89 みんなでお茶会!!
立ち上がったセラが、胸の前で手を結んで静かに目を閉じる。
私たちは静かに見守る。
ヒオリさんも食べるのをやめていた。
……精神を集中させているのかな?
今のところセラに、呪文を唱える様子はない。
見ていると、やがてセラの手の中に白い光が生まれる。
神聖さを感じる優しい光だ。
「うわぁ……」
エミリーちゃんが感嘆の声をもらす。
セラが目を開いた。
結んでいた手を広げて、私たちに向けた。
そして言う。
「ヒール」
短く、それだけを。
手のひらから広がった白い光が私たちを薄く包む。
身体の芯まで光が届くのを感じる。
温かくて、優しくて、力が漲ってくるようだ。
セラがふらりとぐらついて、膝から崩れた。
「セラ!」
とっさに跳んで抱きかかえた。
「大丈夫!?」
セラの顔からは生気が失せている。
「……はい。……今のわたくしでは、これだけで魔力が尽きてしまって」
「もう。無茶して」
とにかくMP継続回復の魔法、リフレッシュをかけてあげる。
すると顔色はよくなった。
「ありがとうございます……。さすがはクウちゃんです」
「セラこそ」
私は感心した。
呪文なしで魔術を行使するなんて、この世界では間違いなくすごいことだ。
というか、アレだ。
セラは呪文を唱えることなく、ただ「ヒール」と言った。
なんだろう。
とても馴染みのある感じがする。
いや、うん。
馴染みどころか、同じものではないだろうか。
セラが行使したのは、この世界の魔術というよりも――私の白魔法だ。
ヒールって魔法名も同じだし。
「ねえ、セラ。今のって、もしかして魔術じゃなくて魔法?」
「……えへへ。マネしちゃいました」
「できるんだ!?」
「はい……できました。クウちゃんの……あの時の光だけを目指していたら」
あの時。
馬車から子供を助けた時かな。
「あの……クウちゃん」
「なに?」
「わたくし、ちゃんとできていましたか?」
「うん。できてたよ、びっくりした」
「よかった……。嬉しいです……」
まだ自力では立てないながらも、セラは弱々しく笑った。
「というか、無茶しちゃダメだよ?」
「どうしてもクウちゃんに見せたくなっちゃって」
「たしかに見たよ。おめでとう」
「……ありがとうございます。……すみません、少しだけ休みます」
セラが目を閉じる。
「ねえ、ヒオリさん。セラ、どうしてあげたらいいかわかる?」
「ただの魔力枯渇です。心配の必要はありません。本人が言った通りに、しばらく寝かせてあげましょう」
「うん。わかった」
私はセラをベッドに寝かせた。
「……今のが光の魔術なのね。……体の中が芯から癒されるみたいだった。水の魔術とは本当に違うのね」
「春の陽射しみたいだった……。あったかかった……」
アンジェとエミリーちゃんは未だに余韻に浸っているようだ。
「あーもう! ボクにもかけるなんて! 勘弁してほしいよー」
ゼノは、眉間にシワをよせて体を払っていた。
闇の大精霊だしね。
やむなし。
「それにしても店長、セラさんの魔術は店長の直伝なのですか?」
「ちがうけど……。んー。少しだけ?」
私の魔法の発動についてセラに話したことはある。
ヒールも見せたことはある。
なので少しは関わっているだろうけど、直接的にではない。
私だってびっくりだったし。
「ねえ、クウ、私にも教えて! 私もあんな風に魔術を発動してみたい!」
アンジェがすごい勢いで食いついてきた。
「わたしもわたしも!」
エミリーちゃんもタックルみたいに抱きついてきた。
「いいけど、ホントにたいしたことじゃないよ?」
うん、実際。
「い、いいのであれば某にもぜひ! 某、無詠唱こそできますが、全身全霊の魔力を発揮するなど到底無理! 某の知らない法則があるにちがいありません! ぜひともご教授をお願いします!」
「せっかくだしボクも聞いておこうかな。クウの力には興味あるし」
「ならセラが起きてからね?」
さすがにセラを抜きにしてあれこれ語るのは、セラが可哀想だ。
「というわけで、お茶会を続けよー」
私は椅子に座り直す。
再び、まったりと紅茶を楽しむ。
ヒオリさんたちも席に戻ってくれた。
「店長、念の為に確認しますが、セラさんのことは帝国の機密ですよね?」
「うん。そだよー」
「そんな気軽にうなずかれると正直戸惑いますが……」
「秘密だよ? みんなもお願いね?」
「そりゃ黙ってるわよ……。いろいろありすぎて混乱してる、私……」
「ボクはそもそも言う相手もいないし平気だよ。クウが許可したニンゲン以外と付き合う気もないし」
「ねえ、クウちゃん。お父さんにも言っちゃダメ?」
「うん。ごめんね」
「ううん。大丈夫。わたし、わかった」
「まあ、でも、みんな安心してよ。たぶん間違いなく、言っちゃうの私だし」
あははははっ!
我ながら笑ってしまう。
うん、わたし、自分の迂闊さには自信がある。
誰かがしゃべるとするならば、それは私に違いない。
今回もそうだったしね!
「いやそれ、笑って言うことじゃないからね、クウ?
アンタ、これって大変な秘密なんだから本当に気をつけなさいよ?
少なくとも皇女様は――セラは、クウのことを、私たちのことを信頼して光の魔術を見せてくれたんだから」
アンジェが顔をしかめて注意してくるのもわかる。
この大陸に聖女が一人しかいないこと。
そして、その存在がとてつもなく大きなことは、知らない人間なんてたぶんいないこの大陸の常識だ。
実は帝国にもう一人いるなんてことが広まれば、どうなることか。
少なくとも大騒ぎにはなる。
「安心して。たぶん、大丈夫だし?」
「なんで疑問形なの」
「あはは」
セラは、そんなこんなの内、ほんの10分ほどで目を覚ました。
私の魔法が効いたのか、すっかり元気だ。
「すいません、ご迷惑をおかけしてしまって。気を失わずにできると思ったんですけど、ダメでした」
「いいよいいよー、すごかったし。私もみんなも感動したよ」
「ありがとうございます」
「で、これからなんだけど、みんなが教えて教えて言うから、あらためて私の魔法について語ろうと思うんだけどセラも聞くよね?」
セラはもちろんですと胸の前で拳を握って、かわいらしくも力強くうなずいた。
と言っても、たいして語ることはないんだけどね。
だって本当に理屈がない。
でも、その理屈のないところからセラは発動してみせたんだよね。
なので頑張って語ってみよう。
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