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943/1358

943 大事件とは




 セラが作ってくれたのは、山盛りのサンドイッチだった。

 シルエラさんが店番をしてくれるというので、私とエミリーちゃんは2階のリビングで小休止がてらいただくことにした。

 うん。

 普通に美味しかったです。

 夏のキャンプの朝、サンドイッチすらまともに作れずに大爆発させて、悲鳴を上げていた時から約半年……。

 セラも成長しているんだねぇと、私はしみじみと思いました。


 お腹いっぱいになったところで。

 さあ、研修の話をしようか、と、なったのだけど――。

 残念ながら、できなかった。

 下からシルエラさんが私を呼びに来たのだ。

 大宮殿から迎えの使者が来たという。

 なんでも私に、緊急で確認したいことがあるとか……。


「クウちゃんは、お父様たちとは明日の昼にお食事をする約束でしたよね。明日まで待てないことが起きてしまったのでしょうか」


 セラが不安そうな顔をする。


 どうなんだろうか……。

 そうなのかも知れない。


 とにかく、行ってみることにした。

 セラも一緒に戻る。


 申し訳ないけど、お店のことは再びエミリーちゃんにお願いした。


 案内されるまま、大宮殿の応接室に入る。

 するとお兄さまがいた。


「ああ、来てくれたか、クウ。済まないな、帰ったばかりのところを。セラフィーヌも邪魔して済まない」

「いえ――。わたくしは構いませんが――」

「それにしても、お兄さまなんですね」

「俺も父上に呼ばれてな。皇太子としての修行の一環として、今回の件も俺が担当することになったのだ」

「へー。大変なんですねー」

「そうだな」


 ふむ。


 お兄さまの笑顔が、妙に晴れやかだね。

 怪しい……。


 ともかく着席して、紅茶をもらう。

 スイーツについては、お腹いっぱいなので遠慮させてもらった。


「さて、早速だが――。実は、野外研修について、教員と護衛から緊急の報告が来ているのだ」


 真面目な様子になって、お兄さまが語り始めた。


「へー。そうなんですかー」

「ああ。研修先で、とんでもない大事件が起きたようでな。あるいは、ディシニア高原のような大惨劇の予兆かも知れぬ、と。当地の緊急調査だけでなく、閉鎖も早期に検討すべきだと」

「……研修、大丈夫だったんですか?」

「幸いにも、生徒にも村人にも死者はなかったようだ」

「それはよかったですね」

「なんでも、300を超える数の魔物が攻めてきたという話だ」

「それって、本気で大惨劇の手前ですね……」

「ああ。そうだな」

「お兄さま、それはもう、検討している場合ではないのでは? すぐにでも住民の方の避難を開始しないと」


 セラが言う。


「ああ。そうだな」


 お兄さまは繰り返してうなずいた。

 その後で、


「普通ならな」


 と、付け加えて、私のことを見て……。

 また爽やかに微笑んだ……。

 怪しい……。

 いったい、なんだろう……。

 と思ったら、お兄さまはセラに向けてこう言った。


「実はその事件は、クウの研修先で起きてな」

「……そうなんですか?」

「間違いはない。クウからは、すでに何か聞いているのか?」

「いえ、特には……。クウちゃんが帰って、わたくし、すぐにお手伝いをしてしまっていましたし……」

「サンドイッチは、気に入ってもらえたか?」

「はいっ! それはもう! 練習した甲斐がありました! お兄さまも試食ありがとうございました!」


 何気にお兄さまは、セラには優しいよね。

 出かければ、いつもお土産を買ってきてあげるようだし。


 はっ!


 しまった!


「……すみません、お兄さま、セラ」

「どうした、クウ?」

「私、お土産を買うのを、完全に忘れていました。途中の町でハチミツとかクマの置物とか売っていたのに」

「はははっ! それはくまったな!」

「お。くまりましたか? わかってきましたね、お兄さま!」


 あっはっはー。

 笑うと、何故かセラが困った顔をした。


「ごめんね、セラ。今度は私、忘れずに買ってくるから」

「あの、クウちゃん……」

「どしたの、セラ?」

「クウちゃんは、たくさんの魔物が出た現場にいたんですよね? 村の人たちにも危機が訪れて、先生方が緊急の報告をしてくるような。どうしてクウちゃんはそんなにも平然としているんですか?」

「え。あ」


 私の小鳥さんブレインは!

 この時!

 ついに!

 すべてを悟った!


 そかー!


 なるほどねー!


 大惨事って、私の自作自演のことかー!


 お兄さまが言う。


「ちなみにアンジェリカ・フォーンだが、帝都に帰還してすぐ、精霊と通じて奇跡を起こした巫女ということで、神殿で精密検査となったぞ。新しい魔力に目覚めたかも知れないということでな」

「え。あ。それって――」

「安心しろ。彼女はフォーン大司教の孫娘。そうそう、おかしな扱いを受けることはあるまいて」

「ならいいですけど……」


「さて」


 と、お兄さまが、思いっきりわざとらしく改まる。

 手の甲に顎を乗せて――。

 まるでどこか基地の司令官のようだ。


「あの、お兄さま。ここはわたくしが聞いてもよろしいでしょうか」

「ああ、構わん。頼む」

「あの、クウちゃん……。もしかして、ですけど……。わたくしが思うに……。また、やっちゃいましたか?」

「あ、うん。実はね」


 あはは。

 私は笑って誤魔化しつつ、素直に事実は認めた。


「ふ。やはりな」


 お兄さまが、小さく唇の隅で笑った。







なんと2つ目のレビューをいただきました。

ありがとうございました!


書籍版も発売中です。

よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 素直に怒られてくださいw しかし、戻ってからセラとの攻防?もあって小鳥さんブレインからは既に記憶こぼれてしまってたかー
[一言] 書籍1巻発売からここまで読み返しましたが10日ほど掛かりました。 これからも長く素晴らしい作品を続けていただきたく思います。 ちなみにレビューは別の場所でしていたりします。
[一言] 久しぶりのお兄様のお叱りタイム来ましたw
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