957 幼女の大精霊
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、精霊界に来ています。
突然ですが……。
小さな精霊さんたちと防衛軍ゴッコで遊んでいたところ……。
キオという風の幼女に襲撃を受けました。
いきなり無数の風の刃を食らって、私、大ピンチです。
いえ。
はい。
本当は、無傷です。
どうもチートですみませんでした。
攻撃を喰らいながら、私は思った。
キオにオシオキをするのは簡単だ。
私はすでに知っている。
首根っこを捕まえて、魔力をね、ピリピリって流してあげれば……。
大精霊はビクッとして、いい子になるのだ。
でも、だ。
今、私は小さな精霊さんたちと遊んでいる。
防衛軍ゴッコの最中なのだ。
ここで私が簡単におわらせては、防衛軍の意味がない。
第一、私は砦。
あるいは、お姫様。
役割的には、守られる存在なのだ。
うむ。
「ぎゃああああああ」
私は悲鳴をあげて倒れることにした。
そして、力なく顔を持ち上げて、みんなにお願いするのだ。
「私は大ピンチです。
みんな、お願い。
防衛軍として、私のことを守って……」
がく。
私は意識を無くした。
という演技を、なんとなくしてみた。
――ヒメサマガタイヘン!
――マモル!
――テキ!
――テキ、タオス!
ちょっと迫真の演技すぎたかな……。
小さな精霊さんたちが、かなり慌ててしまっている。
「あ、少しだけは元気だよ」
私は顔をあげて笑った。
「だけど動けないから、お願い、守って」
その場に座って、ニッコリとお願いをやり直す。
――ボーエーグン!
――ボーエーグン!
おお!
小さな精霊さんたちが、見事にフォーメーションを組んだ!
「え。あの、みんな……?」
キオは、戸惑っている。
さすがは大精霊。
小さな精霊さんたちに攻撃はしないよね。
防衛軍ゴッコだよ。
遊んであげてねー!
――マモレー!
――マモレー!
――キオハテキ!
――キオ、タオセー!
おおっ!
火の子たちが、一斉にキオに襲いかかった。
つづけて左右から風の子!
さらには距離を置いて、水の子たちが弱体魔法を水鉄砲みたいに撃ち放つ!
土の子は私の前で盾役!
光の子と闇の子も、私のまわりにいた!
いいね!
練習通りに動けている!
「ちょ! やっ! やめてよー! みんなー!
どうして私に攻撃するのー!
私、大精霊なのにー!
私、ちゃんと名前と力をもらっているのにー!」
――キオ、テキ!
――タオセ!
――タオセ!
小さな精霊さんたちは容赦ないね……。
全力でぶつかっている……。
「やだー!
ねー!
みんな、やめてよー! おねがいー!」
…………。
……。
「私、敵じゃないよー! 私、私ぃぃぃ……」
えっと……。
なんか、アレだね……。
「ふえ。ふええええ……。
うえーん!
うえーん! うえーんうえーん! 私、大精霊なのにぃぃぃ!」
ああああああああああああ!
キオがその場にへたりこんで泣いちゃったぁぁぁぁぁぁ!
「みんな、ストップストップ! 勝負はありました! おしまい!」
私はあわてて立ち上がった!
――カッタ?
――カッタ?
――カッタ!
――キオ、タオシタ!
――ヤッター!
――ヤッター!
みんな、大喜びして、その場を飛び回った。
私はキオの前にしゃがんで……。
キオは、容赦なく攻撃されて、けっこう、ボロボロだった……。
「あの……。大丈夫?
ごめんね……?」
いきなり襲われた側なのに、私は仕方なく謝った。
回復魔法をかけてあげる。
「うえーん! うえーん!」
うーむ。
くまった。
これはクウちゃんさま、くまりましたよ。
風の大精霊ともあろうものが、完全に幼児として泣いちゃっている。
自分から攻めてきたくせに……。
「もう。いつまでも泣かないの。強い子でしょー」
私はハンカチを取り出して、涙を吹いてあげた。
「ほら、チーンして」
鼻水まで出てしまっているので、そちらも綺麗にしてあげた。
すると……。
「ぐず……。ぐず……」
やっとキオが私に目を向けてくれた。
なんか、迷子の幼女みたいな感じで。
「こんにちは、私はクウ。見ての通り、かはわからないけど。これでも一応、キオと同じ精霊さんだよ」
私がそう言うと――。
――ヒメサマ!
――ヒメサマ!
と、まわりにいた小さな精霊さんたちが補足してくれる。
「うう……。知らないもん……。なによぉ、ヒメサマって……」
「うん。知らないよね。初めましてだもんね」
「魔王じゃないの……?」
「少なくとも、魔王ではないかなぁ」
うむ。
私、自分のステータスは確認できるしね。
誤解はないはずだ。
その後、しばらく、睨むみたいにじーっと見つめられた。
仕方がないので付き合った。
「……ねえ、貴女。本当に魔王じゃないの?」
「うん。ちがうよー」
「綺麗な瞳ね……。それに、不思議な魔力……。私、まだそういうの詳しくないから、よくわからないけど……。魔の化身とは、違う気もする……」
「ありがとう」
「ねえ、ヒメサマなの?」
「んー。一応はねー」
「みんなの?」
「んー。一応はねー」
称号だけで言えば、間違いないだろう。
私は精霊姫なのだ。
「みんながそういうのなら、そういうことなのよね……。風の子も、火の子も、土の子も水の子も……。光と闇の子まで、そう言ってるのなら……。私も貴女のことはヒメサマって呼べばいいの?」
「んー。クウでいいけど」
それが名前だし。
「じゃあ、クウ。……死んで?」
「は?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
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