884 調理終了! 戦慄のマグマバーガー!
こんにちは、クウちゃんさまです。
今、私は、白いローブに身を隠した謎の実況者として、闘技場にいます。
最強バーガー決定戦。
その戦いの最中です。
「さあ、残り時間もあとわずか! 4人の選手たちが懸命に、最後の仕上げを進めております! 果たして全員、無事にバーガーを作りきり、試食のステージへと進むことができるのでしょうか! 特に心配なのは、スタートの遅れたシャルロッテ選手ではありますが――」
私は三角巾の似合うシャルさんに目を向けた。
のんびり屋のシャルさんが――。
珍しく、必死だ!
真剣な顔をしている奇跡だ!
なんて失礼なことを私は思ったけど、もちろん口にはしない。
私はかしこいのだ。
シャルさんは時間不足を補うために、市販品の調理済みパティとバーベキューソースを使っていた。
すべて手作りの他の3人と比べれば不利は否めないけど……。
シャルさんの顔には、自信が見える!
「おおおっとここでー! ハラデル男爵が両手を天に掲げた! 完成です! ハラデル選手、一番乗りでバーガーを作り上げましたー! 続けて、大宮殿料理長のハンザ選手が手を止めて、観客に一礼! さあ、残る2選手は、まだ懸命に手を動かしておりますが――」
ここで私はトルイドさんに目を向けた。
「若き英才トルイド選手、今、丁寧に丁寧に、1枚ずつ、パイナップルを乗せております! おおっと! それだけではない! 他の果実も乗る! フレッシュハーブも挟まれた色鮮やかなバーガーです! この組み合わせは、果たしてどのような反応を起こすのか! 非常に楽しみであります!」
トルイドさんは、試合中には地味な存在だった。
ハラデル氏のように、ひき肉のお手玉や、火魔術「フレイムオーブン」で会場を沸かせることもなかった。
バンザ氏のように、色とりどりのハーブやスパイスを使って、魅惑のソースを作る場面もなかった。
あるとすれば……。
氷の魔術でムースを作っているところだったけど……。
タイミング悪く「カマコール」の最中だったので、このクウちゃんさまですら見逃してしまっていた。
「さあ、果実を乗せた後は仕上げのようです! 薄い緑色のふんわりとしたムースをトッピングしていくぅぅぅぅ!」
トルイドさんのバーガーはフルーティーなものになりそうだ。
いったい、どんな味なのだろうか。
非常に気になるところだ。
「そして、バンズを乗せてぇぇぇぇぇぇ! トルイド選手も手を止めた。時間内に無事に完成でありまぁぁぁぁす!」
トルイドさんが、ちょっと恥ずかしそうに、ハラデル男爵の真似をして、両手を天に掲げた。
会場からは拍手が起きた。
お姉さまも、最前列の観客席から拍手を送っていた。
「あとは最後の1人! シャルロッテ選手ではありますが――。果たして時間内に間に合うのでありましょうか!」
シャルさんは頑張っていた。
残り時間は、あと、わずか。
私は残り10秒からカウントダウンを始めた。
そして――。
残り1秒のところで!
シャルさんは最後のバーガーに、見事、バンズを乗せたぁぁぁぁぁ!
「終了ー! 時間いっぱい! ここまでです!」
「ふぃぃぃぃ……。ちかれたぁぁ……」
シャルさんがその場にへたりこんだ。
お疲れさま!
「皆様! 見事、4人の料理人はバーガーを作りおえました! その健闘を称えて盛大な拍手をお願いします!」
わー!
会場の皆様は、私の声に応えてくれた。
歓声の中、4人はいったん、闘技場の通路にまで下がった。
完成したバーガーも給仕たちが慎重にワゴンで運んだ。
「ありがとうございました! さて、一段落ついたところではありますが、このまま試食タイムに移らせていただきます! ステージの変更が済み次第、審査員の入場となります! しかし、本当に素晴らしい試合でした。わたくし、時を経つのも忘れて見入ってしまいました――」
私が試合の感想を述べる中――。
オダウェル商会とウェーバー商会の精鋭の皆さんが、大急ぎでステージの変更を進めていく。
キッチンを脇に移動させて、審査用の椅子とテーブルを並べる。
見事な手際だった。
ほんの数分で作業を完了させてしまった。
精鋭の皆さんが下がったところで、私は準備が完了したことを観客の皆様に伝えて審査員の入場を宣言した。
審査員たちは、すでに闘技場の通路にまで来ていた。
入場はスムーズに完了。
「では、これより! 運命の試食タイムに入らせていただきます! 果たして最初にバーガーを持ってくるのは誰なのか!」
私は会場の通路に目を向けた。
ワゴンと給仕を引き連れて、ハラデル選手が堂々と姿を見せる。
「おーっと! これは最初からクライマックス! 最初の1人目は、料理の賢人たるハラデル選手だぁぁぁ!」
ぶっちゃけ、順番は最初から決まっていますが――。
私は大げさに驚いてみせた。
これもまた、実況者としての演出なのだ。
ハラデル選手が、審査員の前に、ひとつずつ丁寧に、銀のお皿に乗せたバーガーを置いていく。
ちなみにバーガーは、半分に切った状態で出される。
なにしろ4つも食べるからね。
配膳がおわったところで、ハラデル選手に私はマイクを渡す。
「今回、私はバーガーを作るに当たって、バーガーとは何か、まずは、その本質についてを考えた。
バーガーとは、炎なり! それが私の結論であった!
見よ!」
ハラデル選手が、ワゴンに乗せられた完全体のバーガーに目を向ける。
カットされていない丸いバーガーだ。
私はすかさず銀魔法『ライブスクリーン』で、そのバーガーの姿をズームして空中に投影した。
「名付けて、マグマバーガー! これが私のバーガーである!」
ハラデル選手のバーガーは、迫力満点だった。
なんと、パティは5枚重ね。
その大迫力の肉のタワーに、たっぷりと、これでもかというほどに赤いソースが掛けられている。
垂れ流れて、パティがほとんど見えないほどだった。
赤いソースということで、私は最初――。
ミートソースかな?
と、思ったのだけど、違っていた。
「たっぷりの肉に、唐辛子とトマトを混ぜ込んだトロトロのチーズソース! 力漲ること疑いなしである!」
ハラデル選手のマイクアピールがおわった。
さあ、いよいよ試食だ!
4人の審査員が、マグマバーガーを手に取って口に運んだ。
アリーシャお姉さまだけは、優雅な手付きでナイフとフォークを使って、バンズと肉を小さくしてから食べた。
バーガーの食べ方としては邪道だけど……。
皇女様なので、こればかりは仕方のないところだろう。
もぐもぐ。
静かな時間が過ぎた。
最初に食べおえて口を開いたのは、鍛冶の町アンヴィルからやってきたドワーフの長老ドン・イワッチ氏だった。
「……儂は、今まで山ほどのバーガーを食べてきた。だが未だかつて、これほどの熱量を感じたバーガーはない。
唐辛子を混ぜ込んだトマトのチーズソースがパティの肉汁と絡み合って体の中に流れ込む様は、まさにマグマと言えよう。
薄く敷かれたオニオンの爽やかな風味もまた良きなり。
ふふ。
爽やかさが、まさに風となって炎を煽りおるわ。
この炎は、老年の儂の固まった心でさえ飲み込むほどに熱いわ。
ああ……。
儂は、儂は……」
ここでドン・イワッチ氏が立ち上がった。
そして、叫んだ。
「大噴火じゃぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!」
いきなりこれは、最高評価ではなかろうか。
姫様ドッグの店長さん、ウェーバーさん、ギルドマスターも食べおえて、満足した顔をしていた。
最後にお姉さまが、ナイフとフォークで優雅にバーガーを食べおえた。
「……美味でした」
どこか悔しそうにも思える声で、お姉さまは言った。
さすがは、ハラデル男爵。
容赦なく最強のバーガーを作り上げたようだ。
安易に始めたバーガー大会ですが……。
参加者たちがどんなバーガーを作るのかが本気で難問です。




