934 ウツロの村の防衛戦
こんばんは、こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、姿を消して、真っ赤に焼けた夕暮れの空の中に浮かんでいます。
眼下には、夕日を反射してきらめく森と湖が広がっています。
さらには村があります。
村は今、大変なことになっている。
はい。
誰のせいかと言えば、カンペキに間違いなく……。
私のせいなんですけれどもね……。
実働的にはだいたいゼノの仕業だけど、頼んだのは他ならぬ私なので人のせいにすることはできない。
私は、すでにそれなりに達観した気持ちで……。
眼下の防衛戦を眺めていた。
そう――。
今、村では、迫り来るスケルトンを相手に、村の男たちと先生と護衛と学院生たちによる防衛戦が繰り広げられていた。
村の人たちは、メティネイルが強制送還されたことで、すでに混沌の魔術から解かれて正気に戻っている。
敵は、最初はゾンビだったんだけど、なんかグロいので、お願いしてスケルトンに変えてもらった。
スケルトンでも十分にアンデッドなのだけれど……。
ゾンビよりはマシだよね……。
少なくとも腐肉が飛び散って、びちゃびちゃしないし。
スケルトンがゼノの指示の下、次々と村に襲いかかる。
最初は様子を見つつ、ゆっくりと単調に。
みんなが防衛に慣れてきたら、次第に強く、重傷者や死者が出ない程度の適度な激戦になるように。
「ねえ、ゼノ、フラウ……。私、思うんだけどさ……」
「どうしたのであるか、クウちゃん」
「うん。あのね。私、パーティーの先輩をちょっとだけ応援するつもりで、この計画を思いついたんだけどさ……」
「で、あるな」
「なんか、さ……。私の気のせいならいいんだけど……。ものすごい大事になっているような気がするんだけど」
「気のせいも何も、アンデッドの大襲撃だよ? ニンゲンにとっては、命と生存権を賭けた決死の大事に決まっているよね?」
ゼノに呆れた声で言われた。
「だよねー。あははー」
私もそう思います。
正確には、たった今、疑念が確信に変わりましたよ!
…………。
……。
なんか、私、ただの思いつきで、大変ことをしてしまったのね……。
今からでもやめたほうがいいかなぁ……。
なんて思うと、それを見透かしたようにゼノが言った。
「クウ、言っておくけど、この森には、アンデッドが湧きまくれるように追加で闇の力を染み込ませたからね? 使い切る前にやめるのなら、クウが責任を持って片付けてよね?」
「クウちゃん、妾もすでに、ホネドラの召喚準備に入っているのである。今から止めるのは逆に闇の力の暴走を招いて危険なのである」
「あ、うん。だよねー」
あははー。
うん。
あきらめよう!
私は何も、きっと、たぶん、間違ったことはしてない!
みんなにも最高の経験になるはずだ!
村の人には……。
うん。
ごめんなさい。
壊れた分は、しっかりと直します。
ただ、うん。
村の人にとっても、自然な形でメティネイルの影響を完全に排除できる、最高の舞台となるはずだ!
うん!
だよねー! ですよねー!
私は悪くない! すべては、みんなのため!
良いことなのだ!
お。
街道をすごい勢いで、マウンテン先輩たちの馬車が駆けてきた!
主役の登場だ!
「ゼノ、そろそろ作戦Hの実行をお願い」
「リョーカイ」
作戦H、すなわち、作戦ヒーロー。
ちょうどピンチのところにマウンテン先輩たちが駆けつける――。
自作自演の一手だ。
ゼノが、2体の騎士タイプと1体の魔術師タイプのスケルトンを、正門外の街道脇に発生させる。
どかん!
魔術師スケルトンの放った爆発の魔術が正門に直撃!
続けて騎士スケルトンが突進して、正門を破壊した!
私は正門に姿を消したまま近づく。
「正面、マズイぞ! 騎士タイプと魔術師タイプだ! 俺たちが並んで盾を構えるから学院生は横から突け!」
護衛の人が張り裂けんばかりの声で指示を出す。
正門にいるのは――。
おお!
ブレンディ先輩たちのパーティーだ!
レオとカシムもいる!
……大丈夫なのかな、あの2人。
レオは口先の権化みたいなタイプだし、カシムもレオの友人らしく同じように自信だけは1人前の子だ。
指示に従って、ブレンディ先輩とマキシム先輩は素早く横に回った!
さすがだ!
1回り大きい騎士タイプを前にしても、ちゃんと動けている!
レオとカシムは……。
「い、いいぃ、いくぞぉぉ……!」
「お、お……おぅ……」
駄目だぁ!
足も手もブルブルしちゃって、まともに動けない!
それどころか……。
ああー!
「うおおおおお!」
なぜか目を閉じて、レオが全力で突撃していったぁぁぁぁ!
と思ったら転んだぁぁぁぁ!
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
カシムは怖気づいて尻持ちをついた。
駄目だぁぁぁ!
「何を遊んでいる!」
盾を構えた護衛の人が怒りの混じった声をあげる。
レオとカシムに、騎士タイプのスケルトンの1体が向き直った。
スケルトンはすぐには攻撃しない。
狙いを定めるかのように、ゆっくりと、動けない2人に向けて長大な両手持ちの剣を掲げていく。
そこに!
マウンテン先輩たちが抜群のタイミングで到着!
ひひいいいいいん!
急停車に合わせて、馬がいななく!
「今です!」
手綱を握るマウンテン先輩が、うしろの荷台に叫んだ。
書籍第1巻、新発売中です!
どうぞよろしくお願いします!
あと、クウちゃんさま寝ていない問題ですが……。
930話に少し寝た一文を加えることで対応しました。
最近、後付設定が多くてすみません。
また何かあればぜひご連絡ください。
できるだけ修正します!




