931 クウちゃんさまの尋問
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、フラウとゼノを連れて、ダンジョンの隠し部屋にいます。
目の前には、ゼノとフラウがかけた強烈な呪縛の力で自滅した――見た目的にはエルフの少女が気絶しています。
ただ、その中身が、悪魔メティネイルであることは――。
すでに判明しています。
メティネイルは以前にも捕まえたことがあって、その時の魔力は、ちゃんと覚えているのです。
何より本人があっさり認めたので、間違いはありません。
「で、クウちゃん。こいつをどうするのであるか? 始末するのなら、妙な小細工をされる前にするべきなのである」
「だねー。悪魔は、何をしてくるかわからないし」
フラウとゼノは、とっとと殺せ、という意見だ。
「まあ、ちょっと待ってよ」
私は別の意見を持っていた。
だって、うん。
「私の勘が正しければ、これ、今、自由に出入りできる状態じゃなくて、完全に憑依してる感じだよね?」
「で、あるな」
私の推測に、フラウがうなずく。
「つまり、さ。このままにしておけば、ずっとこのままだよね?」
「で、あるな」
「それって、さ。いいよね」
今のこれは、黒いドレスを着てトリスティンにいた時のこれと比べれば、まるでたいした存在ではない。
それこそ、ちょっと邪悪な力を持ったエルフだ。
「いいのであるか?」
「うん」
「クウちゃんがいいならいいのである。では、村に帰すのであるか?」
「んー。問題はそこだよねー」
どうしたものか。
いくら中身が悪魔でも、器はエルフの女の子なのだ……。
「クウ、言っとくけどこいつ、森に闇の力を広げて、アンデッドの生まれやすい土壌にして、邪悪な儀式をやろうとしていたからね? ほとぼりが冷めれば、絶対にまたやろうとするよ」
ゼノが言う。
「それはわかるけどねえ」
呪縛では、すべての行動をがんじがらめにできるわけではない。
制限できる行動は、基本的に1つだけだ。
強引に複数をかけることはできるけど、重ねがけするほど、それぞれの呪縛の効果は半減していく。
一般人相手ならそれでも十分だけど……。
悪魔相手では破られる可能性が高い。
なので今回は、殺すことだけに絞って禁止にした。
効果は強烈で、逆らったメティネイルは気絶した。
ただ、うん。
つまり、殺さないように気をつければ邪悪なこともできるというわけだ。
となれば……。
やっぱり、消してしまうのが簡単だ。
そうすれば目の前の問題は、すっきりと解決する。
とはいえ、これはチャンスなのだ。
せっかく自分から弱体化してくれているのに、帰すのはもったいない。
どうせならこのまま、平和を担保したい。
「とにかく起こすね」
私は、メティネイルの上半身を抱えて、頬をぺちぺちと叩いた。
「ん……。んん……」
メティネイルが、ゆっくりと瞼を開ける。
「おはよ」
私は笑いかけた。
「おはよぉ……。って……! ちょおおおおおお!」
「どうしたのー?」
「青色……!」
「まあ、うん。青色だね」
私の髪は。
「死ね! シネシネシネシネシネシネシネシネ! あばばばばばばば!」
「あははー。凝りないねー」
またも呪縛で悶絶するメティネイルに、私は明るく笑った。
再び起こしてあげる。
「……で、何? さっさと殺してほしいんですケド」
「だからー、殺さないってばー」
「…………」
赤く輝いた瞳で、じっーと睨まれた。
魔眼だね。
ふむ。
私も真似をしてみた。
全系統の魔力を瞳に込めて、じーっと見つめてみる。
「ぎゃああああ!」
あ、勝った。
メティネイルが卒倒した。
しょうがないので、またもや起こしてあげる。
「で……。こんなところに閉じ込めて、この可愛いだけが取り柄のメティちゃんをどうする気なんデスカー?」
ふむ。
気のせいか、どこかで聞いたことのあるセリフだね。
まあ、いいけど。
ともかくメティネイルは、前に捕まえた時もそうだったけど、過激な言動の割にあきらめの早い性格のようだ。
あぐらになって座ると、はぁと息をついて――。
「もういいからさー。さっさと好きにしてよー」
と、自棄気味に言った。
「というか、メティちゃんに酷いことをするのは、このエルフの娘への虐待ってことになるんですケド! わかってるんデスカー! メティちゃんは、ただ憑依しているだけですし! このエルフ虐待魔ー! いやー、誰か助けてー! 私、エルフの女の子なのにこれから虐待されるのー!」
言われなくても、それはわかっている。
だから、苦慮しているのだ。
この後、いくらか詳しい話を聞いた。
メティネイルは、嘘も混じっているかも知れないけど――。
聞かれたことを素直に答えた。
イレースという子は、かなり人生に絶望していたようだ。
自ら破滅を望んで、悪魔の声を聞き、自ら体を悪魔に譲り渡したようだ。
「ま、フォグの計画ではね、この子にすべてやらせて、あとは見ているだけって予定だったんだけど」
メティネイルはまさに、好奇心猫を殺すだったようだ。
「ねえ、その子って、君を返したら元に戻るの?」
「今なら戻るんじゃないのー? この子の精神自体は、私になった心の奥底で昏睡していて、まだ溶け切ってはいないし」
「なるほど……」
「でも、やめてあげてよね。この子の望みは消えることなの。悪魔的にはそのお願いは叶えてあげたいし」
「どうして?」
「悪魔は契約の存在なの。約束は、ちゃんと守るのよ」
メティネイルが偉そうに言う。
……悪魔って、意外と律儀なんだね。
なんて私が思っていると、ゼノが教えてくれた。
悪魔は、自らの存在を契約と接着させることによって次元の壁を越えて、こちらの世界にやってくるのだそうだ。
なので、契約を無下にすることは、豊富に糧を得られるこちらの世界にいられなくなるだけではなく――。
自らの存在自体にも、傷を与えることになるのだそうだ。
なので、契約だけは守るらしい。
「なんにしてもさ、クウ。さっさとその悪魔は殺して、その子を解放してあげるべきだと思うんだけどね、ボクは」
「んー。そうだねえー」
それしかないのかなぁ。
メティネイルの言われるままにするようで、すごく嫌なんだけど。
「ほら、殺しなさいよ! 殺せ! 殺せ!」
すでに負けを認めているメティネイルまでもが私を煽ってくる。
んー。
「ねえ、たとえば、悪魔だけ別の器に移すことって出来ないのかな? たとえば壺の中に入れちゃうとか」
「え」
メティネイルが、ぴたりと体を止めた。
「そうすればさ、逃げることも動くこともできなくなって、長期間そのままにしておけるよね」
いわゆる、封印だね。
「……クウ、それは不可能だしやめておこう」
「クウちゃん、妾も無理だと思うのである」
「んー。そかー」
ゼノとフラウの言葉を濁した微妙な態度を見て、私は気づいた。
考えてみれば禁忌なのか。
古代ギザス王国が精霊ちゃんたちを閉じ込めて、好きなようにしてきた真っ黒な歴史があるわけだし。
気軽に口にしていいことじゃなかったね……。
「……あ、あのー。青色は、そんなこともできるワケ?」
「できないと思うの?」
やったことはないし、やる気もなくなったけど……。
口に出してしまったものはしょうがないので、強気に振る舞ってみた。
「あのー……。それだけは許してほしいんですケド……。メティちゃん、素直になんでも言うことを聞くので……」
「ほほお。なんでも?」
「は、はい……」
効果はテキメンだった!
ふむ。
どうしようか。
そうだ!
「ねえ、ならさ、悪魔の召喚の仕方を教えてよ? どんな風にやるの? 必要な魔法陣とかあればさ」




