898 閑話・クラスメイトは言いたかった2
放課後になりました。
私はオーレリアさんとディレーナ様に連れられて、マイヤさんとの待ち合わせ場所であるロビーに行きました。
私は、だたのオーレリアさんのクラスメイト。
名もなき平凡な生徒です。
パーティーの件はちゃんとお断りしましたし、すでに関係のない話なので私は帰りたかったのですが……。
ディレーナ様が迎えに来ては、付いていくしかありません。
あきらめました。
ロビーに着くとすでにマイヤさんがいて、揃って中庭に向かいます。
マイヤさんは、詳しいことを言いません。
会ってから、とのことです。
ディレーナ様は、オーレリアさんの誤解には気づいているはずなのに、こちらも何も言いません。
マイヤさんにお任せしているようです。
噴水の広場に行くと、巨大な男子生徒がベンチに座っていました。
今にもベンチが壊れそうです。
「ヤマちゃん先輩、お待たせしましたー」
「こんにちは、クウちゃんさん。……そちらの方は?」
「パーティー候補です」
「え」
ヤマちゃんと呼ばれた男子生徒が、驚いた顔をします。
ちなみに驚いているのはオーレリアさんも同じです。
まさかパーティーの主宰者が、男子生徒だとは、しかも明らかに舞踏会よりも武闘会が似合いそうな男子生徒だとは――。
思ってもいなかったのでしょう。
なにしろオーレリアさんは、パーティーはパーティーでも、ドレスで踊るようなパーティーを想像していたようですし。
「ヤマちゃん先輩はどうでしたか? メンバーは見つかりましたか?」
「それが……。恥ずかしながら……」
「じゃあ、とりあえず紹介しますね。こちらはオーレリアさん。3年生の普通科の中央貴族のお嬢様です」
マイヤさんは、ヤマちゃんのことも紹介します。
ヤマちゃんというのは愛称で、マウンテンさんというそうです。
私は、騎士科にも武闘会にも縁のない生活を送っているので、まるで知りませんでしたが――。
それなりに有名な方のようです。
ディレーナ様とオーレリアさんはご存知のようでした。
「今回、ヤマちゃんパーティーの3人目として、こちらのオーレリアさんが協力してくれることになりました」
「そうですか……」
マウンテンさんが、ゆっくりと身を起こします。
うわぁ。
目の前に立たれると、私たち全員が影に入るくらいの巨体です。
まるで壁です。
いえ、山です。
そんな山な先輩が深々と頭を下げます。
「クウちゃんさん、オーレリアさん、この度は本当にありがとうございます。他にツテもなく……。ぜひお願いしたく思います」
「あの……。マイヤさん?」
オーレリアさんが戸惑って、マイヤさんのことを見ます。
するとマイヤさんがにこやかに言いました。
「野外研修、一緒に楽しみましょうねっ!」
「え。あの……。パーティーは……」
「はい。まだ3人ですけど、すぐに揃えるのでご安心ください」
「パーティー……。ですか……?」
「はい。冒険者パーティーですね」
「…………」
あ。
ようやく気づいたオーレリアさんが、氷のように固まってしまいました。
無理もありません。
なにしろ、剣にも魔術にも冒険にも縁のない方です。
まさかこちらのパーティーとは、思ってもいなかったのでしょう。
「よろしくお願いしますっ!」
明るい顔のマイヤさんが、オーレリアさんの手を取ります。
その様子をディレーナ様は、微笑ましく見ていました。
「よかったですわね、クウちゃん」
「はい。ディレーナさんもありがとうございます」
「じゃあ、私はこれで」
私はにこやかに身を返して、逃げようと思いました。
嫌な予感がしたからです。
その予感は的中しました。
オーレリアさんが、私の手を掴みます。
まるで、はい……。
私も冒険の旅に、誘うかのように。
ただ、私は幸運でした。
すう――。
と、どこからともなくエルフの女生徒が現れたのです。
「申し訳ございません。偶然にも通りかかって、物陰から密かに見ていました。クウちゃんさま、そういうことであれば、このサクナにお任せくださいませ。見事にその任を果たしてご覧に入れましょう」
エルフの女生徒は、サクナというようです。
マイヤさんの前で片膝をつきました。
「えっと。あのぉ……」
マイヤさんは、明らかに困った顔を見せます。
どうしてなのでしょうか。
4人目の立候補者が現れたというのに。
「……実は、今日の昼、目が合った瞬間に理解していたのです。クウちゃんさまには悩みがあるのだと。なにしろ目が合った途端、目を逸らし、逃げるように去っていきましたから」
「あ、うん。ごめんね。急いでたからさ」
「ご安心ください。理解しました。クウちゃんさまは私を誘いたかったのです。そういうことですね」
「それは、ね……。違うというか、うん、違うというかね……」
「遠慮は不要です! さあ、ご命令ください! この不肖サクナ! クウちゃんさまの御為、身命を賭して戦います!」
期待に目を輝かせて、サクナがマイヤさんを見上げます。
あー、なるほど、です。
サクナという子は、いかにも面倒そうです。
避けていたのですね。
ここでディレーナ様が拍手をしました。
「おめでとう、クウちゃん。メンバーが揃いましたね」
「はいっ! ありがとうござます! このサクナ、必ずやクウちゃんさまよりも先に死んでみせます!」
マイヤさんよりも先に、エルフの子がすかさずお礼を言います。
「そういう研修じゃないからね? まず聞いて。えっと」
マイヤさんが説明しようとしますが……。
「お任せくださいっ! なんでもします! お疑いでしたら、試しに何か言ってみてください! 死ねばいいですか!? 踊ればいいですか!? それとも大食いすればいいでしょうか!」
「言わないからね!?」
聞いて、というお願いは――。
なんでもの内には入っていないようですね。
一方、ヤマちゃんことマウンテン先輩は、男泣きを始めていました。
「クウちゃんさん、皆さん、ありがとうございます。私が不甲斐ないばかりにご面倒をおかけしてしまって……。このご恩は必ず、成果として返します」
「では、私はこれで」
私はそそくさとこの場から離れました。
だって、はい。
私には、もう関係のない話ですよね。
私はただのクラスメイト。
名もなき一般人。
離れたところで全力ダッシュして、帰路につきましたとも。
ちなみに明日の話になりますが――。
オーレリアさんのご両親は、アロド公爵直々の口添えで野外研修への参加を了承したそうです。
オーレリアさん、がんばってください。
応援しています。
名もなきクラスメイト、マリエルートからの脱出成功!




