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917 閑話・悪魔メティネイルの計画




 まず、帝都から来たエリートの学生たちには全員死んでもらう。

 これは決定っ!

 何故ならば、村人にも全員死んでもらうからだ。

 私ことメティちゃんは公平な悪魔なのだ。

 贔屓はしない。


「問題は、どう殺すかよね……」


 そこが難しい。


 森に住んでいる魔獣グリーディ・ボアをけしかけて襲わせる?

 うーん。

 グリーディ・ボアは、好戦的なだけの魔獣だ。

 素人ならともかく、剣や魔術に心得のあるヤツを始末するのは無理かぁ。


 なら、アンデッドをけしかけるか。

 幸いにも前世の私が森に呪印を刻んでいるので、今の森にはゾンビやスケルトンが普通に出現する。

 うーん。

 こちらも素人しか殺せないか。


「いっそ、ガーゴイルでも作るかなぁ……。でもなぁ……」


 今の私でもガーゴイルくらいなら作ることはできる。

 翼を持ち、空を飛ぶこともできる、魔像だ。

 ガーゴイルなら、腕に覚えのあるニンゲンでも始末することはできる。


 でも……。

 迂闊に力を使えば、青色髪に感知されるかも知れない……。


 別に怖いわけじゃないけど……。

 今度はブチ殺すだけだけど……。

 とはいえ……。

 よく考えてみれば、どっちにしても儀式はやるのだ。

 それも派手に。


 だいたい、今の私はエルフの少女なのだ。

 この体には、水の魔力が満ちているのだ。

 エルフのフリをしていれば、たとえ青色髪が来たとしても私が悪魔だとはわからないに違いない。


 私は朝から1人で森に入った。

 ガーゴイルを混沌の魔術で生み出す。


 1体。

 2体。

 3体。


 現れたガーゴイルは待機させる。

 私は緊張しつつ、あたりの様子をうかがった。

 しばらくの時間が過ぎた。

 よし……。

 青色髪が現れる様子はない……。

 さすがの青色髪も、何もかも、即座に気づけるわけではないのだろう。


 安心したところで――。


 タイミングよく、森の中の道に馬車がやってきた。

 私は使い魔にしたカラスを飛ばして、カラスの目を通じて様子を窺う。

 馬車は4台。

 うしろには、馬に乗った護衛が何人かいた。

 話に聞いていたエリート学生の一団だ。

 完全に警戒態勢だった。

 護衛だけでなく、荷台にいる学生も武装して周囲を見ている。


 さて。


 どうやって襲うか。


 考えて私は、良い方法を思いついた。


 ガーゴイルたちに命令を与えてから、ゾンビを呼び寄せる。


「きゃー!」


 私は悲鳴を上げて、倒れるようにして街道に躍り出た。

 現れたゾンビから逃げてきた!

 今の私は、薬草を摘みに来たエルフの少女!

 せっかくだし、被害者のフリをして、間近で殺されるニンゲンどもを見てやろうという算段なのだ。

 加えて、私とゾンビに気を取らせる。


「誰かぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇ!」


 私は叫んだ。

 ちょうど曲がり角から、先頭の馬車が来たタイミングだった。

 森から現れたゾンビが――。

 転んでしまった私に、ゆっくりと襲いかかる!


 その数は2体!

 メティちゃん、絶体絶命!


 お!


 勇敢な2人の学生が、馬車から飛び降りて、剣を抜いて助けに来た!

 2体のゾンビvs2人の学生!


「レオ! 落ち着いて行くぞ!」

「おう、ブレンディ先輩!」


「ブレンディ、ゾンビの弱点は頭だ! 頭さえ潰せばゾンビは活動を停止する! 相手の動きは遅い! よく見て、確実に当てろ!」


 うしろに残った学生が指示を出す。


「任せろ、マキシム!」


「レオは、片方の注意を引け! 爪は食らうなよ! 毒があるぞ!」

「おう、マキシム先輩!」


 むう。

 勝負は悲しいほど簡単についてしまった。


 ブレンディという男が、先制の一撃で軽々と一体を葬った。

 まあまあ、良い動きだ。


 レオの方は、完全に素人だったけど……。

 それでも必死に振り回した剣が、偶然にもゾンビの首を刎ねた。

 運は良いようだ。


「うおおおお! やった! 俺もやったぞおおおおお!」


 レオが吠える。

 たかがゾンビを倒した程度で、大決戦を制したかのようだ。


「まだいるかも知れない! レオ、安心するな!」

「お、おう……。わかった……」


 マキシムは冷静だった。

 すかさず注意して、森の中に目を向ける。


「君、大丈夫か?」


 ブレンディが、倒れたままの私のそばで膝をついた。


「俺はブレンディ。俺たちは帝都から研修で来た学院生だ。君は、この先のウツロ村の娘さんか?」

「はい……。危ないところを助けていただき、ありがとうございました……」


 私は村娘を演じる。

 私は立とうとして、


「いたっ!」


 足首をひねって、歩けないフリをした。

 後続の馬車も足を止めた。

 ゾンビが現れたことで、彼らの注意は周囲の森に向いている。


「レオ、この子を頼む。馬車に運んでやってくれ。俺は警戒に当たる」

「わかったぜ、先輩」


 ブレンディに頼まれて、レオが私のところに来た。


「おい、大丈夫か?」

「はい……。なんとか……」

「って、立てないのか。ほら、つかまれ」


 レオに手を借りて、私はよろよろと身を起こした。


「きゃ」


 なんてわざとらしい声を上げて、倒れて、支えてもらってみる。


「……おい、おまえ、大丈夫か?」

「うん。ありがと。……あの、私、イレースって言うの、名前」

「俺はレオだ」

「ありがとね、レオ君」

「お、おう……」


 レオが、思いっきり照れた顔を見せる。

 ふふ。

 メティちゃん、まさに美少女!


 ちなみにイレースとは、このエルフの少女のそもそもの名前だ。

 私も使わせてもらっている。


 騒ぎを受けて、他の馬車からも学生たちが降りてくる。

 うしろいた護衛の男たちは前に出てきた。


「マキシム、的確な指示だったな」

「ありがとうございます、先生。少女を馬車に乗せたら、このまま警戒体制でウツロ村に向かいます」

「うむ。良いだろう。……しかし、不気味な森だな」

「はい――。まさかゾンビが出るとは」


 彼らの注意は完全に森に向いた。


 まさに、その時だ。


 樹冠の上から突然、3体のガーゴイルが襲いかかるっ!

 完璧な不意打ち!

 計算通り!

 こいつらは何もできず、慌てふためく内にミナゴロシ確定だねっ!

 さすがはメティちゃん!

 天才すぎる!

 かしこい悪魔ちゃんとは、まさに私のことだね!








挿絵(By みてみん)


書籍版もよろしくお願いします。

10月18日刊行です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 悪人の作戦が成功してはダメだけど、次回続くパターンは失敗してそうなオチが見えてしまう(笑) どうなる次回!
[良い点] クウちゃんめっちゃかわ……!
[一言] クウちゃんが意外とエロカワ系なのにびっくり! 650話からてっきりクウちゃんとセラはぺたん娘と脳内イメージしておりましたw セラやヒオリさんはどんな娘に描かれるのかな?
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