98 ヒオリとゼノのショートコント2(アンジェリカ視点)
「ショートコント、決闘」
ヒオリさんとゼノが、少し距離を取ってそれぞれ架空の剣を構える。
「ついに決戦の時だね、ひおりん!」
「よくぞここまで来たとほめてやろう、ぜのりん!」
「いくよ!」
「とりゃー!」
「闇の炎!」
「ぎゃー!」
「勝った……。ついに、ボクは勝った……」
って、ねえ。
ヒオリさん、本当に黒い炎に包まれて、もんどり打ってない?
……演技なの、あれ?
「て、てててて店長っ! ヘルプ、ヘルプですー!」
「ディスペル。ヒール。リフレッシュ」
クウがいとも簡単に、白魔法をヒオリさんに連続してかけた。
すると、ヒオリさんを包んでいた黒い炎は消え、ヒオリさんの体についていた傷は一瞬のうちに消えた。
「ひ、酷いではないですか、ぜのりん! 本当の攻撃は反則です!」
「ごめんごめん。つい」
ゼノがペロッと舌を出してごまかす。
「ああああああっ! 店長にもらった服がボロボロにー!」
「また作ってあげるからいいよ。それよりゼノ、今の演技じゃなかったの?」
クウがたずねる。
「演技っ! 演技だよ!?」
「ホントに?」
「ホントにホント! なんだか楽しくなっちゃって、ちょっとだけ調子に乗っちゃったんだよー! ねえ、ひおりん!?」
クウの冷たい視線にさらされて、ゼノは本気で怖気づいた様子だ。
「……は、はい。某は死にかけましたが、あくまでコントの内容なので今回については許してあげてください」
「ゼノ、わかってるよね? セラたちには絶対にダメだからね?」
「はいっ!」
ビシっと敬礼してゼノは答えた。
クウって、たまに真顔になると、ものすごく迫力あるわよね。
「ならいいか。コントは素晴らしかったよ」
「ありがとうございますっ!」
「最後のはアレだよね。剣と剣での決闘なのに、どうして魔術なのーっていうオチだったんだよね?」
「いえ、違います」
ヒオリさんが否定した。
違うのか。
私もクウの言った感じだと思ってたけど。
「最後のは、ですね。某が黒い炎に包まれ、ゼノ殿が」
「ぜのりん」
ゼノが呼び名を訂正する。
「ぜのりんが勝利を確信する中、
某が『ダークネス! パワーアップ!』と叫んで力強いポーズを取り、
ぜのりんが『オウ! 闇属性!』
と驚いて怯んでおわるのが正しいオチです」
「意味わかんないわね」
しまったぁ!
つい思わず、余計なツッコミを口に出してしまった!
クウが相手ならともかく、ヒオリさんやゼノとは、まだそこまで親しいというわけでもないのに!
ただ、幸いにも嫌な顔はされなかった。
「アンジェ殿、意味はいらないのです。
ただ感じればよいのです。
ドントシンクです。
フィールです。
ただ感じて、ただあるがままに笑う。
それこそが、そう――きっと、ふわふわの極意なのです」
「……そうなの?」
ヒオリさんの力説に、私は思わずクウを顧みた。
「まさに」
クウは腕組みしてうなずく。
「そうなんだ……」
知らなかった。
ふわふわって、そういうものなのね。
あるがままに、か……。
たしかに、それはクウの本質よね。
とても簡単そうで、とても難しい言葉だ。
シルエラさんは、ぴくりとも頬が動いていないけれど。
さて、そして。
またも一礼すると、ゼノが片腕を上げた。
「ラスト!
ショートコント、馬」
ヒオリさんが四つん這いになる。
そして歩きながら歌う。
「おうま、ぱっかぱっか♪ おうま、ぱっかぱっか♪ わたしーはーおーうーまー」
そこにすかさずゼノが突っ込む。
「君は鹿だよ!? ボクと同じ鹿だよ!」
「――!?」
ハッとするヒオリさん。
あたりを見回した後、
「そうなの?」
「そう!」
「そ、そうなのかー」
てへっと自分の頭を叩いて、
「「鹿!」」
2人並んで、なんかカッコいい感じのポーズを取った。
最後に姿勢を整えて、一礼。
クウとセラとエミリーは、きゃいのきゃいのと相変わらず大盛りあがりだ。
私も最後の「鹿!」には、正直、クスリと来た。
しかしシルエラさんに変化はなかった。
「シルエラ、我慢しなくても面白ければ笑ってもいいんですよ……?」
心配したセラが優しい言葉をかけるけど……。
笑いのツボは人それぞれ。
なかなかに難しいところよね。
「姫様が笑えと仰せならば笑いますが」
「笑うのは、本当に面白かったらです。これは大会なんですから、愛想笑いなんていりませんからね」
「では、素直な自分でいさせていただきます」
シルエラさんは、実にクールね。
うわ。
ヒオリさん、ゼノ、エミリー、クウが、なんかダメージを受けてフラつき始めた。
まるでゾンビみたいに。
「つ、つまり、某たちは面白くなかった……」
「ボクの感性が通じないなんて……」
「……わたし、実はこのままタレントになれるかもって思ってたよ」
「うんめえ……うんめえ……」
「ク、クウちゃん!?
それにみんなも!
どうしたんですか!?
しっかりしてくださいっ!」
気づいたセラが必死に介抱しようとする。
シルエラさんは静かに目を閉じた。
もう本当に。
みんな、しょうがないわね。
「はいはい」
私はパンパンと手を叩いてみんなの注目を集めた。
「みんな、次は私の番なんだからね。
そんな即興の芸をしていないで、きちんと観客席に戻ってよね。
ホントにもう――。
みんな、しょうがないんだから」
さあ、まさに真打ちの登場といったところね。
私には自信があった。
何故なら私は、思い出したのだ。
新年会の時、尊敬するおじいちゃんがやっていた芸を。
エミリーくらいの頃に、一度だけ見た。
お酒も飲むパーティーなので、私は未成年だから参加できなかったけど……。
こっそりと窓の隙間から覗いた。
それは、みんなが心からの笑顔を見せる本当の芸だった。
毎年恒例らしかったけど、どれだけ繰り返されても色褪せることなく、みんなを笑顔にしていた。
クウたちにも、教えてあげよう。
「これから私が本当の芸を見せてあげる。よく見ていなさいっ!」




