911 ライバル!
「なんにしてもマウンテン、メンバーが見つかってよかったな」
ブレンディ先輩がマウンテン先輩にしゃべりかける。
彼らは共に騎士科の5年生。
当然ながら顔見知りのようだ。
「まさかそのメンバーが、店長さんだとは思わなかったが。店長さんは、レオのクラスメイトでもあるんだよな?」
「はい。そうですね」
一応は。
「レオから話は聞いているが――。本当に大丈夫なのか? 剣を振るだけで転ぶくらいなんだろ?」
ロックさんとの練習のことかー!
アレは目立たないように、わざと転んだだけなんです!
とは言えないので……。
「いやー。あははー。平気ですよー」
仕方なく私は笑ってごまかした。
「しかし、今回はマウンテンが羨ましいな。店長さんといい、そっちのエルフの子といい、可愛い後輩を2人も連れてピクニックとはな」
「ピクニックではありません。野外研修です」
ブレンディ先輩の軽口に、すぐさまマウンテン先輩が反応する。
「その子たちを連れて、魔物と戦うってか?」
「守ってみせますよ」
「まあ、そうだな、おう。せいぜいカッコいいところを見せてやるんだな。うちはマキシムの二次選抜がかかった真剣勝負だからな。悪いが、最速で村に着いて、最速で狩りを始めさせてもらうぜ」
そういえばマキシム先輩も騎士を目指しているんだったね。
彼も一次選抜には入れなかったのか。
「随分と見くびられているようですが――。うちのメンバーは、こう見えて驚くほどに優秀ですよ」
マウンテン先輩が余裕の表情でそう答えた。
なにしろマウンテン先輩は、私が回復魔術と補助魔術の達人であることを知っているわけだしね。
「フン、その通りだ。ここで暴れては退場になってしまうので自重してやるが、現地でも無礼な口を利くなら容赦はしないからな」
さらにサクナが追撃する。
この子も一応、剣に加えて風の魔術をも操る、それなりの使い手だ。
「はっ! テメェなんざ、この俺で十分だぜ! いつでも相手になってやるから外に出たらかかってきな!」
サクナにレオが威勢よく噛みつく。
なんか、うん。
朝からバチバチだねえ。
場の空気から取り残された私が、のんびりと様子を見ていると――。
「ブレンディ、レオ、いきなり喧嘩をふっかけてどうする。マウンテンは、ライバルではあっても敵ではないぞ」
そこにマキシム先輩がやってきた。
「すまん、マウンテン。朝から仲間の元気が良すぎて」
「いいえ。ここで疲れてくれれば、むしろありがたい話でしょう。確かにライバルではあるのですから」
「お互いに悔いのないように頑張ろう」
「ええ」
話していると、さらに2人の男子生徒が集まってきた。
騎士科の同級生のようだ。
マウンテン先輩は人気者だね。
と言って良いのか、悪いのか。
「へー。これがマウンテンのパーティーメンバーか。頑張って魔女の装備なんかして可愛い子だな」
「でも、ただの普通科の子なんだろ?」
「いいじゃねーか。可愛ければ」
「それはそうか。俺らも声くらいかけてみればよかったかもなー」
わははは!
騎士科の先輩たちからは、実に愉しげな笑いが溢れた。
余裕の態度だね。
ちなみにサクナはレオといがみ合っている。
私はニコニコしていた。
ここはマウンテン先輩にお任せするべき場面だろう。
「2人とも、いい加減にしてくださいね。喧嘩を売っているのなら、あとで喜んで買わせていただきますよ」
ずい、と、マウンテン先輩が前に出た。
途端、険悪なムードになる。
ふむ。
どうやら相手の2人は、騎士科の同級生の中でも二次選抜から中央騎士を目指すライバルたちのようだ。
彼らはマウンテン先輩に、恥をかく前に棄権したらどうかと言ってくる。
ピクニック・パーティーに何ができるんだよ、と。
空気は、ますます悪くなった。
はてさて。
どうしたものか。
いつまでもニコニコしているのも疲れてきたよ。
と。
そこに――。
「皆様、ごきげんよう」
私たちのパーティーの最後のメンバーが現れた。
振り向くと――。
完璧に手入れされた長い髪を朝日に煌めかせる純正のお嬢様がいた。
オーレリアさんだ。
「おはようございます、オーレリアさん」
私は笑顔で挨拶した。
「オーレリア様、おはようございます。どなたかのお見送りですか?」
礼儀正しく一礼して、ブレンディ先輩がたずねる。
ちなみにオーレリアさんが現れて、レオと他の男子生徒たちも姿勢を正しくして丁寧に会釈した。
正直、私はあんまり気にしていなかったけど……。
オーレリアさんは伯爵家のご令嬢。
中央貴族では、ディレーナさんに次いで格の高い存在なのだ。
「いえ。わたくしも参加者ですが」
「オーレリア様……。それは、野外研修のですか?」
ブレンディ先輩たちは、どうやらうちのメンバーの最後の1人がオーレリアさんとは知らなかったようだ。
「ええ。今回はクウちゃんに誘われまして。よろしくお願いしますわね」
「……そ、それは本当ですか?」
「もちろんです」
ブレンディ先輩たちは固まってしまった。
まあ、うん。
オーレリアさんは、どこからどうみても冒険なんて柄じゃないよね。
誰だ、野外研修なんかに誘ったのは。
私か。
「クウちゃん、荷物はどの馬車に入れればよいのかしら」
オーレリアさんのうしろには、それぞれにキャリアで荷物を運ぶ5人のメイドさんの姿があった。
「あの……。オーレリアさん、それって全部、旅の荷物ですか?」
「ええ。そうですけれど。やっぱり少なすぎたかしら」
「多すぎです! 馬車に入りませんよ! せめて半分、いえ、1つのケースにまとめてください!」
「ええっ!? それではドレスすら入りませんわよ!?」
「いりませんよ、ドレスなんて!」
「でも、付き添いのメイドたちの馬車に乗せれば問題ありませんわよね?」
「そもそもメイドなんて連れて行けませんからね?」
「え?」
「え、じゃありません。メイド禁止です」
「冗談……。ですのよね……?」
「いいえ。本当です」
「ええええええ!?」
オーレリアさんは本気で驚いていた。




