892 もうひとつの結末
「おや。これはクウちゃんさんではありませんかま」
げ。
パーティーの後半、ボンバーに見つかった。
ボンバーの巨漢はホールでも目立つので、できるだけ離れていたのに。
ボンバーは、姉であるシャルさんの身内枠でパーティーに参加しているようだ。
他にボンバーズのメンバーはいない。
すなわちここには、制止役のタタくんもいないということだ。
私は気づかないフリをして離れようとしたけど……。
「クウちゃぁぁぁん!」
一緒に現れたシャルさんに抱きつかれて、逃げられなくなった。
仕方がないので向き直る。
「どうしたの、シャルさん」
「うええん! 偉い人たちと会話するの疲れたよー!」
「シャルさん、まわりに偉い人たちがいっぱいいる中で、そんなことを言うのはさすがに失礼だよー」
「う」
「怒られるよ?」
「う……。ち、ちがうのよ? 今のは、エライー、つまり、エラのいい、エラのいい魚が美味しいなって意味なの! 魚、最高! 私、明日から、お魚の店をやろうと思うの! そういうことなの!」
「あ、うん。はい」
エライエライ。
とりあえず頭をなでて、シャルさんを引き離した。
ちなみにボンバーは、普通に黒い礼服を着ていた。
黄色いスーツではない。
ボンバーハッピーはどうしたのだろうか。
さすがのボンバーも、大宮殿ではボンバーハッピーしないのだろうか。
まあ、しないか。
私の頭の中では、今……。
ハッピー! ハッピー! ハッピー! ちゃっちゃ!
ハッピー。ハッピー。ハッピー。ちゃっちゃ。
ユイの弾んだ明るい声と、ナオの平らな無感情な声が、2人の手拍子と共に抜群のリズムで重なり始めたよ……?
ハッピー、ハッピー、ハッピー。
ちゃっちゃ。
「ね、ねえ。ボンバー」
「はい。どうされましたかま、クウちゃんさん」
「えっと。その。昼に着ていた黄色いスーツはどうしたの?」
私は念の為に聞いてみた。
「脱ぎましたが?」
「ああ。ふーん。そかー」
「どうされたのですかま?」
「あ、ううん」
言えない!
ボンバーハッピー、ちょっとだけしたかったなんて……。
思わず、やらないのかキタイしかけたなんて……。
口が裂けても言えない!
「思えば私、どうしてあんなにも、ハッピーしていたんでしょうね……。自分のことながら不思議でなりませんかま」
「え?」
ハッピーの誘惑に私が耐えている中、ボンバーが冷めているだと!?
ボンバーのつぶやきに私は衝撃を受けた。
ハッピー、ハッピー、ハッピー。
ちゃっちゃ。
ほら!
私の頭の中では、まだボンバーはハッピーに踊っているよ!
なのにどうして!
はっ!
いかん。
冷静になるんだ、私……。
そもそもボンバーハッピーなんて、望んでどうするのだ……。
「かま」
ボンバーが言った。
ふむ。
ここで私は、はたと冷静になった。
そういえば気のせいか、さっきからボンバーの語尾がたまに変だ。
「ねえ、ボンバー、これってなんだと思う?」
私はカマキリーのポーズを取った。
「カマキリですね! 素晴らしい! さすがはクウちゃんさんですかま!」
「ふむ」
ボンバーは、思い込みが深くて、影響されやすいタイプだ。
なので、いきなり私のことをエンジェルとか呼んだり、かと思えばオルデに運命を感じて金づるにされたり。
旅の占い師に影響されてボンバーハッピーにもなっていた。
で、だ……。
今日の昼のバーガー大会の時、ボンバーたちはシャルさんの声援で、なぜかカマカマと叫んでいた。
いや、うん。
何故か、ではなくて……。
蟷螂鎌首流のマンティス先輩が先導していたからだけど……。
ともかく、影響されたのだろう。
強烈なカマの勢いに、ボンバーハッピーが上書きされてしまったのだ。
なんて残念な……。
私、まだ、一度もハッピーできていなかったのに……。
はっ!
だから、なにを残念がっているのだ私はぁぁぁぁぁぁ!
「どうされたのですかま、クウちゃんさん?」
「あ、ううん。なんでも」
「クウちゃん、そんな筋肉のかたまりよりも、私のことを構ってよー! 今日の頑張ったで賞は私だよー! 私、疲れたのー!」
「あー、はいはい。よしよし」
10歳以上年上のお姉さんを子供のようにあやしながら……。
私は思った。
まあ、いいか。
と。
どうせボンバーのことだ。
すぐに、また別の何かに影響されて、かまのことは忘れるだろう。
それに、かまかま言ったところで実害はない。
さすがにこの私、面白いこと大好き少女のクウちゃんさまも、かまをかまかましたいとは思わないしね。
かくして。
いろいろなことがあったけど――。
最強バーガー決定戦は、無事に幕を閉じたのでした。
これにて、「最強バーガー決定戦」編、堂々、完結です!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回からは舞台を学院に戻して、新章「野外研修」編のスタートです。
よかったらお付き合いください\(^o^)/




