891 いよいよ
「……いよいよですね、クウちゃん」
「だねー。絶品だろうけど、どんな味だろうね」
「それもですけど、お姉さまです」
「あー。そっちかー」
「はい……。どうなっちゃうんでしょうね」
こんばんは、クウちゃんさまです。
私は今、セラと並んでテーブル席に着いて、大宮殿のホールにいます。
今夜はこれから最強バーガー決定戦を記念したパーティーです。
ホント、なにかにつけてパーティーばかりな気もするけど、こういうのはやらないわけにもいかないのだろう。
今夜のメニューはバーガー。
バーガーは、今日の大会で出されたものが、大会の参加者自らの手によって調理されて出される。
まさに本物を味わうことができるのだ。
私は、今夜のパーティーには参加しない予定だったけど、大会のバーガーが出るとなれば話は別なのだ。
伝説の美食家ク・ウチャンとして味わうのは使命なのだ。
ちなみにエリカたちは、フラウの接待を受けて無事に帰国した。
だいぶ体重は増えていると思うけど……。
うん。
3人は、いつも動き回っているので、平気だろう。
私は気にしない。
さあ。
お兄さまが大会の料理人を引き連れて、ホールに現れた。
パーティーの始まりだ。
まずは、お兄さまのご挨拶。
次に、ハラデル男爵たちが一言ずつご挨拶。
シャルさんも、どもりながらもキチンと挨拶した!
えらいっ!
バーガーは当然ながら最高だった。
私は正直……。
シャルバーガー・フォーは、大丈夫なのかな……。
カボチャやナスを挟んじゃって、実は微妙だったけど、審査員の人たちが優しくしてくれたのかな……。
なんて、疑ってもいたけど……。
これが実に美味だった。
夏野菜と肉、そしてバーベキューソースのバランスが見事だった!
疑ってごめんよ、シャルさん!
当然、他のみなさんのバーガーも最高だった。
バーガーを堪能した後は、自由なおしゃべりの時間となる。
私のところには、すぐにハラデル男爵がやってきて、私にマグマ・バーガーの感想を聞いてきた。
料理長のバンザさんも、神妙な面持ちで感想を聞きにきた。
美味しかったよー、と私は笑って答えた。
私はふわふわのクウちゃんなので、難しいことはわからないのだ。
ク・ウチャンではないのだ。
さて。
そんなこんなで、関係者各位との会話もおわった。
「さあ、いよいよですね、クウちゃん」
「ねえ、セラ。本当にやるの?」
「当然です。わたくしには妹として、皇女として、ちゃんとお姉さまの幸せを見届ける責任があるのです」
「そかー」
なにかと言えば、はい。
もちろん、アレです。
今日、トルイドさんとお姉さまは、まだまともに話せていない。
なにしろ朝から大忙しだった。
でも、ようやく、参加者の皆様にバーガーを作って、トルイドさんは一段落をつけることができた。
お姉さまも一通りの挨拶をおえて、ようやく自由になった。
つまり、お話をするのは、今なのだ。
見ていると、トルイドさんがお姉さまに話しかけて……。
2人で楽しげに笑って……。
あ。
そのまま並んで、奥庭園に散歩に出るようだ。
「クウちゃん! クウちゃん! お姉さまたち、動き出しましたよ! 2人きりになるみたいですよ!」
セラが興奮した様子で私の手を引っ張る。
「私たちが付いていくと、2人きりじゃなくなるよねえ」
「いいんです。わたくしたちは姿を消しますから。お任せください。わたくし今回は絶対に声を出しませんっ!」
まあ、うん。
はい。
私としては、すでに結果のわかっていることだし、わざわざ見に行かなくてもいいかなぁとは思うのですけれども……。
とはいえ、気にならないかと言えば、気になる。
というわけで。
それぞれ自前で姿を消して、私たちはお姉さまの後を付けた。
の、だけど……。
ライトアップされた美しい夜の奥庭園をしばらく歩いたところで――。
「セラフィーヌ、クウちゃん、出ていらっしゃい」
振り返ったお姉さまが、腰に手を当てて怖い笑顔で言った。
思わず私たちは息をひそめたけど……。
「いるのはわかっています! 出てきなさい!」
と怒られて……。
「はい……。ごめんなさい……」
私は大人しく観念して、前に出て頭を下げた。
「ああああ! クウちゃーん! 黙っていればわからなかったのにー!」
セラが未練がましい声をあげて、後に付いてくる。
「わかります! そもそも貴方たち、ずっとわたくしを見ていたでしょう! どうしてわからないと思ったのですか!」
なるほど。
「うう……。わかりました」
セラはシュンとした後、
「では、わたくしたちが見届けて差し上げますので! さあ、どうぞ!」
開き直った!
「何をですか! 本当に貴方たちときたら……」
「……はは」
お姉さまはプンスカして、トルイドさんは困り顔だ。
まあ、うん。
ですよね。
「とにかく、ホールに戻りなさい。いいですね」
「あの、お姉さま……」
「なんですか、セラフィーヌ」
「……もしかして、今夜こそ本当にキスをされちゃうのですか?」
「何を言っているのですかー!」
あ、もう!
お姉さまが本格的に顔を真っ赤にしちゃったよ!
「失礼しましたーっ!」
私はセラの手を取ってホールに戻った。
この後……。
パーティーの中で私は短い時間だけど、ホールに戻ってきたトルイドさんと会話することができた。
まわりに人も多いので、あれこれ聞くことはできなかったけど――。
今日のバーガーの出来を聞くと、トルイドさんは笑ってこう言った。
「もちろん、十分に満足するバーガーを作ることができましたよ。試合には負けましたが勝負には勝ったつもりです」
つまりは、そういうことなのだろう。
相手は帝国の第一皇女。
ゴールまでの道のりは長くて険しいと思うけど、ぜひとも頑張って、2人で幸せを掴んでください。
私も応援しよう。
ちなみにこの夜、お姉さまは妙に陽気で妙に挙動不審だった。




