897 閑話・クラスメイトは言いたかった
「実は、パーティーに参加してくれる人がいなくて困っているんです。あと2人いてくれればいいんですけど……」
「あら。そんなことなら、わたくしとこの彼女でいかがですか?」
「ええ!? 私もですかっ!?」
オーレリアさんに話を振られて、思わず私は変な声を出してしまいました。
すぐに口調を改めて、
「失礼しました。申し訳ないのですが私には無理です」
と、丁寧に頭を下げた。
私は、普通科3年生の一般的な女生徒。
文官の家の娘で、魔術の才能はありませんし、剣も習っていません。
とてもではありませんが――。
野外研修のパーティーに参加するなんて無理です。
「あ、そうですわね。こちらのマイヤさんは、アリーシャ殿下やセラフィーヌ殿下のご友人で、ディレーナ様とも親しいお方です。わたくしもお世話になったことがありまして。信頼できるお方ですよ」
オーレリアさんは、私がどこの誰かもわからない相手のパーティーに参加することを警戒した――。
と、思ったようです。
でも、違うんです。
もっと根本的な存在なんです。
「……というか、オーレリアさんは大丈夫なのですか?」
「ええ。わたくしは、マイヤさんの頼みとあらば、パーティーくらい参加させていただきますわよ」
「そうなんですね……」
オーレリアさんと私はクラスメイトです。
こうして2人でおしゃべりするくらいには仲の良い相手です。
ただ、今まで、オーレリアさんが剣や魔術をたしなんでいるという話は、聞いたことがありません。
パーティーに参加なんて、大丈夫なのでしょうか……。
と私は心配したのですが……。
高位貴族は、常識として剣くらいやっているのかも知れません。
なにしろアリーシャ殿下にセラフィーヌ殿下、さらには公爵令嬢のメイヴィス様に辺境伯家令嬢のブレンダ様。
学院の最上位の淑女には剣の達人が多いです。
マイヤさんが言います。
「もちろん、安全には配慮させていただきます。あと、美味しいお茶とお菓子も準備させていただきますのでっ!」
「それは楽しみです。どんなドレスを着ていこうかしら」
「ドレスを着るんですか!?」
オーレリアさんの言葉に、私は思わず聞き返してしまいました。
「ええ。おかしいですか?」
「あ、いえ……。そういうものなんですね。私、参加したことがないのでよく知らなくて。失礼しました」
「貴女も普通に参加したことはありますよね?」
「いいえ! ないですないです!」
「少なくとも夏に、我が家のパーティーに来ましたわよね……?」
「それとこれとは別物ですっ!」
「同じものですよ?」
「え」
「……いったい、どうしたのですか? よそのパーティーで、何か不愉快なことでもされたのですか?」
オーレリアさんに心配した視線を向けられしまいました。
ここで私は思いました。
もしかして、パーティー違いなのでしょうか。
私は、この時期の学院のパーティーと言えば、真っ先に野外研修のパーティーを思い浮かべました。
オーレリアさんは普通のパーティーのことを語っているようです。
私はマイヤさんに目を向けました。
するとマイヤさんが言います。
「服装はなんでもオーケーですよ。ゴブリンが出ようとオーガが出ようと、すべてこちらで処理しますので」
「それは心強いですね。頼りにしています」
やっぱり、野外研修のことですよね?
普通のパーティーにゴブリンなんて出るわけがありません。
オーレリアさんは、冗談として笑い流していますけど……。
私は念の為、オーレリアさんに確認しようとしました。
でも、その時でした。
「クウちゃんにオーレリアさんではありませんか。2人でいったい、何を楽しんでいらっしゃるのかしら」
ディレーナ様が現れました。
ちなみに3人です。
私もいます。
もちろん、ディレーナ様を相手に余計なことは言いませんが。
ディレーナ様は、今ではすっかり丸くなりましたが、去年の学院祭くらいまでは刃のような方でした。
迂闊に触れれば大怪我です。
去年、精霊様の祝福を受けて聖女候補ともてはやされ、それを必死に否定する中でいろいろと思うところがあったようで――。
今では本当に、別人のようにお優しい方になられました。
ただ、昔を知る私としては……。
やはり、今でも、とても怖い方なのです。
ディレーナ様はパーティーの話を聞くと、オーレリアさんを称賛します。
「素晴らしいことです。クウちゃんの力になれるなど羨ましい限りですね」
「マイヤさん、ディレーナ様もお誘いになっては?」
「残念ですけれど、わたくしはやめておきますわ。クウちゃんの力になりたいのはやまやまですけれど、わたくしが参加しては悪目立ちして、殿下たちに不要の懸念を抱かせてしまいますわ」
「そうですか……。残念です」
オーレリアさんはすぐに引き下がりました。
確かに、ディレーナ様がパーティーに入れば目立ちすぎます。
「しかし、泊まりがけですわよね?」
「そうなのですか?」
ディレーナ様に聞かれて、オーレリアさんがマイヤさんに確認します。
「はい。少し遠くまで行くので、何日かかかってしまいますけど……。問題はありませんので、出来れば……」
マイヤさんが申し訳無さそうに言います。
野外研修は、道中で一泊して、滞在先の村でも宿泊します。
日帰りではありません。
「そうなのですか。それだと……。ちょっと困りますわね。家の許可が下りないと思いますし……」
「オーレリアさんの家へはわたくしが口添えしましょう。いえ、お父様にお願いすることにしますわ。問題はないようにしますので、オーレリアさんはクウちゃんの力になってあげてください。
あと、そうですね……。護衛にはアロド家直属の騎士もつけましょう。それならばさらに安心でしょう?」
ディレーナ様が、びっくりするほど協力的です。
オーレリアさんは、泊りがけと聞いたところで、かなり及び腰になっている様子でしたけど……。
ディレーナ様にそこまで言われては、もうやめるとは言えません。
なにしろディレーナ様は、今でこそ丸くなりましたけど……。
去年の春までは……。
反論する者には容赦しない方でしたし。
「すみません、ディレーナさん、ご迷惑をおかけして」
マイヤさんが申し訳なさそうに言います。
「いいえ。クウちゃんのためとあらば、なんでも協力しますわ。必要ならスオナもそちらに変えましょうか?」
「それはやめておいてください。迷惑になるので」
「わかりました。オーレリアさんのことはお任せください。お父様もクウちゃんの力にはなりたいと言っていましたから」
「はい。お願いします」
「ふふ。その代わりと言ってはなんですけど、今度よろしければ我が家のパーティーにもお越しください」
「はい。いろいろと問題がなければ」
マイヤさんとは、いったい、何者なんでしょうか。
ディレーナ様だけではなくて……。
あの冷徹なアロド公爵までもが、力になりたいと言っているなんて。
「えっと……。あの……。オーレリアさん、本当にいいんですか? パーティーに参加してくれるってことで?」
マイヤさんが申し訳なさそうにたずねます。
「ディレーナ様にここまで言わせて、今更やめるとは言えませんわ。ただ、どんなパーティーなのか教えていただいても?」
「あ、なら、今日の放課後は空いていますか? 実は私も具体的なところはいまいち知らなくて。パーティーのリーダーを紹介します」
「クウちゃん、わたくしたちもご一緒してよろしいかしら? 口添えするなら相手のことも知っておいた方が良いですし」
「はい。ぜひ」
なぜか私も、ディレーナ様と一緒に行くことになっていました。
もちろん断りません。
私は笑顔で、成り行きに身を任せました。




