885 誰がためのバーガー
ハラデル選手のマグマバーガーで会場が盛り上がる中、続いてバーガーを持ってくるのはシャルさんだった。
シャルさんは、バーガーを配膳する前にマイクを要求してきた。
私はマイクを渡した。
さあ、シャルさんは何を語るのだろうか……。
またもや「クウちゃんだけに」だったら、どうしてくれようかっ!
なんていう私の心配をよそに、意外にもというと失礼だけど、シャルさんは普通にしゃべり始めた。
まずは簡単に自己紹介。
その後で、バーガーの説明をする。
「今回のバーガー……。実は、つい先程まで完成していませんでした。
戦いの中で完成したんです。
弟達の声援が、カマが、私に輝きを教えてくれました。
そして、その輝きが何なのかを教えてくれたのは――。
私の1番のお友だち、モスさんです。
モスさん、ありがとう。
大好きだよ。
モスさんに、1番に食べてほしくて、私、頑張って作ったよ。
あとで食べてね」
シャルさんが観客席に向けて、優しい微笑みを向けた。
その先にはもちろん、ドワーフのモスさんがいる。
微笑みを向けられたモスさんが、フン、と、腕組みしてそっぽを向いた。
ひゅーひゅー!
と、観客からはヤジが飛んだ。
「バーガーは時間がなくて市販のパティとソースを使いましたが、それでもまったく問題はありませんっ!
何故ならば、バーガーの本質とは輝きだからですっ!
今から輝きを注入させていただきます! どうぞご覧くださいっ!」
ふむ。
注入とは言うけど、シャルさんは追加の素材を持ってきていない。
まさかとは思うけど、シャルさん……。
前世のメイドカフェのようなことを思いついたのだろうか……。
と私は思ったのだけど……。
その通りだった。
手でハートの形を作ったシャルさんが、ワゴンに乗ったバーガーに気持ちと言葉を投げかける。
「大好きだよ、バーガーちゃん。
おいしくなぁれ。
おいしくなぁれ。
ラブラブハッピー、スーパーパワーっ!」
最後は両手を広げて、うん。
シャルさんからバーガーへ、たくさんのハートが届いたかのようだ!
素晴らしい。
これをなんの恥ずかしげもなく、大観衆の前でやってのけるとは。
さすがはシャルさんと言わざるを得ない。
私は拍手した。
会場からも拍手が溢れた。
そんな中、シャルさんがバーガーを審査員たちに配った。
いよいよ試食だ。
シャルバーガー・フォー。
バンズとパティの上に、スライスして焼いたカボチャやナス、ズッキーニといった夏野菜を乗せて――。
その上からバーベキューソースをかけたバーガーだ。
ちなみに、シャルバーガー。
ワンは、私と出会うまでお店で売っていた、自家製ピクルスが売りの、爽やかなソースを使ったシンプルで素直なバーガーだ。
ツーは、ドワーフのモスさんの意見を取り入れた作られた、パティを重ねたパワフルなバーガーだ。
スリーは、大根と長芋を挟んでホワイトソースをかけたもの。
まあ、それはともかく。
果たして、審査員の感想やいかに。
私は固唾を飲んで見守った。
感想を言ったのは冒険者ギルドのマスターさんだった。
「俺は、実は普段から肉を食う時に使ってるんだ。オダウェルオリジナルのバーベキューソースは。
だから、シャルロッテ選手がそれを使った時には――。
おい、賢人を決める大会でいつもの味かよ、と思ったモンだが……。
今は驚きの中で、感心している。
夏野菜とパティ、それにバーベキューソースの組み合わせが、ここまでバンズに合うとは思わなかったぜ。
食べていて、確かに、俺は夏を感じた。
美味かったぜ。
最後のラブラブハッピースーパーパワーについては、そんなモン、当事者同士で好きにやってろって感じだがな」
たしかに。
会場からは笑いがこぼれた。
えへへ、と、シャルさんが照れて頭を掻く。
モスさんはそっぽを向いたままだ。
大いに照れているのだろう。
というわけで。
シャルさんの試食タイムは、ほのぼのとした雰囲気の中でおわった。
さあ、次は。
アリーシャお姉さまの想い人。
トルイドさんの出番だ。
白い料理人の服に身を包んだトルイドさんが、緊張の面持ちで現れる。
トルイドさんは、まずはバーガーを審査員たちの前に置いた。
その時、ちらりとだけお姉さまと視線が重なる。
トルイドさんが自信有りげに微笑む。
お姉さまも微笑みを返した。
うん。
こちらも、当事者同士で好きにやってろってヤツだね!
おっと、私も仕事をせねば。
私は銀魔法『ライブスクリーン』で、ワゴンに残った完品の丸いバーガーを空中に映し出した。
トルイドさんのバーガーは、バンズとパティの上に果実とムースが乗って、間にたくさんのフレッシュハーブを挟んだ、彩り鮮やかなバーガーだ。
見た目の美しさなら今のところ1番だろう。
マイクを握ったトルイドさんが語り始める。
「今回、僕がこの大会に挑むにあたって、まず考えたのは――。
誰がための――。
誰を笑顔にしたいバーガーにするかでした。
答えはすぐに見つかって、いいえ、最初からわかっていたのですが、バーガーとして形にするのは苦労しました。
今回、僕が作ったのは、フレッシュハーブに加えて、パイナップルやマンゴーを具材とした――。
南国をイメージしたバーガーです。
ソースには、アボガドとクリームのムースを使用しました。
見た目にもこだわりました。
どうでしょうか。
我ながら、美しく仕上がったと思います。
まるでデザートのようではありますが、食べていただければ、肉とも調和していることがわかっていただけると思います。
そこが今回、もっとも苦労した点です」
試食が始まる。
審査員たちが、それぞれに南国風のバーガーを口に運んだ。
最初に口を開いたのは、お姉さまだった。
「正直、スイーツの素材を肉に合わせるのは心配もしていましたが、とても合っていて驚きました。果実の酸味とムースの柔らかな触感が、ハーブの香りと相まって肉の芳醇さを引き立てていますね。見た目の美しさも素晴らしいです。これは女性が喜びそうですね」
「ありがとうございます」
褒められて、トルイドさんは姿勢正しく頭を下げた。
「……わたくしも、満足しましたわ」
最後に、付け加えるように、少し恥ずかしげにお姉さまは言った。
「ありがとうございます」
トルイドさんは、再び頭を下げた。




