962 到着!
サンネイラに行くのは今回が初めてだった。
ただ、いつかは行こうと思っていた。
なので紙の地図で、大まかな位置は以前に確認してあった。
サンネイラは、帝都から西南の都市。
距離的には、アンジェの故郷である城郭都市アーレと同じくらいで、馬車なら片道で3日前後だ。
同じ帝国の領土内で言うなら、南岸の港湾都市リゼントのように遥か彼方というわけではない。
街道は整備されていて、商人も行き交っている。
実際、サンネイラでは、そろそろ、姫様ドッグ店と姫様ロール店の支店がオープンしているはずだ。
秋には開店させるという話だったし。
そんなわけで私は……。
まあ、うん。
サンネイラには、空の上からだし、街道を目印に西南に向かえば、自然に到着していることだろう、と。
かなり気軽な気持ちで出発したのだった。
私には『ユーザーインターフェース』のマップ機能もある。
マップ機能は、行ったことのないエリアは空白だけど、エリアに足を踏み入れれば一気に全体地図が表示される。
なので方角さえ間違っていなければ、その内、ユーザーインターフェースでも確認できるのだ。
その私の計算は確かだった。
うん。
さすがは私なのだ。
最近は、小鳥さんブレインの方が回転していることも多いけど……。
かしこい精霊さんの名も伊達ではないのだ。
「ねえ、クウちゃん。大きな町が見えてきましたわよ」
「はい……。あれが目的地ですね……」
サンネイラは、帝都や聖都を始めとした大都市のように近郊のダンジョンを基点として発展した都市ではない。
サンネイラは、豊かな水で発展した水の都だ。
大きな川が近くに流れていて、西の海も近い。
城壁はなく、都市は自然に、川から広がって北の山沿いにまで続き、自然の中に溶け込んでいた。
町のあちこちには噴水の広場があって、それは水路につながり、地富な地下水を絶えることなく都市に流していた。
街道の大通り沿いには、大きな建物が立ち並んでいる。
大通りからは、水路に合わせて、いくつもの通りが伸びて、その周囲にはたくさんの民家が建ち並ぶ。
建物の屋根は色とりどりで鮮やかだった。
太陽の光が降り注いで、水路と共にキラキラと輝いていた。
人口は、帝都ほどではないけど、普通に都市と呼べるほどにはありそうだ。
豊富な水と共に、大いに発展している。
大通りから少し離れた川沿いの高台には、領主の館があった。
同じ高台には、精霊神教の神殿もある。
あと、学校かな。
そんな感じのする敷地もあるね。
広場から神殿へと続く道は、特に賑わっている様子だ。
参道だね。
食べ歩きの予感がする!
川の南側には平野の田園が広がっていた。
すでに11月とあって、主な農作物は収穫がおわっていて、景色としてはやや単調なものだったけど。
牧地もあって、多くの牛や馬が日向ぼっこをしていた。
うん。
平和でのどかで、水と緑があって、人も多くて、よい都市だねっ!
さすが、食の都と言われるだけはある!
私たちは、神殿へと続いた参道の入り口でもある広場に着地して、木陰で透明化を解いた。
「ふう」
私はとりあえずベンチに座った。
私の計算は完璧だった。
ちゃんと、サンネイラに到着することはできた。
だけど、疲れた。
さすがに一気に飛んでくるには、さらには人を運んでくるには、ちょっと遠すぎる場所だった。
「……クウちゃん、大丈夫ですか? わたくしまで連れてきてくれて、さすがに無理をさせてしまったかしら」
「いえー。修行ですので、お気になさらずー」
「修行、ですか?」
「はい。私もたまには全力を出さないといけないので」
はっきり言って、私は最強で無敵だ。
この世界に生まれて、すでに多くの出来事があったけど、少なくとも武力で遅れを取ったことはない。
悪魔だろうが大精霊だろうが相手にもならなかった。
でも、慢心は良くない。
特に、セラやアンジェ、ユイやナオ……。
友人たちが、どんどん強くなっていく、その背中を見ていると……。
我ながら思うのだ。
今の強さにあぐらをかいて座ってばかりいるのはダメだよね。
もっと真面目に、たまには頑張らないと……。
飛行魔法と重力魔法の組み合わせは、丁度よい修行だった。
現状、私が魔力の枯渇を起こすのは、その2つの銀魔法を高負荷で使い続けた場合だけなのだ。
魔力を成長させるには、魔力を使いまくるのが一番。
なので今日は、わざわざ飛んできたのだ。
ただ、うん。
なんとか着いたけど……。
疲れた……。
予想以上に疲弊してしまった……。
体の力が抜けてしまって、さすがに休息が必要だ。
「ところでクウちゃん、ここはどこの町なのですか? わたくし、来るのは初めての場所なのですが……」
「ふふー。どこでしょうかー」
「と、言われても……。見て回ってもいいのかしら?」
「はい。私、しばらく休憩しているので、散策してきてください」
お姉さまは強い。
加えてサーチしても周囲に敵反応はない。
まあ、うん。
よほど、大騒ぎにはならないよね。
私服とはいえ、どこからどう見てもご令嬢なお姉さまに、ちょっかいをかけてくる輩もいないだろう。
「では……。いい匂いもしますし、ここがどこなのかも気になりますし、少しだけ歩いてきますね……」
「はーい。いってらっしゃーい」
時刻は、午前10時半。
ランチには早いけど、お姉さまには自由に食を楽しんでもらおう。
私はしばらく、お昼寝させていただきますねー。
すやー。
水の大精霊編スタート。




