97 ヒオリとゼノの弱肉強食ショートコント(アンジェリカ視点)
次はヒオリさんとゼノの番だ。
「2番、ひおりん&ぜのりん、いきます」
ヒオリさんが一礼する。
続けてゼノが片腕を上げて宣言する。
「ショートコント、運動」
さあ、何が始まるのか。
私は緊張と期待で胸を高鳴らせた。
なんといっても、賢者様と大精霊様だ。
肩書きだけを見れば、絶対にお笑い芸をするコンビではない。
見る人が見れば卒倒ものだ。
クウとセラとエミリーは、きゃっきゃと気楽に歓声を上げているけど。
「いっち、に、いっち、に、いっち、に、いっち、に」
ゼノが掛け声と共に足踏み運動を始める。
「おー、がんばっとるね」
そこに先生らしきヒオリさん登場。
するとゼノがびっくりした顔で、
「……先生、どうしてここに?」
「いやなに。おまえを殺しにきたのさ!」
「ぎゃー!」
2人そろって一礼。
え。
おわり?
「ショートコント、暗殺者」
再びゼノが片腕を上げて、次のコントの開始を告げた。
「そろり、そろり……。よし、ターゲットはこの先だ……」
ゼノが忍び歩きをする。
「ふぁーあ。今日の仕事も疲れるなぁ」
その先ではヒオリさんが退屈そうにタバコを吸うふりをしていた。
「む。殺気」
ヒオリさんが忍び寄るゼノに気づいた。
「なんだ貴様は!」
「ふ。気づかれてしまっては仕方がない。ボクは暗殺者さ」
「なにィ!? なにを隠そう、私も暗殺者だ!」
「ぎゃー!」
ゼノが刺されて倒れる。
しばらくすると身を起こして、2人そろって一礼。
え。
おわり?
「ショートコント、休憩」
さらにゼノが片腕を上げて、三発目のコントの開始を告げた。
「はふっ! はふっ! このラーメンは――。絶品ですね」
ヒオリさんがラーメンを食べているようだ。
「店長、替え玉ひとつっ!」
どうやらお店の中のようで、ヒオリさんが替え玉を注文する。
「ほらよ」
店長のゼノが替え玉を入れる。
お。
暗殺なしで、無事に作業が完了したわね。
はふはふ言いながらヒオリさんが再び麺をすする。
すぐに完食。
ふぅ、と、満足げにお腹に手を当てる。
「う」
途端、ヒオリさんが苦しみ出した。
「フハハハっ! 馬鹿め! 毒入りだったのさ! ボクのお店に休憩に来たのが運の尽きだったね、暗殺者! ぎゃー!」
あれ。
勝ち誇っていたゼノが倒れちゃったけど……。
ヒオリさんがびしっとポーズを決める。
「すり替えておいたのさ!」
「ボク……。食べてないのに……」
ばたり。
いや待って。
食べてないんだよね!?
どうして倒れちゃうの、店長!
まあ、すぐに起き上がって、2人そろって一礼したわけなんだけれど。
「ショートコント、一騎打ち」
まだやるみたいだ。
「とうとうこの日が来たぞ、ひおりんっ! 今こそ勝負の時!」
「ふふ。某に勝てると思っているのか、ぜのりん」
「ふ。今日は絶好の快晴だ」
「そうだな、雲ひとつない」
2人とも剣を構えるジェスチャー。
そこから……。
「「イッツ・ビューティフル・スカイ!」」
笑顔で肩を組んで、グー。
うん。
和解したのね。
クウとセラとエミリーがきゃいきゃいと喝采を送る。
3人には大ウケだ。
私は、あまりのコントのスピード感に、つい呆然としてしまった。
「ショートコント、雨の日」
さらにさらに、ゼノが片腕を上げた。
「あめあめー。ざーざー。あめがふるー」
窓辺の子供かな?
そんな感じのジェスチャーでゼノが雨空を見ている、のだと思う。
「楽しそうだね、ぜのりん」
「あ、先生っ」
先生役のヒオリさんがゼノのとなりに並んだ。
暗殺者かな?
それともビューティフル・スカイかな?
いや晴れてはいないか……。
「先生、よだれがたれていますよ」
「おっといかん。つい、ね」
「わかります。ボクはカエルで、先生はヘビですものね」
じりり……と、ゼノがヒオリ先生から離れた。
「ねえ、先生。どうしてボクは生徒で、先生は先生なんでしょうね」
「それは運命だよ、ぜのりん」
じりり……と、ヒオリ先生がゼノに近寄る。
なに、これ。
捕食を賭けた生存闘争?
その時、クウが叫んた。
「うんめえ! うんめえ! カエル、うんめえ!」
ああ、そういえばさっき、そんなダジャレを披露していたわね。
「とうっ!」
「やぁっ!」
今、捕食を賭けて、カエルとヘビが飛んだ!?
と思ったらお互い交差して、ピンとななめに体を伸ばした。
「「エックス!」」
ゼノとヒオリさんが、声をそろえて言った。
うん、その形はたしかに「X」よね。
「「アンド!」」
ゼノが跳び上がって、それをヒオリさんが支えた。
「「ティー!」」
おお、見事な「T」の字ね。
私は拍手した。
「捕食!」
「しまったぁぁ! ぎゃー!」
あ、カエルのゼノが捕まって食べられたのか。
意味はわかんないけど、ご愁傷さまね。
「うんめえ! うんめえ!」
「それはもういいから」
しつこく言いそうなので、一応、クウには突っ込んでおいた。
とりあえず、芸に拍手しないとね。
わーぱちぱちぱち。
「ねえ、アンジェ」
余韻の冷めたところで、クウが声をかけてきた。
「何よ?」
「カエルって美味しいのかな?」
「知らないわよ」
食べたことはない。
そもそも外見的に食欲がわかない。
するとエミリーが、さっぱりしていて美味しいよと教えてくれる。
エミリーの家は貧乏で、あまり肉が食卓に出ないので、たまに大きなカエルを川で捕まえて帰ると家族が喜んでくれるらしい。
「わたしの町に来たら、取れる川を教えてあげるねっ! いっぱい捕まえて、みんなで皮を剥いで、焼いて食べようっ!」
エミリーが元気いっぱいに言った。
私とクウは顔を見合わせる。
カエルを……。
捕まえて……。
皮を剥ぐ……。
「そ、そうね……」
エミリーには申し訳ないけど、私には無理な気がする。
「う、うん……。機会があったらね……」
クウも同じのようだ。
「うんっ! 楽しみにしてるねっ!」
「みなさん、まだ芸の途中ですよ」
セラがそっとたしなめてくる。
「あ、ごめん」
すぐにクウが謝る。
「そうね。ごめんなさい。迂闊だったわ」
たしかに、まだヒオリさんとゼノの芸の途中だったわね。
「ごめんなさい」
エミリーもぺこりと謝る。
「いえいえ。コントの話題でもあるわけですし、お気になさらず。
それでは――」
ヒオリさんとゼノが姿勢を正して一礼する。
今のでおわりなのかな。
と思ったら。
まだあるみたいでゼノが片腕を上げた。




