938 くらくらクウちゃんの休憩タイム
「いやー! わははは! クウにも見せてやりたかったぜ、スケルトンの大軍から村を守った、この俺様の勇姿をよ!」
夜。
湖岸のキャンプ地で焚き火をしながら、私は学院の下級生たちと、それなりにのんびりとした時間を過ごしていた。
すでにスケルトンの襲撃がおわって時間は過ぎている。
森は、すっかりと静寂を取り戻していた。
ゼノとフラウは、すでに村を離れた。
とはいえ、油断は禁物ということで、学院の上級生や先生や護衛の人たちは未だに周囲を警戒しているけど。
下級生は、もう十分に頑張ったということで休息を命じられた。
「な、カシム! 俺ら、すごかったよな!」
「ですね、レオさん! 俺たちなら、明日からでも冒険者として活躍できると心の底から確信しました!」
「俺らの未来、カンペキだな!」
「ですね!」
よくもまあ、あの散々な戦いぶりで……。
ここまで自信を持つことができるね……。
前向き思考という点について、レオとカシムには才能があるようだ。
まあ、うん。
落ち込んでズドーンとしているよりはいいだろうけど。
なので私は余計なことを言わず、
「そかー」
と、乾いた笑顔で相づちを繰り返していた。
ちなみに私のパーティーメンバーで1年生のサクナは、先生の命令なんて無視して警戒任務に就いている。
オーレリアさんは、とっくにテントの中で寝ている。
眠いといえば私もなんだけど……。
この2日、仮眠しか取っていないんだけど……。
お祭りのハイテンションが収まって、けっこうくらくらなのだけど……。
私は頑張って、まだ起きていた。
みんなから話を聞いておきたかったし。
「ねえ、マイヤさん」
アンジェのパーティーのメンバーで、2年生の女子、水魔術師の先輩が話しかけてきた。
名前は確か――。
「はい、なんでしょうか、マカロンさん」
そう。
美味しそうな人!
「アンジェリカは本当に問題ないのよね? 巨大な骨の竜を世界へと還したあのすごい神聖儀式、絶対に体への負担が大きかったと思うけど……」
「はい。平気です。魔力枯渇しただけなので、今は村長の家で休んでいます」
そういうことにしてある。
「そう。ならよかった」
「明日の朝には、普通に起きてくると思います」
私が笑顔でそう言うと、横からレオが口を挟んできた。
「おまえは、儀式を手伝っていた割には、なんかピンピンしてるな。あ、まさかクウ、おまえ……。ははーん」
「なによー」
「怖くて震えて、転んだり尻持ちついたりして、実はほとんど儀式の手伝いなんてしていなかっただろー? なさけねーヤツー」
わははははは!
レオが笑う!
カシムも合わせて笑った!
それはおまえらだろうがぁぁぁぁぁぁ!
私は叫んだ。
心の中で。
うん。
私は、意外と優しい子なのだ。
それに、できちゃうアピールをするつもりはない。
あと、眠いし。
私はすでにお疲れなのだ。
「ま、アンジェリカのヤツは心配いらねーだろ。なんつっても、この最強の俺様を普通に蹴飛ばすヤツだぜ。たかが儀式のひとつやふたつで、どうにかなるようなヤワな体はしてねーさ」
焚き火で焼いた肉串を豪快にかじりつつ、獅子男のギザが言った。
「そうね……。あと、なんといっても、フォーン大司教のお孫さんなんだし。儀式には慣れているのかな」
「儀式かぁ。俺らも見てみたかったっすねー」
カシムが言う。
「そうね」
マカロンさんが同意した。
私にとっては「幸いにも」な話だけど、村の広場で行った儀式は、学院生たちには見られていない。
学院生は全員、村の外周にいてスケルトンに対峙していた。
あと、これも幸いなことに、村の広場は儀式の最中、まったくライトアップされていなかった。
暗がりの中で儀式は行われた。
特に櫓の上は真っ暗で、シルエットしか見えていなかったそうだ。
巫女服姿の少女。
村の人たちは、学院生の女の子を巫女役に抜擢したという話をイレースから聞いていたこともあって――。
それが誰かもわからないまま――。
儀式をしていたのだった。
うむ。
私は安心して、儀式の巫女はアンジェだったってことにできるわけだ。
よかったよかった。
あとは明日の朝、アンジェとイレースに話をすれば大丈夫だろう。
とはいえ……。
イレースか。
彼女は、どうなんだろうか……。
ひたすらに自らの消滅を願って……。
悪魔に自ら体を売り渡した子だというし……。
村に戻って、静かな生活を送ってくれるのだろうか……。
再び悪魔に関わらなければいいけど……。
いっそゼノに頼んで、すっきりと無難な人格に改変してしまった方が誰にとっても幸せな気もするけど……。
うーん。
それは、でも、やっぱり、よくないよね……。
やめておこう。
「どうしたの、マイヤさん」
「あ、いえ。ちょっと疲れちゃってて」
考え込んでいると、マカロンさんに心配された。
するとまた、レオがバカにしてきた。
「なんだよ、クウ。だらしねーな。俺なんて見ろ、あれだけの激戦を制しておきながらまだ元気満点だぜ」
「あー、はいはい。次に襲撃があったら、またよろしくねー」
「おう。任せろ!」
レオの態度に、ギザが喜んで肩を組んだ。
「そうかそうか! レオ、おまえも力が余ってんのか! ならこの俺様といっちょ力比べでもするか!」
「あ、いえ……。今は休憩中なので……」
レオは逃げた!
さすがだ!
「がははは! なんだよ、真面目なヤツだな! それなら力比べは学院に戻ってからの楽しみにしておいてやるぜ!」
「あ、いえ……。俺は普通科なので……。そういうのは……」
「がははは! 気にするな!」
ギザが豪快にレオの背中を叩いて、レオはますます萎んだ。
ご愁傷さま。
身から出た錆だし、諦めてもらおう。
「でも、そうよね……。マイヤさんたちは、こっちに来て町に戻って、またこっちに来てで、今日の日中は移動ばかりだったものね。戦うのも大変だけど、そういうのも疲れるわよね」
レオとギザには構わず、マカロンさんは話を続けた。
「あはは。マウンテン先輩は、まだまだ元気みたいですけどねー」
マウンテン先輩はまだ警備を続けている。
「マウンテン先輩って、あの山みたいな人よね」
「はい。ですね」
マウンテン先輩は、まさにヤマちゃんなのだ。
「彼って、騎士を目指しているって聞いたけど、先生の指示に従わないで助けに来てくれたのよね。私、さっきの戦いで危ないところを彼に助けてもらって本当に感謝しているけど……。いいのかしらね」
「……それって、やっぱりマイナスなんでしょうか?」
「がはははは! マイナスというよりは失格だろ! 騎士とは、己の正義より命令を優先させる存在だぞ!」
ギザが言う。
一瞬、ムッとしたけど、反論はしなかった。
それは、そうかも知れないし。
実は私も、そう思っていたし。
マウンテン先輩は、ケロリとした顔で……。
後悔なんてする様子は微塵もなかったけど。
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