960 クウちゃんさまの予定表
先生の声が、まるでさざなみのように、遠く遠く聞こえる――。
そんな午後の授業中。
この日、私は珍しく眠くなることなく、真面目に考え事をしていた。
そう。
すでに今年も11月の下旬。
あと1ヶ月と少しで、なんと今年がおわってしまう。
本当に早い。
4月に学院に入学して、夏にバカンスに行って、最近では野外研修があって。
たくさんの出来事があったけど……。
あっという間だった。
このままでは、きっと、気がつけば来年だ。
それではいけない。
私は今!
12歳という一生に一度だけの今を!
いや、うん、本当のことを言えば、なんと二度目なのですが!
精一杯!
全力で楽しむのだ!
というわけで。
やることを考えてみることにしたのだった。
まずはやはり……。
精霊界のことかな。
私が征服するとかで、密かに大騒ぎになっているって話だし……。
もちろん、そんなつもりはない。
私はみんなと、仲良く、楽しく、したいのだ。
なので、精霊のみんなを集めて、挨拶会をすることにした。
うん。
それは、とても良いアイデアだと思う。
ただ、具体的にどうするのか。
そこが難しい。
これが今までなら――。
たとえば、平和の英雄決定戦ならユイに丸投げ……。
最強バーガー決定戦ならお兄さまに丸投げ……。
私はそれこそ、難しいことなんて気にせず、面白おかしくその場のノリだけで大丈夫だったんだけども……。
今回は難しい。
丸投げできそうな相手と言えば……。
ゼノリナータさん……。
シャイナリトーさん……。
うーむ。
ユイやお兄さまと比べて、不安なことこの上ないのです。
お手伝いをお願いするとしても、私がしっかりと計画をまとめて、主導権を握る必要があるだろう。
しかし、私の頭は真っ白なのだ。
実行には、しばらく時間がかかりそうです。
次は悪魔のこと。
悪魔については、召喚方法をメティネイルから詳しく聞くことができた。
正直、召喚してみたい……。
上手く行けば、悪魔問題を一気に解決できるはずだ。
ただ、危険度は大きい。
まずは、メティネイルから得た情報が正しいのかどうか、その精査をする必要があるだろう。
それについては、すでにヒオリさんとフラウに丸投げした。
2人の頭脳にキタイだね。
キタイ……。
キ・タ・イ……。
ああああああああああああああ!
ふうふう。
ダメよ、私。
今は授業中なんだから……。
キタイなんてしちゃイケナイ時間なんだから……。
マッスルマッスル♪
なんて、絶対に駄目なんだからね……。
ちゃんと静かにして、考え事に集中しないと怒られるよ……。
ああ、でも……。
キタイ、してほしいなぁ……。
うん。
なので年末か年始には、みんなでパーっと騒ぎたいね。
忘年会か新年会か。
みんな、忙しいから難しいかもだけど。
もうさ、この際ね……。
ボンバーも呼んで、ハッピー・ハッピー、でもいいから……。
私は踊りたいの……。
まあ、うん。
ボンバーはバーガー大会の時、「かま」に上書きされて……。
すでに黄色いスーツのハッピーさんではなくなっているけど。
あとは、お姉さまのことか。
パクパクしすぎて、まーた、お腹がたゆっていた。
お姉さまはドレス着用の機会が多い。
普通ならまだ、服装でごまかせる程度だとは思うけど、皇女様として考えれば厳しい現状だ。
まあ、でも、お姉さまについては……。
メイヴィスさんとブレンダさんのキタエ隊に丸投げした。
ご褒美のダンジョンを目指して、キタエ隊が頑張ってくれることだろう。
皇妃様公認らしいし。
でも、そうだな……。
何日か経ったし、様子を見に行ってあげるか……。
私の予定表の中では、一番に手軽だし。
予定といえば、マーレ古墳ダンジョン町への日帰り社会見学が直近だ。
これも楽しみにしている。
最近絶好調のレオが、何かやらかしてくれるかもだし。
あとは、そうそう!
大切なことがあった!
トリスティン王国とド・ミ新獣王国の停戦調印式が、来年の始めにジルドリア王国で行われる予定だった。
エリカが仲立ちを務める国際的な大舞台だ。
調印するのは、ド・ミ新獣王国からはナオ、トリスティン王国からはナリユキだけのナリユ卿。
ナリユ卿は、正直……。
まさにナリユキだけの青年なので、頼りないことこの上ないけど……。
それでも、現在のトリスティン王国の盟主には違いない。
立派に努めを果たしてもらいたいところだ。
くれぐれも逃げ出したりしないように、お願いしたいね。
まあ、さすがにないか。
そういえばオルデ嬢は、今日も元気にお嬢様の勉強をしているのかな。
エリカとすっかり仲良しになったようだし、機会があれば、また会わせてあげたいところだねー。
私は主に防犯でお手伝いする。
敵意ある者の暗躍は、容赦なく阻止する予定だ。
頑張ろうっ!
そんなこんなを考える内――。
「マイヤさん――。聞いていますか、マイヤさん――」
「……クウちゃん、呼ばれてるよ」
アヤに膝を突かれて――。
「ふあ? あ」
先生に思いっきり睨まれていることに気づいて、お説教をされて、この日の授業はおわったのでした……。
放課後。
私はお姉さまたちの様子を見に行った。
3人の居場所は、強い無属性の魔力反応を探れば、すぐにわかる。
3人がいるのは、なぜか裏庭だった。
行ってみると……。
「ほら、行くぞ、アリーシャ」
「何を子供じみた抵抗をしているのですか。覚悟を持ちなさい」
これは、アレか。
こっそり帰ろうとしたところを見つかったのかな。
「イヤですわっ! わたくし、おうちに帰って甘いものを食べますわ! わたくしは太らない体質なのですっ! 昨日までで十分に体は動かしましたし、もう完璧に大丈夫なのですわっ!」
眉目秀麗にして優雅にして華麗にして、多くのご令嬢が羨望の眼差しを向ける完璧令嬢たる帝国の第一皇女様が……。
ブレンダさんとメイヴィスさんに引っ張られて、裏庭の樹木にしがみついて必死の抵抗をしていた。




