929 死闘の結末
【死闘の結末(アンジェリカ視点)】
そうだ――。
私、アンジェリカは――。
最後の力を振り絞って、もう1度、メティネイルの腕を掴んだ。
もう握力は入らないけど――。
お願い、『フェアリーズ・リング』――!
指輪が持つ、安定発動の力を借りて――。
振り絞った魔力を、メティネイルの体に叩き込んだ。
「がぁ……。なっ……!」
メティネイルの瞳が、驚愕と共に開いた。
私はそのまま体重をかけた。
バランスを崩して、2人もろとも地面に横から転んだ。
「は……。は……っ!」
私は小さく笑った。
「こ、これは……。なんで……。メティちゃん、痺れて……」
すぐには動けないでいるメティネイルよりも早く――。
なんとか身を動かして――。
全身で、メティネイルを抱きしめた。
そして、魔力を注いだ。
そう――。
「ぐ……。が……。バ、バカな……。やめ……」
「やめるワケ――。ないでしょ――」
――ねえ、アンジェ、知ってた? 霊的な存在にとって、他人の魔力っていうのはすごい衝撃になるんだよねー。
――だから、生意気な精霊――だけじゃなくて、悪魔とか幽霊がいた時には魔力を流して大人しくさせるといいんだよー。
クウはそう言って笑いながら、ぐったりしたシャイナリトー様を膝の上でふもふもして可愛がっていた。
まあ、うん。
笑って言うことでは、ないと思うけどね……。
他人の中に魔力を流すには、密着の必要があるとのことだった。
魔法としてぶつけても、中には入らないそうだ。
なので――。
グロテスクな相手には、無理よね――。
「小娘の……。分際で……!」
「年なんて――。見た目は、同じようなモンでしょ――」
うん――。
まだメティネイルでよかったわね――。
加えて、魔力には相性もあるし、威力の問題もある。
相性の良い魔力では喜ばれるだけだし、弱くては何の意味もない。
私の、魔力は――。
うん――。
精霊様を信じて、頑張ってきた甲斐があったわね――。
彼女に、ちゃんと効いている――。
ああ、でも……。
私は、限界みたいだ――。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
このメティちゃんに、痛みを与えるだとぉぉぉぉ!」
悪魔の咆哮が聞こえる。
ダメだったみたいだ。
渾身の力で注いだ魔力が、跳ね返されたのがわかる。
でも――。
私、少しは抵抗、できたわよね……。
ねえ、クウ、どうかな……。
今度こそ――。
クウを思い出させる、優しい青い光に包まれて――。
そんな幻想を感じながら――。
私は、意識を失った。
【真っ白な世界で……(メティネイル視線)】
イレースちゃんこと、この私、メティネイルは――。
真っ白な世界の中で――。
ゆっくりと、意識を取り戻そうとしていた。
意識が浮かぶにつれ込み上げてくるのは、当然ながら怒りだ。
クソが……。
自分が、どうされたのかはわかる。
風と火の魔力を、ダイレクトに注がれたのだ。
それによって、イレースに憑依している私の霊体が激しく揺らいだ。
揺らいで――。
揺らいで――。
いや、でも、おかしい……。
メティちゃんは、たしかに揺らいだけど、あんな小娘程度の魔力でどうにかなるはずはないのだ。
あれは油断して、直撃を受けてしまっただけなのだ。
最後には、キッチリ跳ね返したはずだ。
今度こそ可愛いオニンギョウさんにしてやるはずだったのだ。
なのに……。
私は意識を無くしていた?
そんなバカな……。
ああ……。
それにしても、ここはどこなんだろう。
ひたすらに白い……。
私はゆっくりと、瞼を開いた。
「やっほー」
すると、明るい声がかかった。
真っ白な世界の中――。
「おはよー。メティちゃん、久しぶりだねー。元気だったー?」
自然の輝きに満ちた青空のような髪を揺らめかせて、悪魔に悪夢を見せる笑顔が何故か私の近くにはあった。
ああ……。
うん。
はい。
私はなんとなく、状況を悟った。
どうやら、また。
見つかって、捕まったのね。
私は、イレースの体を持ち上げて、重いため息をつきつつ、すべてをあきらめてあぐらをかいて座った。
「……で? 何? 殺すならさっさと殺しなさいよ」
「あははー。バカだなー、もう。殺すわけないでしょー。せっかく、そんな弱い子になってくれているのにー」
はんッ! なら自分で死んでやるわよ!
私は、自分で自分の首を貫こうとしたけど――。
「ぎゃあああああ!」
体に激痛が走ったぁぁぁぁぁぁぁ!
「あー、ごめんねー。本当はやりたくなかったんだけどさー、ちょっとだけ呪縛をかけさせてもらったよー」
「はぁぁぁ……? 呪縛……? 悪魔のこのメティちゃんに?」
「うん」
「というか、かけたのはボクだけどね」
「妾も手伝ったのである」
「そんなバカなぁぁぁぁ! とにかく死んで帰る――、ぎゃあああ!」
「無理だよー。とにかく殺すの禁止だもーん」
そんな、バカな……。
だもーんって、何よ……。
私は激痛で、再び意識を無くした。




