88 みんなでお茶会!
女の子のお茶会。
前世の記憶をたぐるならば……。
それはお茶会であって、お茶会ではない。
ビール!
チューハイ!
ぽてち!
テーブル?
椅子?
んーなもんいらねーよ!
床の上でいいよ!
床の上で!
べたっと床に座っとけば、うしろに倒れるのも転がるのも自由!
最高!
なのだけれど……。
確実にそれは違うのだとわかる。
ここはやはり、正しいお茶会をしようではないか。
「少し待ってて。すぐに準備するから」
みんなを廊下に待たせて、1人で部屋に入る。
ふっふー。
綺麗に整えて驚かせよう。
まずは、木工技能を使って椅子と丸いテーブルを生成。
カフェみたいな感じがいいかな。
飾りすぎずにシンプルに。
次は食べ物。
素材をテーブルに乗せて調理技能をソウルスロットにセットする。
こっちは豪華にしよう。
「洋風お茶会セット、夏」
手のひらをかざして5秒待てば完成。
スイーツの乗ったスタンドに、ティーカップにポット。
ナイフにフォーク、各種クリーム。
暑い時期に食べるのに相応しい、涼しげな色彩のアフタヌーンティーセットだ。
ヒオリさんもいるし、ひとつじゃ足りないだろうから3つ追加。
秋バージョンと冬バージョンと春バージョン。
「できたー」
テーブルの上に四季勢揃い。
青に赤に白にピンクと、色とりどりだ。
「うん。いいんじゃなかろうか」
もともと私の部屋はそれなりに豪華なので、アフタヌーンティーセットを置いても違和感がない。
むしろ、調和している。
きっと気に入ってもらえるだろう。
「お待たせー」
ドアを開けて、みんなを招く。
「……すごい。クウちゃん、これって食べられるの!? お菓子なの!?」
「うん。そだよー」
「わたし、こんなの初めて見た! 感動しちゃうよ!」
「さすがはクウちゃんです! 素晴らしいセッティングですねっ!」
「……ねえ、クウ。私の記憶が確かなら、テーブルも椅子もスイーツもさっきはなかったと思うけど。これってどうしたの?」
「今さくっと作ったんだ。ちゃんと食べられるから気にしなくていいよー」
「そうね。気にしちゃったけど、気にしないでおくわ」
「それよりどう? 気に入った?」
「うんっ! とっても!」
「よかった!」
「クウ、これってボクも食べていいやつ?」
「いいよー」
「やったー! ニンゲンの甘味ー!」
みんな感動したり驚いたりしてくれて、私も満足だ。
「店長っ! オダン殿の食べ物はどこに置きましょうか!」
「あ。えっとね」
テーブルにはもう乗せる場所がないので、オダンさんのおみやげは、いったん机の上に置いてもらった。
かなりあるけどヒオリさんが食べきってしまうのだろう、たぶん。
テーブルを囲んで、みんなで椅子に座る。
「クウ、挨拶してよ」
アンジェに言われて、私はコホンと息をついた。
「えー、ただいま紹介にあずかりました、クウでございます。
本日はお日柄もよく、皆様と楽しい時間を過ごす、素晴らしい日となりました。
思えば1ヶ月と少し前。
お金もなくたった1人でこの世界に来た私ですが。
今ではこうして家を持ち、こうしてお茶会まで開くことができました。
まことに感慨深く。
ご出席の皆様には深く感謝すると共に、
よくぞここまで来たものだと思うのであります」
「何それ」
アンジェが肩をすくめると、エミリーちゃんとゼノとヒオリさんがそれぞれに言いたいことを言ってきた。
「クウちゃん、なんだかへんだよー?」
「あはははっ! 似合わないよねー!」
「さあ、食べましょう! 某、いつまでオアズケしていればいいのですか!」
「もうっ、みなさん、クウちゃんは真面目に話しているのですから、ちゃんと我慢して聞いてあげないと」
セラそれって、我慢してるってことだよね……。
こほん。
ちょっと真面目すぎたか。
「みんな、これからもよろしくね! ふわふわフェアリーズ、おー!」
みんなが「おー」と答えてくれて、お茶会が始まった。
あれでもお茶会って、こういうノリだっけ。
もう少しお上品な感じだよね。
まあ、いいか。
楽しく始められたし。
そこからはいろいろなことを話した。
一番に盛り上がったのは魔術のこと。
なんといっても、セラもアンジェもエミリーちゃんも魔術師志望だ。
ヒオリさんは専門家で、ゼノも魔術に精通していた。
途中では事件もあった。
ゼノが言ってしまったのだ。
「んーでも、残念だなぁ。
エミリーちゃんが土で、アンジェリカちゃんは火と風、セラちゃんは光。
闇がいればボクが導いてあげたのに」
最初に反応したのはアンジェで、ふーんエミリーが土でセラは光なのかぁと普通に感心しただけだったのだけれど。
「え。光!?」
しばらくの間を置いて、気づいてしまった。
「光ってあの光? 聖女様の光? 水の間違いよね……?」
「失礼しちゃうなー。仮にも大精霊のボクが属性を見間違うはずないでしょー」
「って言われても……。というか大精霊!? えええええええっ!?」
「今さらすぎる反応、どうもありがとう」
驚き戸惑うアンジェのそばで、エミリーちゃんがセラにたずねる。
「セラちゃんは、お姫さまじゃなくて聖女さまなの?」
「ええと……。それは……」
返答に困ったセラが目で私に助けを求める。
ちなみにヒオリさんは我関せずで肉串とマカロンを交互に食べていた。
「まあまあ、みんな、落ち着いて」
私は手のひらをひらひらとさせて、みんなの注目を集めた。
こほん。
「ねえ、セラ。ここにいるみんなはふわふわフェアリーズの仲間だし、とりあえず本当のことを言っておこうか」
「……でも」
「ここは私に任せて。ね?」
「はい……。クウちゃんにお任せします」
「というわけで、えー、実はセラの本名はセラフィーヌ。この帝国の第二皇女で光属性に目覚めた聖女様でしたー」
わーぱちぱちぱち。
「わたし、最初からセラちゃんはお姫さまみたいだなって思ってたよ」
エミリーちゃんは意外と平然としていた。
「わ、私っ! 不敬罪で処刑とかされないわよね大丈夫よね!?」
アンジェはますます混乱した。
「セラはそんなことしないから、今まで通りでいいよ」
「はい。わたくしからもお願いします」
「そんなこと言われてもぉぉぉ!」
「アンジェー。友達になったのに、それは酷いよー」
「……う。そ、そうね。……ごめんなさい」
「いいえ。わたくしこそ、最初に言わなくてごめんなさい」
「ううん。そりゃ、言わないわよね。当然よ」
アンジェも冷静になってきてくれたようだ。
「私たちは仲間だー! 友達だー! おー!」
「「おー!」」
私が元気に拳を振り上げると、ゼノとエミリーちゃんが続いてくれた。
「……じゃあ、あの、よろしくね? セラ」
様子をうかがいつつ、上目遣いでアンジェは握手を求めた。
「はい」
それにセラが笑顔で応じる。
「ちなみに某の霊視眼でも、セラさんの属性はしっかりと見えていました。あえて言わないでいましたが、結果的には言うべきでしたか。セラさんも、これで心置きなく魔術の話ができますね」
肉串を食べおえたヒオリさんが、優しい顔でうなずく。
口元にはべったり油がついているけど。
「だねー」
言いたいことが言えずに、もどかしそうにしていたしね、セラ。
「そうですね、これでやっと言えます。
わたくし、光の魔術の発動に成功したんです!
実は、そのことをクウちゃんに言いたくて今日は来たんです!」
「おおっ! おめでとう! もしかして見せてくれるの?」
「……まだ上手ではないんですけれど、よかったら見てくれますか?」
「うん! 見たい!」
「……わかりました。頑張ります!」
「ねえ、クウちゃん、セラちゃん。わたしたちも見ていいの?」
大人なエミリーちゃんが確認してくる。
「はい。よかったら」
「わーい!」
エミリーちゃんが素直に喜ぶ。
「光の魔術かぁ……。まさかこの目で見ることができるなんて夢みたいだわ」
「貴重な機会ですね」
アンジェとヒオリさんも興味津々の様子だ。
「ボクはお菓子でも食べてるよーっと」
ゼノは興味なさそうだった。
闇の大精霊だしね。
「わたくしの特訓の成果、お見せしますっ!」




