95 ついに始まるお笑い大会(アンジェリカ視点)
夜。
パジャマ姿のみんなでのんびりしていると。
「えー、というわけで!
これよりっ!
第2回シルエラさんを笑わせようの会
をはじめまーす!」
クウが唐突に変な宣言をした。
「あのクウちゃん。第2回ということは、第1回があったのですか?」
セラがおずおずとたずねる。
シルエラさんとは、セラの専属メイドさんのことだ。
今も部屋の隅にいる。
「うん、あったよー」
「わたくしの記憶にはないのですが……」
「セラがいない時だったしね」
「ええっ! わたくしのいない時だったんですか!?」
「ほら、前に私の家に来たでしょ。その時の馬車待ちの間にね」
「……残念です。……わたくしも参加したかったです」
セラがしょんぼりする。
かわいい。
「申し訳有りません。私で遊ぶのはやめてほしいのですが」
シルエラさんがもっともなことを言う。
「ささ、シルエラさんはこっち。ベッドに座ってくださいな」
「私は勤務中なのですが」
「いいからいいからっ! 気にしない気にしないっ!」
シルエラさんの背中を押して、クウが強引にベッドに座らせようとする。
「シルエラ、わたくしもシルエラを笑わせますっ!
日頃の感謝を込めてっ!」
いやそれ、感謝どころか迷惑では……。
と私は思ったけど口には出さなかった。
シルエラさんもセラに言われては断れず、クウに押されるままベッドに座った。
「それで私は何をすればよいのですか?」
「私たちの芸を見てくれればいいよ。面白かったら笑ってね」
「わかりました」
シルエラさんはクールだ。
さすがは大宮殿のメイドだけあって感情を顔に出すことはない。
この人を笑わせるのは、とても難しそう。
「じゃあ、みんな、それぞれになんか面白いことを披露しよー。
しんきんぐたーいむ!」
クウが元気いっぱいに腕を振った。
「わかった。わたし、頑張る。お父さんたちが酔っ払っていつもやっているし、面白いことは得意だよっ!」
「ふふ。某も伊達に学院に居たわけではありません。芸は得意ですよ」
なんで学院にいると芸が得意になるんだろう。
学院って帝国最高のエリート養成機関のはず。
お笑いなんて入る余地はないと思うんだけど……。
私の認識が間違っていたのかな。
うん。
深く考えるのはやめよう。
そのほうがいいわね!
もうなんか、気にしたら負けよね!
「芸ねえ。ボク、そういうのまったく知らないんだけど」
「わ、わたくしも……。考えてみれば未知の世界です」
「あ、無理にはやらなくてもいいよ。
ごめんごめん、できる人はやろうってくらいで。
誰もいなければ私がたくさん披露してあげるから見学だけでもいいよー」
「クウは得意なんだ?」
私はたずねた。
「もちろんっ!」
「そうだったわね……。聞いてから思い出したわ……」
いろいろ見ているわよね、私。
「アンジェは何かやる?」
「そうね。せっかくだし、私も真面目なだけじゃないところを見せてあげる。美少女はなんでもできるのよ」
クウに誘われた時は反射的に断わったけど、ここはやるべきよね。
雰囲気には乗っていかないとっ!
「楽しみー!」
「美少女はなんでもできる……。それならわたくしもやらねばですね……」
たしかにセラは美少女だけど、自覚もあったのね。
セラは自分の外見に無関心だと思っていたから、少しだけ意外。
「セラ、どうしても思いつかなかったら私のとっておきを伝授してあげるから、遠慮せずに相談してね?」
「ありがとうございます、クウちゃん」
セラは信頼しきった顔で微笑むけど、クウの芸って、けっこう滑って笑わせるところがあるから……。
それはそれで面白いとは思うんだけどね……。
皇女様には向かないような……。
「みんなやるのかー。じゃあ、ボクも何か考えないとだなー」
「ゼノも思いつかなかったら相談してね」
クウは意外と面倒見がいい。
「ありがたいけど、その時にはひおりんと一緒にやらせてもらうよ。というか、最初からそうすればいいか」
「某ですか?」
「うん。2人でやろうっ!」
ヒオリさんとゼノは、コンビ結成みたいね。
「セラ、ちょっとヒントをあげるよ。私の芸を見せてあげるから参考にして。こういう風にやるといいんだよ」
「ありがとうございます、クウちゃん」
「わあっ! クウちゃんの芸なら、わたしも見るー!」
「某も興味津々です」
「ボクもー。次期精霊女王の芸って、どんなのか気になるなー」
「うん。みんなも見て見てー」
なんかさらっとゼノがすごいことを言った気もするけど……。
気にしないでおこう。
クウの芸は、私も参考にさせてもらおうかな。
みんなで見ることになった。
「あ、でも、シルエラさんだけはゴメン。今見せて笑っちゃうと会にならないから申し訳ないけどうしろを向いていて」
「わかりました」
言われた通りにシルエラさんが背を向ける。
「では、お手本を見せます。みんな、笑う準備はいいかなー?」
注目を浴びながらクウは自信満々に胸を張った。
「いきまーす!」
クウが最初に披露した芸は、私が見たことのあるものだった。
すなわち必殺の「にくきゅうにゃ~ん」だ。
うん、可愛いわね。
さすがだ。
いきなり見せられると唖然としちゃうけど、ちゃんと準備して見ていればその可愛らしさはわかる。
次には「波ざばざば」。
――腕を広げて波みたいに揺らした。
それなりに波に見えるところはすごいと思った。
さらには「運命」。
――「運命」とタイトルを言ってから厳粛な面持ちで麺をすするジェスチャー。
その後、「うんめぇ」と感涙する。
美味しい麺との、運命の出会いだったのね。
さらには「名犬」。
――「名犬」とタイトルを言ってから四つん這いになって、
いかにも犬っぽい仕草をした後、
おもむろに顔をこっちに向けて「めぇー」と鳴いた。
えっと。
山羊ってことかな?
と思ったらクウが急に立ち上がって、「剣」って叫んで、勇ましく剣を構えるようなポーズを取った!
びっくりした!
最後は「スルメ焼き」。
――寝転んで、じゅう……じゅう……と言いながら体を曲げていく。
スルメが焼ける様子を表現しているようだ。
スルメっていうのはイカを干した珍味よね。
焼くとああいう感じなのね。
見たことがないからわからないけど、動きは滑稽で楽しい。
「以上です! ありがとうございました!」
ぺこりと一礼して、クウの芸はおわった。
「クウちゃん、さすがです! 素敵です! 最高です! わたくし、笑うことも忘れて感動してしまいました! クウちゃんの芸こそはまさに、帝国一です! 大陸一です! 世界一です! 得点で言うならもちろん、わたくしは100万点を差し上げたいと思います!」
「クウちゃーんっ! おもしろーい! クウちゃん! かわいいー! クウちゃんはやっぱり無敵で最強だよー!」
セラとエミリーちゃんは大いに盛り上がっていた。
「ふーん。これが芸かぁ。なるほどね」
ゼノは腕組みして感心していた。
「店長、さすがです。なかなかに個性的で某は感服いたしました」
ヒオリさんは拍手する。
「クウらしくてよかったわね」
私も拍手した。
クウの芸は、ちゃんと見れば、可愛いものは可愛い、滑稽なものは滑稽。
メリハリが効いていてよかった。
クウの芸を見た後は、それぞれに芸を考える時間となる。
私も考えた。
……どうしようかなぁ。
いざ考えてみると、難しいものだった。
気楽にあれこれ披露するクウは、実は名人なのかも知れないわね。
ついにここまで来た……ヒロインたちによるお笑い大会!
次回からショートコントをやっていきます!




