895 秋の日のこと、放課後2
学院の空気は、野外研修に向けて熱くなっているんだねえ……。
メイヴィスさんと別れた後、私はそんなことを思いつつ、黄色と赤色に色づいた学院の秋の庭を散策した。
ブレンディ先輩とマキシム先輩とレオのパーティーは、この先生きのこることができるのだろうか……。
ネスカ先輩とギザとアンジェのパーティーは、きのこるだろうけど……。
きのこか……。
今夜はきのこが食べたいねえ……。
そういえば、この世界には、松茸先生は存在しているのだろうか……。
今度、ユイに聞いてみよう。
私の小鳥さんブレインが、ちゃんと覚えていたのならば……。
私はふわふわのクウちゃん。
細かいことは、ふわりと忘れてしまう子なのだ……。
ああ……。
精霊はふわふわするのが仕事なのです……。
それが宿命なのです……。
なんて黄昏れつつ歩いていると――。
あ。
噴水のほとりのベンチに、見知った先輩がいるのを見つけた。
マウンテン先輩だ。
なんか、うん。
せっかくの大きな背中が沈んでいる。
明らかに元気のない様子だ。
いったい、どうしたんだろう……。
私は心配になって、声をかけてみることにした。
「こんにちは、ヤマちゃん先輩」
「……これは、クウちゃんさんではありませんか。こんな遅い時間に1人でどうしたのですか?」
「私は、ただの秋景色の見学ですけど……。ヤマちゃん先輩こそ、どうしてこんなところで黄昏れているんですか?」
「いえ……。はは……。少し考え事をしていただけですよ」
「へえ。どんなですか?」
「実は、恥ずかしながら、今度の野外研修に参加するパーティーが、未だに結成できていなくて。どうしたものかと」
「あら……」
「去年までなら、カマかネスカが最初に組んでくれて、あとはなんとなく集まったものなのですが……。いえ、アレは、カマとネスカの人脈でしたね……。私の力ではありませんでした」
マンティス先輩は学院の卒業後、クラン「ボンバーズ」の一員として冒険者になることが決まった。
そのボンバーズの関係者と今年は組むそうだ。
ネスカ先輩は……。
うん。
はい。
メイヴィスさんに声をかけられて、断ることはできないよね……。
「いろいろとツテは当たったのですが……。今日になっても、色良い返事を得ることができず……。いっそ報酬を出して募ろうかと……」
「そこまでして参加したいんですか?」
「ええ。私は、中央騎士団への加入を目指しているのですが、第一選抜には落ちてしまいまして。第二選抜に選ばれるためには、今回の野外研修で評価を上げることがどうしても必要なのです」
「お金なんかでメンバーを集めて、それって評価になるんですか?」
「そうですよね……」
マウンテン先輩が深いため息をついた。
マウンテン先輩は巨体だ。
長距離の旅には向かない。
人生のかかった真剣勝負であれば、尚更、敬遠されてしまうのだろう。
「ねえ、ヤマちゃん先輩」
「クウちゃんさん、慰めは不要です。私に人望がないだけのことです」
「んー。そうー?」
「現実とは、なかなかに厳しいものですね……」
「そんなこともないと思うけど」
「……ありがとうございます。そうですね、いじけていても仕方ありません。最後まで頑張りますよ」
マウンテン先輩が力なくながらも笑った。
「そうそう、その意気。あと最低でも2人? だしね」
私は気楽に笑った。
「そうですね……。あと2人……。いえ、3人ですね」
「なんで?」
「最低人数が4人ですから」
「なら、あと2人だよね」
「それは、どういう……」
「ここに1人いるでしょ」
「え?」
マウンテン先輩が顔を上げて、私のことを見つめた。
「手伝ってあげますよ。偶然も縁ですよね」
「しかし……。クウちゃんさんは、学院では普通の生徒として……。魔術を使えることは秘密にしていると……」
「あくまで普通の生徒として、普通に参加しますよー。そのかわり目立つようなことはできませんけど」
「……いいのですか?」
「うん。だから、あと2人だよねっ!」
しばらくの沈黙が流れた。
マウンテン先輩は、迷っているのだろう。
本当に私を誘って良いものかどうか。
だけど……。
うん。
マウンテン先輩には、悲しいかな他に選択肢がない。
「ありがとうございます」
マウンテン先輩が深々と頭を下げた。
「どういたしまして。それより、あとのメンバー探し、頑張ってくださいね」
「はい。明日、もう一度、全力で当たってみたいと思います」
こうして私は――。
野外研修への参加を決めた。
チーム・マウンテンのメンバーの1人として。
クウちゃんさま、野外研修参加決定\(^o^)/




