952 表彰式
大講堂についた。
私とレオとカシムの研修参加組は、座席の前列に移動する。
参加者は全員、パーティーごとに前列なのだ。
「こんにちはー」
席には、すでにマウンテン先輩とオーレリアさん、サクナがいた。
「こんにちは、クウちゃんさん」
「ごきげんよう、クウちゃん。今日もお元気そうですね」
マウンテン先輩とオーレリアさんは、今日も穏やかだ。
「クウちゃんさま! お待ちしておりました!」
あれだけ「さま」はやめろと言ったのに。
サクナはすでに、そのことを完全に忘れているようだ。
うん。
まあ、いいけど。
私はマウンテン先輩のとなりに座った。
ちなみにマウンテン先輩は、座席の手すりを上げて、2人分の席でも窮屈そうに腰掛けている。
今日もさすがの巨漢っぷりだ。
「表彰式、楽しみですね」
私はマウンテン先輩に笑いかけた。
「そうですね」
マウンテン先輩は笑顔でうなずいて、
「……クウちゃんさんには、本当にいろいろとご面倒をおかけしました」
「いいえー」
今回は、我ながらメンバー集めから頑張ったけど、これもマウンテン先輩の人徳があればこそですよ!
「私も迷いましたが――。今回は、自分の中の正しさとは何かをあらためて考える良い機会になりました。私は自分の道を行こうと思います。今回の経験は今後の人生にしっかりと生かしていこうと思います」
マウンテン先輩の言葉は、なんとなく遠回しな感じで、私の小鳥さんブレインでは瞬時にすべてを理解できるものではなかったけど……。
とにかく、いい経験になったんだよね。
それはよいことだよね。
「はい。がんばってください」
輝く騎士への道に!
「ええ――。ありがとうございます、クウちゃんさん」
表彰式が始まる。
まずは、アリーシャお姉さまが生徒会長として――。
先生たちから上がった報告をまとめて、今回の野外研修の総評を行った。
アリーシャお姉さま……。
昨日はキタエ隊にたっぷりと絞られたはずなのに……。
お疲れの様子は微塵もなく、カンペキな態度で生徒会長をしている。
すごいね。
総評の後は、野外研修に参加したパーティーの代表者が順番に呼ばれて、壇上でマイクを握って野外研修の感想を述べる。
ウツロ村へと向かった私たちの組以外でも、今回の野外研修では、たくさんのことがあったようだ。
みんな、面白い話ばかりだった。
ただ、うん。
やっぱり、私たちウツロ村組の話が、一番に注目は引いた。
なにしろアンデッドの大襲撃があったのだ。
それを一致団結して、最後には村人たちが精霊様の力までをも導いて、見事に撃退したわけだしね。
アンジェ・パーティーのルシア先輩が、ノリノリで語った。
レオのところのマキシム先輩が、真面目に語った。
どちらも会場は盛り上がった。
そして、マウンテン先輩の番が来た。
正直、私は、マウンテン先輩は短めの挨拶だけをして、すぐにステージから降りてしまうかなーとも思った。
でも、ちがった。
「――その時は、まさに私にとって、運命の選択でした。
私は騎士を目指している。
騎士を目指している以上、上からの命令は絶対。
しかし、仲間の危機を知っておきながら――。
自分は安穏と、別の場所で普通の任務をこなすなど――。
それもまた、騎士としては失格なのでは。
私は葛藤して悩みました」
マウンテン先輩は語った。
大いに語った。
マウンテン先輩の想いがまっすぐに伝わる、良いスピーチだった。
最後にマウンテン先輩は、
「今回の研修では、失敗してしまったことも多くありましたが、それも含めて他では得難い経験でした。パーティーを組んでくれた皆に、あらためて感謝を。ありがとうございました」
と、言葉をつづって、深く一礼し、ステージから降りた。
会場からは大きな拍手が起きた。
私も拍手した。
「素晴らしかったです、先輩」
「ふふ。言いたいことはすべて言えました。満足ですね」
さあ。
会場が十分に熱を帯びたところで、次は評価の発表となった。
評価は、低い方は発表されない。
発表されるのは、上位5パーティーのみだ。
その発表は生徒会のメイヴィスさんが行う。
評価したのは先生たちだけど、先生たちは前に出て来ない。
学院では、学校行事はあくまで生徒会が主体なのだ。
今回の野外研修でも……。
組分けを始めとして、馬車やキャンプ道具の手配といった事務処理まで、生徒会がすべてこなしている。
すごいよね。
私は、入らなくてよかったのです。
評価は、アンデッドの大発生を乗り切ったのが効いたようで――。
アンジェたちのパーティーが最優に輝いた。
レオたちのパーティーも、なんと5位の栄冠に輝いた。
レオが、さらに調子に乗りそうだ。
私たちのパーティーは、残念ながら5位以内には入れなかった。
代わりに枠外として勇敢賞をもらった。
教師の指示に従わなかったのは問題行為だが、結果として仲間を救った事実には称賛を送るべきとの評だった。
村での勇敢な戦いも、認められていた。
私たちは大いに喜んだ。
そして、騎士の二次選抜の結果が、続けて発表された。
ルシア先輩とマキシム先輩は無事に選ばれた。
マウンテン先輩の名前は出なかった。
式がおわる。
野外研修の参加者たちと一部の上級生は、そのまま別室に移動して、研修終了の記念パーティーとなる。
ビュッフェ形式でのランチだ。
会場にはお兄さまとウェイスさんもいた。
「お兄さま! どういうことですか!」
「クウ、いきなりどうした?」
「どうしたもこうしたもありますか! 約束を破って!」
「破る? なんのことだ?」
お兄さまは、すっとぼけた顔をする。
「はあああああああ! どの口が言いますか、それ!」
私は怒った。
大いに怒った。
「おいおい、こんな場所で痴話喧嘩か?」
「うっさいです! どいててください!」
「お、ぉう……」
ウェイスさんが間に入ろうとするけど、そんなものは押しのけた。
「……お兄さま、何をなさったのですか?」
アリーシャお姉さまも来た。
なんか、すごく人目を集めてしまったけど、そんなことはどうでもいいくらいに私は怒っていたのだ。
だってマウンテン先輩の名前が出なかった。
約束したのに!
「はぁ……」
お兄さまはわざとらしくため息をつくと、
「それについては、本人の口から伝えられたはずだが?」
「本人って誰ですか! お兄さまですよね!」
私が本気で睨んでいると――。
「とにかく、ここではなんだ。別室に来い」
「わかりました!」
行きますよ!
行ってやりますよ!
その方が、思う存分、どういうことか聞けますし!
ただ、うん……。
結果として、それはマウンテン先輩の意思だった。
別室に入ると、すぐにマウンテン先輩も来て、私に言ったのだ。
「クウちゃんさん、本当にいろいろと心配してくれてありがとうございます。大講堂では濁した言い方をしてしまいましたが、特別な推薦で騎士とならせていただく件はお断りさせていただきました」
「え。なんでですか?」
夢だったのに。
「決まっています。私の心が、それを嫌ったからです」
「お兄さま! なんで言っちゃったんですか!」
私はお兄さまに怒った。
「必要な確認はさせてもらうと言っただろう?」
「必要な確認って――。本人ですか!」
「当然だ」
「なんでですかぁぁぁぁぁぁ!」
「それは、本人の人生だからだ」
「黙っていればわからなかったのにー! 先輩には、なんにも知らないまま、気持ちよく騎士になってほしかったのにー!」
私が怒り続けていると――。
マウンテン先輩の大きな手が、私の肩に乗った。
「クウちゃんさん、それは私のことを、さすがにバカにし過ぎです」
「先輩……」
「殿下の対応は至って当然です。なぜなら、私の人生を決めるのは、あくまでも私自身なのですから。私は堂々と、一般試験に挑むつもりですよ」
「まだチャンスって、あるんですか?」
「推薦枠に入れなかっただけで、これから一般試験があります」
「そうなんですね……」
「そういうわけですから、気を静めてください。会場では、みんな、何事かと驚いていましたよ」
そう言われて、私は肩の力を落とした。
急に恥ずかしくなってきた。
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