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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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972 クウちゃんさまの後始末




 神殿前の広場に私が降り立つと――。


「ひいいいいいいいいい! 来たなの! 来たなのおおおお! もはやこれまでなの世界はやっぱりおしまいなのおお!」


 水色の髪の幼女が身を返して、全力で神殿の中に逃げていった。

 すぐにその気配は消えるけど、私にはわかる。

 精霊界に逃げたのだ。


 私は慌てず、お姉さまに証言を求めた。

 水の龍を呼び出して暴走させたのは、逃げた彼女で間違いないようだ。

 となれば、オハナシは必要だね。

 私は精霊界に入った。

 水の幼女の逃げた先は簡単に特定できた。

 小さな水の精霊くんたちが、熱心に案内してくれた。


 というわけで……。


「なのおおおおおおおおお! どうしてここがわかったなのおおお! かくなる上はあああああ! みんな、イルに力を貸すの! みんなで力を合わせて、魔王に一矢を報いてやるのおおお!」

「あー、はいはい。みんなー、おいでー」


 はい。

 もう、アレだね。

 大精霊っていうのは、なぜこうも幼稚園児なのか。


 今、私の眼の前には、水色の髪を波立たせて私に敵意を向けてくる、見た目は5歳くらいの幼女がいた。

 ホントに、ね。

 ちゃんと反省してごめんなさいすればいいものを。

 開き直って逆ギレして。

 小さな水の精霊さんたちを集めて、無駄な抵抗をしてきたのですよ。


 小さな精霊さんたちは、私の味方です。

 呼びかけたら、みんな、すぐに私のまわりに集まってきた。


「え、え……。みんな……。どうしてなの?」


 ――イル、テキ!

 ――イル、タオス!

 ――タオス!


「ふえーん! なのー! イルは孤独なのー! もうダメなのおしまいなのイルは拷問スペシャルなのー! こわいのー! イヤなのー!」


 あーあ。

 もー。


 泣いちゃったよ。


 風の大精霊キオの時と、びっくりするほど同じ展開だね。

 仕方がないので、ハンカチで鼻をチーンってしてあげた。


 ――ヒメサマ、ヤサシイ!

 ――ヒメサマ、ヤサシイ!


 小さな精霊さんたちも喜んでくれた。


 ただ、うん。

 どうしたものか。


 ちなみに水の龍は、私が『アストラル・ルーラー』で斬りました。

 ざっくりです。


「ねえ、私はクウ。君はイル? 水の大精霊でいいんだよね?」

「…………」

「ね?」

「ふんなの。魔王に名乗る名前なんてないの!」

「へー」

「あばばばばばば! イルサーフェなの! イルはイルサーフェなのー!」


 せっかくこの私が優しくしてあげているのに、生意気にもそっぽを向いて生意気なことを言うから……。

 柔らかほっぺをぷにぷにして……。

 かるーく、やさしーく、魔力を流してあげた。

 すると素直になってくれた。


 この子は、イルサーフェ。

 水の大精霊。

 御年、405歳。

 ヒオリさんが今年で414歳のはずだから、大精霊だけどヒオリさんよりも少し若い子なのね。

 とはいえ、私はもうわかっている。

 数字の大きい部分は、気にすることなくスルーした方がいい。

 この子は5歳。

 そう接した方が楽だし、上手くいくのだ。


 私はまず、自分の誤解を解いた。

 全属性を持った精霊の姫であることを優しく伝える。


「……それはつまり、やっぱり魔王」

「は?」

「……ヒメサマなの」

「うん。そう」


 どーも、この精霊界では……。

 全属性の精霊イコール恐怖の魔王が定着しすぎていて困るね……。

 変えていかないとね!

 私は、暴力で支配なんてしないふわふわの子なのだ。

 みんなと仲良くがモットーなのだ。


「じゃあ、行こうか、イル」

「ひぃぃぃぃぃ! 牢獄へ! 牢獄へ行くのは許してほしいのおおおお! イルはまだまだ遊びたい年頃なのおおおお! たった400歳で拷問スペシャルワールドは嫌なのおおおおお!」

「ちがいますー。物質界だよー」

「え? 行ってもいいなの?」

「しょーがないでしょー。このままってわけにはいかないし。行きたくないっていうのならいいけど」


 二度と来ないというなら、まあ、それはそれでいい。

 私が1人で行って謝ってくるけど。


「行くなのっ! 行きたいなのー! やったーなの!」


 イルが飛び跳ねて喜ぶ。

 現金な子だ。


 とはいえ、遊びに行くわけではない。


 なにしろサンネイラの町は、イルのせいで水びたしになった。

 うん。

 私は悪くない。

 私は気持ちよくお昼寝をしていただけだ。

 なのに、なんで、私も謝りに行くのか。

 そこに大いなる不満はあるけど、まあ、しょうがない。

 事実上の保護者だしね……。


 というわけで。


 私はイルを連れて、サンネイラのゲートをくぐった。

 出た先は神殿の中庭だ。

 泉のまわりには、美しく草花が植えられている。


 水びたしだけど……。


 そんな庭には、アリーシャお姉さまとトルイドさんの姿があった。

 私たちを待っていたようだ。

 泉から外に出ると、すぐに目が合った。


「クウちゃん、どうなったのですか!?」

「どうもー」


 私の顔を見るなり叫んでくるお姉さまに、私は手を振った。


 さあ……。


 まずは、やることをやろう。


 私はイルの頭も下げさせて、この度はご迷惑をおかけしまして……、と精霊を代表して平に謝罪した。

 ただ、トルイドさんから返ってきた言葉は意外なものだった。


「頭をお上げください。皆、感謝しておりますので」

「感謝、ですか?」


 町を水びたしにされて?

 破壊された建物や、怪我をした人もいるだろうに……。

 と思ったのだけど……。

 たしかに建物の損傷はあったようだけど……。

 なんと。

 溢れ出した水には癒やしの力があったそうだ。

 水に触れた者たちは、たちどころに傷や病気が癒えて、今、サンネイラの町はお祭り騒ぎなのだそうだ。

 もともとこの町には、癒やしの水の伝承が残っていて……。

 今でも精霊信仰は厚くて……。

 なので、みんな、すんなりと受け入れたらしい。

 空に現れた水の龍は――。

 あれはまさに、精霊様のお姿なのだと。


「ふふーんなのー! まさに、イルのおかげなのっ!」

「イルは反省しなさい!」


 まったく迷惑をかけて。

 私はそれでも、あらためてイルと共に謝った。


 後で復興資金も寄付しないとだね……。


 私のそんな気苦労も知らず、水の幼女には反省した様子もない。


「アリーシャ、酷い話なの! ヒメサマがイルの手柄を横取りする気まんまんなの何か言ってやってほしいの!」


 イルがアリーシャお姉さまにすがりつく。

 いつの間にか仲良くなったようだ。


「よかったですわ、クウちゃん。ヒメサマということは、妙な誤解は解けたようですわね」

「あはは。はい、まあ」


「アリーシャさん、マイヤさん……。できれば僕にも、事情を説明してもらえるとありがたいのだけど……。実は、何がなんだか……。特にマイヤさんは、いったいどういうお方で……」


 トルイドさんが困惑した顔で言う。

 それはそうか。

 お姉さまは、私に関することをそれなりに知っているけど……。

 トルイドさんは何も知らないのだ。


「それは……。ごめんなさい、トルイドさん――。実は、色々と人には言えない秘密がありまして……」

「お姉さま、ある程度なら言ってくれてもいいですよー」

「……よいのですか?」

「はい。トルイドさんは、お姉さまの将来のダンナさまですよね。それなら長い付き合いになるでしょうし」


 知ってもらっておいた方が、いろいろ楽だよね。


「2人は子作りするなの仲なのねっ! なら、元気な子供が生まれるようにイルが祝福をくれてやるの! 喜ぶなの!」


 イルが明るい声で言った。


 アリーシャお姉さまとトルイドさんは顔を見合わせて――。

 お互いに耳まで赤くした。

 ふふ。

 純情だねー。

 可愛らしい2人だ。

 私は微笑ましく、その光景を見守った。





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― 新着の感想 ―
なんかさ...ここまでくるとクウちゃんが可哀想だよね。 何も悪いことしてないのに最初から大精霊たちに攻撃されてさ。 先代が一体どれだけ暴力的だったらこうなるんだ?いや、もしかすると先代もクウちゃんと同…
[気になる点] 今まで登場した精霊たちの感覚は 火の大精霊はパパ 闇の大精霊は長女 青の大魔王は次女 光の大精霊は三女 水の大精霊は四女 風の大精霊は五女 ママはいませんね。
[一言] 半分は先代のせいだよね
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