958 ハッピーエンド
いきなり死ねとか言われたので思わず睨んだら、なんか、思いっきり怯えられてしまいました。
こんにちは、クウちゃんさまです。
今、私の眼の前では、風の大精霊を名乗るキオジールという幼女が、頭を抱えてうずくまって、ガダガタと震えています。
とはいえ……。
はっきり言って、私は悪くない。
もう放っておいて、どこかに行こうかなー。
とも思ったのだけど……。
うーむ。
これがメガモウとかボンバーだったら、蹴っ飛ばして、顎でバカにして、あとは無視してみんなと遊ぶだけだけど……。
さすがに幼女をこのまま放置するのは、かなり気が引ける。
まあ、うん。
見た目少女のゼノは、約1000歳。
見た目幼女のリトは、約5000歳。
多分、この子も、見た目通りの年齢ではない。
ただ、精霊って、長く存在したからといって精神的に熟成されて大人になるわけではなさそうだし……。
むしろ精神年齢は、外見の年齢に重なっている気がする。
ということは。
幼女か。
私は仕方なく折れることにした。
「ねえ、キオ。なんで私に死んでほしいの?」
「だって、クウが死んでくれないと、みんな、戻ってくれないでしょ」
「あー」
私は、まわりに集まっている風の子たちに目を向けた。
みんな、ふわふわしている。
――ヒメサマ。
――ヒメサマ。
って、私に呼びかけて、楽しそうだ。
みんな、これっぽっちも、キオのことを気にしていないね……。
実に無邪気に、実に冷酷だ……。
「……ねえ、クウ」
ここでキオが顔を上げてくれた。
「ん?」
「私ね、先代様と約束したの……。立派な風の大精霊になるって」
「うん。そうなんだね」
「だから死んで? お願い」
「それは無理かなー」
「なんでよー!」
「いや、うん。まるで私が悪いみたいに叫ばれてもね」
困るというものだ。
「うえーん! うえーんうえーん!」
あ、泣いちゃった。
「あーよしよし」
仕方ないので、またあやしてあげる。
「ぐす……。ぐす……。もう私、おしまいよぉ……。ごめんなさい、先代様……。キオは駄目な子でした……。このまま小さな精霊に戻って、消えます……。どうかお許しください……」
なんか、私の目の前で、キオが霧のように散ろうとしている。
「あー! 消えなくていいからぁ!」
私はあわてて肩をつかんだ。
魔力を送ると――。
「ぎゃああああああ!」
よし!
ダメージを与えてしまったけど、なんとか防いだ!
「痛い……。死ぬ……。死んじゃうよお……。私、まだ、死にたくないよぉ……。助けてえ、みんなぁ……」
――トドメ?
――トドメ、サス?
風の子たちが、ものすごーく無慈悲なことを私に提案してくる。
うーむ。
自分で言うのもなんだけど、私の影響力、強すぎだね。
精霊の子たちと話す時には……。
十分に言動に気をつけないと危険だね、これは……。
「みんな、遊びの時間はおわりだよー。防衛軍は解散でーす。結果は、私たちの大勝利でしたー!」
私は笑いかけた。
――カッタ!
――カッタ!
――ヒメサマ!
――ヒメサマ!
「じゃあ、みんな、今日は、それぞれの大精霊のところに戻ってー。私とは、また今度、一緒に遊ぼうねー」
みんな、素直に言う事を聞いてくれた。
キオのまわりにも風の子たちが戻る。
――キオ、ドウシタ?
――キオ、ナイテル?
自分たちが攻撃したことなんて完全に忘れたかのように、風の子たちが倒れたキオのことを心配する。
いや、これ。
逆にキオを再起不能にする精神攻撃になっちゃいそうな……。
と、私は心配したのだけど……。
様子を見ていると……。
やがて、のそりと身を起こしたキオが、自分のまわりに集まってくれる風の子たちの姿を見て――。
「みんな……。戻ってきてくれたの……?」
――キオ。
――キオ。
「みんなぁぁぁぁぁぁぁ!」
攻撃を受けたことなんて完全に忘れたかのように、キオは元気になった。
風の子たちをまとわせて、明るく踊り始める。
うむ。
よくわからないけど、とにかく、元気になったのならいいよね。
私は、細かいことは気にしないのだ。
きっと、みんなもそうなのだろう。
なので、つまり。
これでハッピーエンドなのだ。
めでたし、めでたし。
さ。
帰るか。
明るい声に背を向けて、私は現場から離れた。




