943 大事件とは
セラが作ってくれたのは、山盛りのサンドイッチだった。
シルエラさんが店番をしてくれるというので、私とエミリーちゃんは2階のリビングで小休止がてらいただくことにした。
うん。
普通に美味しかったです。
夏のキャンプの朝、サンドイッチすらまともに作れずに大爆発させて、悲鳴を上げていた時から約半年……。
セラも成長しているんだねぇと、私はしみじみと思いました。
お腹いっぱいになったところで。
さあ、研修の話をしようか、と、なったのだけど――。
残念ながら、できなかった。
下からシルエラさんが私を呼びに来たのだ。
大宮殿から迎えの使者が来たという。
なんでも私に、緊急で確認したいことがあるとか……。
「クウちゃんは、お父様たちとは明日の昼にお食事をする約束でしたよね。明日まで待てないことが起きてしまったのでしょうか」
セラが不安そうな顔をする。
どうなんだろうか……。
そうなのかも知れない。
とにかく、行ってみることにした。
セラも一緒に戻る。
申し訳ないけど、お店のことは再びエミリーちゃんにお願いした。
案内されるまま、大宮殿の応接室に入る。
するとお兄さまがいた。
「ああ、来てくれたか、クウ。済まないな、帰ったばかりのところを。セラフィーヌも邪魔して済まない」
「いえ――。わたくしは構いませんが――」
「それにしても、お兄さまなんですね」
「俺も父上に呼ばれてな。皇太子としての修行の一環として、今回の件も俺が担当することになったのだ」
「へー。大変なんですねー」
「そうだな」
ふむ。
お兄さまの笑顔が、妙に晴れやかだね。
怪しい……。
ともかく着席して、紅茶をもらう。
スイーツについては、お腹いっぱいなので遠慮させてもらった。
「さて、早速だが――。実は、野外研修について、教員と護衛から緊急の報告が来ているのだ」
真面目な様子になって、お兄さまが語り始めた。
「へー。そうなんですかー」
「ああ。研修先で、とんでもない大事件が起きたようでな。あるいは、ディシニア高原のような大惨劇の予兆かも知れぬ、と。当地の緊急調査だけでなく、閉鎖も早期に検討すべきだと」
「……研修、大丈夫だったんですか?」
「幸いにも、生徒にも村人にも死者はなかったようだ」
「それはよかったですね」
「なんでも、300を超える数の魔物が攻めてきたという話だ」
「それって、本気で大惨劇の手前ですね……」
「ああ。そうだな」
「お兄さま、それはもう、検討している場合ではないのでは? すぐにでも住民の方の避難を開始しないと」
セラが言う。
「ああ。そうだな」
お兄さまは繰り返してうなずいた。
その後で、
「普通ならな」
と、付け加えて、私のことを見て……。
また爽やかに微笑んだ……。
怪しい……。
いったい、なんだろう……。
と思ったら、お兄さまはセラに向けてこう言った。
「実はその事件は、クウの研修先で起きてな」
「……そうなんですか?」
「間違いはない。クウからは、すでに何か聞いているのか?」
「いえ、特には……。クウちゃんが帰って、わたくし、すぐにお手伝いをしてしまっていましたし……」
「サンドイッチは、気に入ってもらえたか?」
「はいっ! それはもう! 練習した甲斐がありました! お兄さまも試食ありがとうございました!」
何気にお兄さまは、セラには優しいよね。
出かければ、いつもお土産を買ってきてあげるようだし。
はっ!
しまった!
「……すみません、お兄さま、セラ」
「どうした、クウ?」
「私、お土産を買うのを、完全に忘れていました。途中の町でハチミツとかクマの置物とか売っていたのに」
「はははっ! それはくまったな!」
「お。くまりましたか? わかってきましたね、お兄さま!」
あっはっはー。
笑うと、何故かセラが困った顔をした。
「ごめんね、セラ。今度は私、忘れずに買ってくるから」
「あの、クウちゃん……」
「どしたの、セラ?」
「クウちゃんは、たくさんの魔物が出た現場にいたんですよね? 村の人たちにも危機が訪れて、先生方が緊急の報告をしてくるような。どうしてクウちゃんはそんなにも平然としているんですか?」
「え。あ」
私の小鳥さんブレインは!
この時!
ついに!
すべてを悟った!
そかー!
なるほどねー!
大惨事って、私の自作自演のことかー!
お兄さまが言う。
「ちなみにアンジェリカ・フォーンだが、帝都に帰還してすぐ、精霊と通じて奇跡を起こした巫女ということで、神殿で精密検査となったぞ。新しい魔力に目覚めたかも知れないということでな」
「え。あ。それって――」
「安心しろ。彼女はフォーン大司教の孫娘。そうそう、おかしな扱いを受けることはあるまいて」
「ならいいですけど……」
「さて」
と、お兄さまが、思いっきりわざとらしく改まる。
手の甲に顎を乗せて――。
まるでどこか基地の司令官のようだ。
「あの、お兄さま。ここはわたくしが聞いてもよろしいでしょうか」
「ああ、構わん。頼む」
「あの、クウちゃん……。もしかして、ですけど……。わたくしが思うに……。また、やっちゃいましたか?」
「あ、うん。実はね」
あはは。
私は笑って誤魔化しつつ、素直に事実は認めた。
「ふ。やはりな」
お兄さまが、小さく唇の隅で笑った。
なんと2つ目のレビューをいただきました。
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