899 アンジェ
いやー、私、実にいい仕事をしたっ!
すばらしいねっ!
私はすっきり爽やかな気持ちで、その日は気持ちよくふわふわして、夕空の中を帰路につくことができた。
サクナのことは、すっきりというか、なんというか……。
結局、押し切られてしまっただけなんだけど……。
まあ、うん。
メンバーはメンバー。
揃ったので、よし!
細かいことは気にせず、素晴らしいということにしよう。
ヤマちゃんことマウンテン先輩は、あまりに大きな図体から人には敬遠されがちのようだけど、根心の正しい人だ。
世界へと羽ばたくため、野外研修は頑張ってほしい。
お手伝いできて、本当に良かった。
メンバーも、まあまあ優秀だ。
まずは、私。
うん。
最強無敵のクウちゃんさまです。
次にオーレリアさん。
うん。
眉目秀麗な中央の上級貴族、伯爵家のご令嬢です。
最後にサクナ。
うん。
戦闘能力だけは、たぶん、あるだろう。
あとはリーダーのマウンテン先輩が上手く導いてさえくれれば……。
もしかしたら優勝とかもできちゃうかも知れないねっ!
って。
優勝とかあるのかは知らないけど。
考えてみると、私、野外研修のことは、ざっくりとしか知らないのだ。
なにしろ参加するつもりはなかったわけだし。
でも、評価はあるようだし、競い合いでもあるようだから、私も付き添いの範囲内で頑張らせてはもらおう。
ふわふわ工房、我が家に到着した。
「ただいまー」
お客さんもいなさそうだったので、普通に正面から入る。
「おかえりなさいっ、店長!」
「おかえりなのである」
「ニクキュウニャーン」
エミリーちゃんとフラウとファーが出迎えてくれる。
エミリーちゃんとフラウは、カウンターの席で、ゴーレムのハトちゃんとゴレくんと遊んでいた。
ファーは、大人しくそれを見ていた。
うん。
今日もお店は平和だったようだ。
「おかえりなさい、クウ」
「やっほー」
お店には、学院の制服姿でアンジェもいた。
アンジェは接客用の椅子に座って、なんだか黄昏れていた。
まあ、はい。
理由は聞かなくてもわかるけど。
「聞いたよー、アンジェ。メイヴィスさんの紹介で、獅子男のギザとパーティーを組むんだって?」
私はアンジェの前に座った。
「……そうよ。サイアク」
「で、愚痴りに来たんだ」
「そうよー。聞いてよー、クウ。あいつ、いきなりバカデカい手で、うしろから私の肩を組むのよ。痛いし重いし気持ち悪いし! あんなクソの相棒になったつもりはないって言うの!」
「バカとかクソとか、口が悪いよー」
天下の学院生なのに。
「いいのよ。べつに」
「それで、そいつ、どしたの?」
「もちろん、ギッタンギタンにノシてやったわよ」
「そかー」
まあ、うん。
魔法で身体強化すれば、今のアンジェならヤれちゃうよねえ。
「そしたらさぁ、今度は姉御とか言ってくるのよ」
「あははっ! いいねそれ!」
「イヤよ。メイヴィス様とキャラがかぶるでしょ」
「あ、うん。それはね」
意外と冷静な理由だった。
「メイヴィス様は面白がっちゃってさー。結局、パーティーを組むことになって。もう散々よ。訓練でバーガー大会にも行けなかったしさ」
「がんばれー」
「他人事みたいにー。まあ、他人事でしょうけど」
赤い髪を揺らして、アンジェは肩をすくめた。
「あ、そうでもないよ。実は私も今日、野外研修に出ることになってパーティーを組んだんだー」
「え。ホントに? クウが?」
「うん。と言っても、私は人数合わせで付いていくだけで、でしゃばってあれこれするつもりはないけど」
「そうなんだぁ……。ちなみに誰と組むの?」
「マウンテン先輩ってわかるかなぁ。武闘会の時に出ていた」
「大剣を振り回していた山みたいに大きな先輩よね? 最後、油断してガイドル先輩に負けちゃった人」
「そうそう。その人」
私はざっと成り行きを話した。
「へー。その人もラッキーだったわねー」
「いいメンバーも集まったし、アンジェのところにも負けないよー」
「学院の行事だし、常識の範囲内で競い合いましょうね」
「そだねー」
やりすぎには注意しないとね。
あくまで今回の主役はマウンテン先輩なのだ。
私ではない。
「はぁ……。とは言うものの、メイヴィス様が尻を叩くものだから、ギザのヤツが死ぬほどやる気なのよねぇ。断言できるけど、ぜーったい、あれは旅に出たら暴走しまくるわね。気が重いわ」
「あはは。それ、わかるかも。うちもねー」
このあとしばらく、愚痴りあった。
さらに夜。
帰ってきたヒオリさんと夕食を取りながら、サクナのことをあらためて愚痴るとこう言われた。
「店長、それはエルフ的には、いたって普通の反応かと」
「え。そなの?」
「エルフ族は妖精族に近しい種族です。人間よりも近く自然と共に在ります。精霊様がいるとわかれば力になりたいと思うのは当然かと。某とて店長の力になりたくて馳せ参じたわけですし」
ヒオリさんはしみじみと語った。
私はヒオリさんと出会った時のことを思い出した。
そういえばヒオリさんも……。
断っても逃げても追いかけてきて、結局、居着いたんだったね……。
ただ、幸いにも……。
ヒオリさんの霊視眼のような力がなければ、いくらエルフでも一目で私が精霊だとわかることはないようだ。
私は決意した。
エルフには、最大限に関わらないでおこう。




