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920 閑話・アンジェリカは村に着いて……。





 私、アンジェリカ・フォーンは、今――。

 帝都から馬車で1日と少し離れた森の中の小さな村にいた。

 正直、純粋な距離でいえば、夏休みにクウたちと行った帝国南岸の海洋都市リゼントの方がずっと遠い。

 だけど雰囲気としては、この村の方が異世界に感じる。

 なんだろう……。

 森に入ってからずっとだけど、妙な不快感があるのだ。

 肌に粘りつくような嫌な感覚が消えない。

 最近、このウツロ村の周囲の森ではアンデッドモンスターが出現するという。

 先程もゾンビがいた。

 そのせいなのだろうけど……。

 土地が何らかの影響で、穢れているのだろうか……。

 おじいちゃんから聞いたことがある。

 アンデッドモンスターは、土地の穢れによって現れるのだと……。


 私がその懸念を話すと――。


「それは調査のしがいがあるわね」


 私たちのパーティーリーダーで、私にとっては寮の先輩でもある、騎士科5年生のルシア先輩は、やる気に満ちた顔を見せた。


「アンデッドかぁ。スケルトンなら殴れば砕けるから楽なんだけど、さっきみたいなゾンビは嫌だなぁ」


 同じく騎士科5年生のネスカ先輩は顔をしかめる。

 ネスカ先輩は格闘で戦う。

 ゾンビの腐食した体とは相性が悪いのよね。


「ネスカは剣も使えるでしょう? 剣で斬りなさいな」

「それはそうなんだけどね」

「アンジェリカ、穢れている場所というのは、見ればわかるものなの?」


 ルシア先輩が私に聞いてくる。


「おじいちゃんが言うには、そういう場所には、原因となる何かのあることが多いそうなので、注意深く見ていればわかると思います」

「具体的には、どんなものなの?」

「自然発生の源になるのは、魔物の死骸が多いそうです。人為的であれば呪いの印なんかも見つかるそうです」

「うーん。不気味ねえ」

「そうですね。なにしろアンデッドの発生源ですし」

「アンジェリカは平気そうね」

「そんなことはありませんけど。そうですね……。それなりに冷静にしゃべっている自分がいますね」

「まるで他人事ね」


 ルシア先輩に、呆れたように言われた。


「たしかにそうですね」


 自分でも不思議な感覚だった。

 死や闇のことを考えると、ふわりとゼノさんの笑顔が浮かんで、妙に冷静になる自分がいる。


「ま、なんにしても、許可が出ればよね。なんか変なヤツも出たし、最悪、このままキャンプだけして帰還、なんてことにもなりかねないし」


 ネスカ先輩が肩をすくめて言った。


「そうねぇ……。ところで私たち、先の襲撃戦では活躍したわよね?」


 ルシア先輩がネスカ先輩に確認を取る。


「それは当然ね。私たちだけ馬車を守り抜いたんだから」


 ネスカ先輩は迷いなく肯定した。


「そうよね。なら、帰還は帰還でアリね。その方が私たち的には高評価をもらえる気もするし」


 そんな先輩たちの会話を聞きながら――。

 口にも態度にも出さないけど、私は心の中でだけ大いに誇っていた。


 馬車を守ったのも、先の勝利も、まさに私の魔法のおかげよね!

 私って、やっぱりすごいわよね!

 練習の成果がバッチリ出ていて、我ながら感動ものね!


 あとで、クウにだけは自慢しよう。

 そう。

 なんにしても、午後になればクウが来るのだ。

 いったい、このウツロ村で、その周囲の森で、何が起きているのか、それは私にはわからないけど……。

 クウが来た時点で、すべて解決だ。

 その点については、圧倒的な確信と信頼があった。

 なのでとりあえず、午後までは下手なことはせず、のんびりとテントの設営でもしていればいい。

 私は、そう思っていた。


 私たちは馬車と共に、湖岸のキャンプ地に着いた。

 もちろん、他のパーティーも一緒だ。


「ねえ、みんな、ちょっといいかしら」


 ルシア先輩が私たちに提案してくる。


 研修での行動はパーティー単位だ。

 寝るのも食べるのも、パーティーごとに別個に行う。


「ただ今回は、特例だと思うの。完全に予期しない襲撃だったし。だから、私たちの道具や食料を他のパーティーに提供するのはどうかしら。私たちのテントには余裕があるから他のパーティーの女子を受け入れてもいいし。食事は、みんなで一緒に作ってもいいかも知れないわね」


 私たちは馬車を守りきって、すべての道具と食料が揃っていた。

 だけど他のパーティーは馬車を破壊されて、その時に、たくさんの道具と食料を無くしている。


「はい。いいと思います。困った時はお互い様ですし」


 私は賛成した。

 他のメンバーもみんな賛成した。


「なら早速、声をかけてくるわね! もちろん、私たちが主導して昼食は作るから準備しておいて!」


 私は懐中時計を開いた。

 時刻は、午前10時にもなっていなかった。


「先輩、まだ昼食には早いですよ」

「ああ、そうね! なら、そういう提案だけしてくるわ!」


 ルシア先輩は行ってしまった。

 話はすぐにまとまって、今回の研修では、残った食料を合わせて全員で食事を取ることに決まった。

 あと女子の参加者は私たちのテントで寝ることになった。


「ふふ。みんな、頑張りましょうね。私たちのパーティーが今回の研修のキャンプ生活を支えるわよ」


 話を主導できてルシア先輩は上機嫌だ。

 そのリーダーシップは、確実に高評価につながるだろう。


 テントは問題なく設営できた。

 先生たちの協議はもう少しかかるそうなので、1時間の自由時間となった。

 ルシア先輩たちは仮眠を取る。

 ギザは、他のパーティーの1年生の男子――クウのクラスメイトのレオという子を連れて村の見学に行った。

 レオは露骨に嫌そうな顔をしていたけど、断りきれなかったようだ。

 私も誘われたけど、当然ながら断った。

 どうして自由時間までギザといなくてはいけないのか。


 私はどうしようかな……。


 1年生の女子は、この組では、私とクウと、クウのパーティーメンバーのエルフの子だけだ。

 クウたちは新街道ルートなので、まだウツロ村には到着していない。


 眠気はなかった。


 なので、湖のほとりにでもいることにした。

 たまにはのんびり湖を眺めるのも、悪くはないだろう。

 湖に嫌な気配はない。

 湖面もキラキラとして綺麗だった。


「ねえ、貴女、アンジェリカっていうのよね」


 そこにうしろから声がかかった。

 誰なのかはわかる。

 ゾンビに襲われていたエルフの少女――。

 イレースだ。


「よかったらさ、イレースちゃんとオハナシしてくれないかなー?」


 ゾンビに襲われたショックはもう抜けたようだ。


「あ、イレースちゃんって私ね? 気楽にイレースって呼んで。私もアンジェって呼ばせてもらうからさー」


 横から顔を覗き込んでくるイレースは天真爛漫だった。

 外見的には内向的で大人しそうな子に見えるんだけど、実際には真逆でかなり馴れ馴れしい子のようだ。

 だけど、嫌いなタイプではない。

 むしろ昔の私みたいで、好きなタイプだった。


「ええ。わかったわ。あらためて初めまして、イレース」


 私は笑顔で彼女の申し出に応じた。







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[一言] 悪意が迫るぞう
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