944 お兄さまとの会話
「えっと、つまりですね……。お兄さまの想像通りと言いますか……。すべては自作自演でして……。ザコはゼノが生み出したもので……。ボスはフラウの渾身の召喚というわけでして……」
「それを君が指揮した、と?」
お兄さまが実に冷静な声で聞き返してくる。
「みんなの経験になって、盛り上がって、よかったなぁ、と……」
「ほほお。なるほど、な」
「わかってくれました?」
「ああ。わかったとも」
お兄さまがニッコリとうなずいた。
「私、けっこう、いいことしましたよね?」
「ああ。そうだな」
よかった!
私は、やっぱり悪くなかった!
「で?」
「で、といいますと……」
「君は何故、闇の大精霊殿や竜王陛下までをも使って、そのような楽しいイタズラをしたのかな?」
「それは……。えっと……。この度は誠に申し訳ございませんでした」
はい……。
結局、謝りました。
だって、うん……。
私は悪くないはずだ……頑張ったはずだ……。
一生懸命やったはずだけど……。
うん、はい……。
私は無駄な抵抗をやめた。
大迷惑だったよね……。
よく考えてみるまでもなく……。
「ははは。なぜ謝るのかな?」
「理由があったとはいえ、イタズラをしてしまいまして……。ご迷惑をおかけしたことだと思いまして……」
「その理由を聞きたいのだが?」
「それは、えっと……」
謝りつつも、私は困った。
理由はハッキリしている。
マウンテン先輩にね、いい評価を付けてあげたかったの……。
私的には、完全な善意だったの……。
でも、ね……。
それを口にするのは、やっぱり問題だよね……。
逆にマイナス評価になってしまいそうだし……。
「……また悪魔関係か?」
お兄さまが言う。
「あ、そうでした。重要なことを忘れていました。実は、村の女の子の1人に悪魔が憑依していたんですよ」
私は、悪魔メティネイルのことを話した。
憑依先だったエルフの少女イレースのことも含めて。
「アンジェちゃん、1人で悪魔と戦って、引き分けたんですね……」
「うん。すごいよね」
「そうですね……。すごいです……」
「悪魔がいたことは、他の者には知らせていないのだな?」
「はい。こちらで秘密裏に処理しました。気づいたのはアンジェだけです」
「なるほどな……」
「そういうわけで、儀式をしたのは私なので……。アンジェは、身代わりになってくれているだけなんです。調査からは早めに解放してあげてください。さすがに疲れているだろうし」
「わかった。フォーン大司教には俺が出向いて伝えよう」
「ありがとうございます」
よかった。
「――で、襲撃騒ぎは、森に満ちていた瘴気を消すために、やむを得ず取った行為というわけなのだな?」
「えっと……あの……」
「では、そういうことで認識しておこう」
「いえ、あの……。実は……」
「――いいな? とりあえず、表面的にはそういうことだ」
「あ、はい……。ありがとうございます……」
「あとは、消滅を求めたというエルフの娘か。君は、もうその娘は大丈夫だと判断して村に残して来たのだな?」
「はい。いろいろと吹っ切れた様子だったので」
「そうか……」
「……放置はまずかったですか?」
「そうだな……。本来であれば、罪を問うべき案件だが……」
「お兄さま、クウちゃんが平気だと言うのならば平気に違いありません! ここはクウちゃんを信じるべきです!」
セラが大きな声で訴えた。
「クウちゃんだけに、か?」
お兄さまが、真顔でとんでもないことを言った。
「あの、お兄さま……。なぜそれを?」
私は戦慄しつつも、最大限に感情を抑えて冷静にたずねた。
なにしろ迂闊に刺激すれば――。
セラの暴走を招きかねない――。
「はははっ! すまん。セラフィーヌの口癖が無意識に移ったようだ。慣れると存外使いやすいものだな」
「やめてくださいよー。もー」
ホントに。
こっちが真面目に頭を下げている時に。
ほら、セラが「くう」って言いたくてプルプルしているし……。
私は仕方なくセラに声をかけた。
「ねえ、セラ」
「は、はい……。だ、大丈夫ですよ……。わたくし……。わたくしは、もう迂闊には言わないと誓って……」
「いいよ」
「あの、何が……」
「いいよ。応えてあげて」
「で、でも……」
「ねえ、セラ。私ね、思うの。セラには笑顔でいてほしいって」
「クウちゃん……」
「楽しいことは大切だよね。もちろん、節度も大切だよ。連呼は駄目。何度も言うのは痛々しいだけなの。だから、こういう時は、1度で、しっかりと、楽しく応えてあげて。ね、お願い」
「……はい! わたくし、わかりました!」
セラがお兄さまに向き直る。
そして、言った。
「もちろんです! クウちゃんだけに、くう、ですから!」
その明るい声を聞きつつ、私は思った。
これでいいよね。
正直、セラの「クウちゃんだけに」には、本当に困り果てていたけど……。
でも、なくなってしまうのは……。
やっぱり、寂しい。
気を使ってわざわざ言ってくれたエミリーちゃんにも、感謝しつつ、私のこの気持ちは伝えよう。
クウちゃんだけに、くう。
よかったら、エミリーちゃんも使ってね、と。
ナオのキタイといい……。
私、適度にイジられるのは、大好きみたいです……。
うん。
やっぱりね、ホントはね……。
気持ちよくなっちゃうの……かな……。
ちなみにイレースについては、全寮制の学校に入れて、しばらく様子を見るのはどうかという話になった。
高い魔力を伸ばすため、という名目で。
こうして話はおわった。
わけではない。
私には、謝りつつも、お兄さまに聞きたいことがあった。
評価のことだ。
マウンテン先輩は、どうなるのだろう。
書籍版、発売中です。
棚に並んでいる内に……ぜひとも……m(_ _)m




