959 精霊界、大乱の予感!?
精霊界で遊んだ、その日の夜。
部屋でのんびりしているとゼノが来て、とんでもないことを言った。
「ねえ、クウ。ちょっと聞いたんだけどさ……」
「ん? どしたの、ゼノ」
「キオってわかるよね? キオジール、風の大精霊」
「うん。わかるけど」
「キオから精霊たちを取り上げて、精霊たちにキオを攻撃させて、消滅寸前まで追い込んだ挙げ句、屈服させたっていうのは……。本当の話?」
「え」
「え、じゃなくてね?」
「と言われても」
「いや、ね。クウのことだから本当だとは思うけどさ、一応、真偽は確認しておかないと困るよね? いろいろと」
気のせいか、いや、うん、気のせいではなく確実に。
話が悪い方向にねじれているね。
とんでもない誤解だ。
私はキチンと、ありのままをゼノに語った。
「ホントに……?」
ゼノには何故か、思いっきり、眉をひそめて疑われた……。
「ホントだってばー! そもそも私、暴力なんて振るわないでしょー」
私なんて、無害でふわふわな小鳥さんだよ?
平和そのもののような存在なのに。
「まあ、いいけど」
「わかってくれたよね?」
「……わかったかはどうかはともかく、ね」
「なに?」
「ついに今代の精霊女王が精霊界の制覇に動き出したってことで、今、精霊界はざわついているよ」
「そかー」
なんか、すごそうだね。
「青い魔王」
「ん?」
「クウの二つ名だね」
「うわ」
「女王なのに、精霊なのに、魔王。困ったものだよね」
「あははー」
だねー。
「笑い事じゃないからね?」
「と、言われても……。私には関係ないよね?」
「はぁ」
なんか、思いっきり深々とため息をつかれましたが!
「でも、そんな一気に広まったんだ?」
「錯乱したリトが、ギャーギャーわめいたからね」
「なるほど」
あのケモ耳の娘のせいか。
「ねえ、クウ」
「なに?」
「いっそ征服して、新女王時代を築いたら?」
「いいんだ?」
そんなことしても。
「その方がさ、いっそ落ち着くよね」
「なるほど」
「みんな、戦々恐々でさー。このままだと、この世界の自然の営みに明らかに影響が出そうなんだよねー」
「ちなみに征服って、どうすればいいの?」
「さあ」
「さあって」
またいい加減な。
「ボクに聞かれても知らないよ。とりあえず、目についたヤツからぶん殴って蹂躙していけばいいんじゃないの?」
「やらないからね!?」
そんな乱暴なこと!
と、私は否定したのだけど……。
「あ、でも」
うん。
ぶん殴るヤツはいるよね。
というわけで、ゼノを残してリトのところに行った。
ユイの家だね。
本当はゼノも連れて行きたかったけど……。
ユイの家には、歴代の聖女が作り守ってきた光の結界がある。
闇の化身であるゼノが触れれば、その光の結界を壊してしまいかねない。
私は、乱暴者の破壊者ではないのだ。
ユイとリトがユイの部屋にいるのは、魔力の反応でわかる。
2人の魔力は他にないからね。
「やっほー!」
ドアを開けて、元気に挨拶。
「ひぃぃいぃぃぃ! 来た! 来たのです! 恐怖の魔王がリトを滅ぼしに現れたのです! やるならやってやるのです! かかってこいなのです! 助けて! 助けてなのです、ユイ!」
はい。
ユイの背中に隠れた白いケモ耳少女姿のリトが錯乱していました。
「えっと……。ごめんね、クウ」
ユイが申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「あ、うん」
「えっと、一応、確認だけど……。クウが、キオっていう子を虐待して蹂躙して奴隷にしたっていうのは……」
「そんなことするわけないでしょー」
「だよねぇ」
「うわああああああ! やってやるのですぅぅぅぅぅぅ! しねええええええええなのですううう! ぎゃう」
飛びかかってきたリトは、とりあえずペチンと叩いた。
もちろん魔力を込めて。
リトは、白いフェレット姿になって墜落した。
うん。
ごめんね?
私はリトをつまみ上げると、膝の上に乗せてヨシヨシした。
リトは大人しくさえしていれば、小さくて柔らかくて尻尾はもふもふで、抱き心地の良い子なのだ。
魔力を流せば大人しくなるしね。
その上で、精霊界の明日についてユイと話し合った。
「クウにとっては面倒な話だと思うけどさ、やっぱり一度はちゃんと、みんなに顔を見せて挨拶するべきだと思うよ」
「んー。そうかなぁ……」
「だって、精霊姫だよね? この世界には、他に2人といない」
「まあ、ねえ」
私の感覚的には、それは本当に称号だけのもの。
なんだけど……。
小さな精霊さんたちは、大精霊の言葉よりも私の言葉に従う。
つまりそれは……。
精霊姫という存在が、大精霊の上にあるもので、しかも称号だけのものではないということだ。
「でも、たとえば挨拶するにしても、どうすればいいと思う?」
「日時を決めて、どこかに集まってもらえば?」
「なるほどぉ……」
それが簡単か。
「それでちゃんと、クウが支配なんてするつもりのないこと、みんなはいつも通りにしてくれればいいこと――。そのあたりをちゃんと話して、わかってもらえばいいんじゃないかなぁ」
「わかってもらえるといいけど……。リトを見ていると不安になるね」
「リトは、トラウマが深いから……。前の女王には、かなり可愛がってもらっていたみたいだしね」
「拷問だっけ?」
「案外、クウとリトみたいな関係だったのかも知れないけど」
リトを抱えた私を見て、ユイは笑った。
「勘弁してほしいよ。本当に、この5000歳児はさ」
私はため息をついた。
私的には、リトともちゃんと仲良くしたいんだけど。
なんにしても、挨拶会はしたほうがよさそうだ。
ただ、うん……。
どんな内容にするべきなのか……。
そこが問題だねえ……。




