見れば……。
知っている顔だった。
ロックさんを目指して田舎から出てきたパーティー『山嵐』の子たちだ。
以前、夏休みに、マウンテン先輩たちとダンジョンに行った時、揉めたり助けたりいろいろとあった子たちでもある。
彼らは冒険者ギルドに新設された、下水道関連の依頼をこなせば新人研修が無料で受けられる制度、を利用して基礎を学び直した。
そのことはリリアさんから聞いた。
そのおかげか、随分と自信に満ちた、堂々とした落ち着いた顔つきになっているようにも見えた。
以前は本当に、勢いだけだったし。
「おーい! 山嵐のみんなー! 久しぶりー! 頑張ってるかーい!」
私は窓を開けて、馬車から身を乗り出して声をかけた。
突然、声をかけられて――。
振り向いた彼らは驚いた顔をしたけど――。
すぐに、それが私であることに気づいてくれた。
「おうよー! 頑張ってるぜー! このマコット様の英雄伝、絶対に帝都に轟かせるから楽しみにしてろよー!」
「うんー! 楽しみにしてるー!」
「あと、あの時はありがとなー! 助かったぜー!」
「どういたしましてー!」
進み続ける馬車が、彼らから離れていく。
手を振りつつ、笑顔でお別れした。
「友達なんだ?」
席に戻ると、アヤが聞いてきた。
「友達ってほどじゃないけど、前に知り合った子たちなんだ。田舎から出てきて頑張ってる新人の冒険者」
「へー。すごいねー」
「まだ若いのに、レオ様たちより何倍もしっかりしてそうだったね」
思わず本音をラハ君がつぶやいて、
「あ、ううん。今のは、その」
「そうだな。俺もそう思った」
「やっぱりさ、本気でやってる人たちは、なんか雰囲気があるよね。ボンバーズの人たちもそうだし」
ダリオがラハ君に同意すると、アヤもそれに続いた。
私たちは笑った。
久しぶりの顔に会えるのは嬉しい。
しかも、元気な様子なら、さらに嬉しいね。
私はいい気持ちになって、かたこと、かたこと、馬車に揺られるのでした。
『山嵐』の前回の出番は、
736 先輩たちとダンジョン探索! から――。
740 閑話・パーティー『山嵐』のその後 までです。




