922 閑話・アンジェリカはミーティングに参加した
先生たちがやってきて、私たちは湖岸のキャンプ地に整列した。
4パーティー、計24名。
全員、剣や魔術に覚えのある学院生だった。
私、アンジェリカも当然、姿勢を正してその列に加わった。
先生が話を始める。
「まず最初に、あらためてだが、突然の襲撃にもかかわらず、皆、よく怯むことなく応戦してくれた。君たちが優秀で勇敢な人材であることは、たしかに我々の目で見させてもらった」
その称賛の言葉に、みんな、誇らしげな表情を浮かべる。
「来襲してきた敵だが――。護衛とも協議した結果、あれはガーゴイルと呼ばれる魔物で間違いないとの結論に至った」
ガーゴイル……。
私は、初めて聞く名前だった。
「ガーゴイルは、主にダンジョンの深層部に現れる守護型のゴーレム。普段は石像のようにじっとしているが、守護領域に何者かが侵入すると、動き出して襲いかかるBランクに指定される魔物だ」
広場にわずかなざわめきが走った。
Bランクの敵といえば、いくら腕に覚えがあっても、学院生では手に余るほどの難敵だ。
よく俺たち勝てたな……。
という声が聞こえる。
ふふ。
私の強化魔法のおかげかな?
そうよねっ!
…………。
……。
うん、慢心はやめておこうね、私。
先生方や優秀な護衛の人たちのおかげよね、実際には……。
「当然、このような普通の場所に現れる敵ではない。村人に確認を取ったが、一度も見たことはないそうだ」
それはいったい、どういうことなのだろうか。
ひとつだけ私にもわかるのは――。
「つまり現在、この周囲では異常な事態が起きている」
先生は言った。
私も、それと同じことを思った。
「協議の結果、我々が導いたのは、この地に新しいダンジョンが発生しようとしているのではないかという憶測だ」
おお。
再び私たちの間にざわめきが起こった。
新しいダンジョンは、まさに夢の舞台。
危険が多い反面、たくさんのアイテムを手に入れることができる。
もちろん名誉も。
最初の踏破者は、大いに称えられる。
ロックさんたちがSランク冒険者になれたのも――。
ディシニア高原に生まれたダンジョンを、最初に踏破したことが大きかったと言われている。
「言っておくが、ダンジョンに挑もうなどと思うなよ? 残念だが、君たちにはその実力も時間もない。護衛の方々も大いに興味津々のようだったが、彼らにも我慢してもらうことにしたのだ」
先生が苦笑いしつつ言った。
そりゃ、ね。
護衛の皆さんは、多くが冒険者だし。
新しいダンジョンには、さぞかし興味があることだろう。
それにしても……。
ダンジョンか……。
私は話を聞きつつ、森に目を向けた。
午前の明るい時間なのに、森はびっくりするほどに暗い。
本当に不気味だ。
そりゃ、朝からゾンビが出るくらいだしね……。
そんな森に生まれるダンジョンは、やっぱり墳墓系なのだろうか。
中にはアンデッドがわらわらいるような。
「しかし、安心しろ。研修を中止にするわけではないぞ。君たちには予定通り村人の手助けをしてもらいたい。今夜は、精霊様を称える祭りなのだそうだ。祭りの手伝いに村の警護。やることは多いぞ」
先生の言葉に、今度は喜びの声が上がった。
このまま中止で帰還。
さすがにそれでは、他の組と差がついてしまうだろうし。
「あと、ルシア。皆への配慮、見事だった。馬車を守りきった手際といい、大したものだな」
「いえ、当然のことをしたまでです!」
「うむ。午後も頼むぞ」
「はい!」
先生と護衛の人たちは、午後は村の外に出るそうだ。
揃って、街道の安全確認をするらしい。
あと余裕があれば、森の中に入ってダンジョンの発見に努めるそうだ。
学生は、村から出てはいけないということになった。
ルシア先輩がまとめ役に任命された。
馬車を守りきった実績もあり、反対の声はなかった。
ブレンディ先輩やマキシム先輩は、悔しそうな顔をしていたけど。
「何か質問のある者はいるか?」
「はい――」
先生に問われて、私は手を挙げた。
「言ってみろ、フォーン」
「あの、午後になったら、もう一組くると思うんですけど……。新街道を選んだマウンテン先輩のチームが――」
クウのいる。
「大丈夫だ、安心しろ。街道を進んで、最初に事態は伝える」
「そうですか」
「彼らには町に戻ってもらって、冒険者ギルドで依頼を受けてもらう予定だ」
「え。そ、そうなんですか……?」
「今更来たところで、ガーゴイルとの激戦をくぐり抜けた君たちと同等の評価を得るのは厳しい。それならば、完全に別視点となって、別の場所で活躍してもらう方が良いだろうと我々は判断した」
「そうですか……」
私は正直、かなり落胆した。
だって、うん。
クウがいれば、クウさえ来てくれれば、間違いなく、あっという間に、何が起きていても解決なのに……。
評価を考えれば、先生の言うことはわかるけど……。
「どうした、フォーン? 町に戻りたくなったか?」
あ、いけない。
先生に不審がられてしまった。
「アンジェリカはマウンテンのチームに親しい友人がいるのです。会えなくなって残念なのでしょう」
すぐにルシア先輩がフォローしてくれた。
「はい。それだけです。やる気はありますので心配は無用です」
「そうか。無理をする必要はないからな。皆も、どうしても無理だと思ったら村長の邸宅でじっとしているように。今回は異常事態だ。たとえそうしても最低評価にはならないから安心しろ」
でも、高評価にならないことは確実だ。
私は1年生なので、今回の評価で人生が決まるわけではないけど……。
情けないことをしていては……。
クウどころか、セラやスオナにも置いていかれてしまう。
それは絶対に嫌だ。
うん。
頑張ろう……!
あと、突然の襲撃に備えて、村の中でも武器は所持することになった。
私は腰に剣をつけた。
魔術師と言えば杖が普通なんだけど……。
一応、今回も持っては来たけど……。
正直、今の私にとって、杖は形式的に持っているだけのものだった。
なにしろクウからもらった「フェアリーズリング」の魔法発動の補助効果が完璧すぎて他にいらないのだ。
私はメイヴィス様から剣も習っている。
襲撃に備えるなら、杖よりも剣の方がよかった。




