表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

878/1359

878 閑話・オルデはお茶を楽しむ




 エリカは本当にすごい。

 私、オルデ・オリンスも最近はモッサ先生の下で、礼儀作法についてはいろいろと頑張ってきたけど……。

 一緒にお茶を飲んでいると、私も頑張ってきたからこそ、まさにエリカの姿が本物なのだとわかる。

 エリカは、私よりもいくつも年下だけど、尊敬できる先輩だ。

 というか一緒にいると、年上にしか感じられない。


 エリカは本当に、ただの庶民なんだろうか……。

 いや、うん。

 そんなわけがないわよね……。


 とは思うのだけど、実際、エリカのまわりには、メイドさんもいなければ護衛の人もいない。


 お嬢様であれば、誰かはそばにいるはずだ。


 まあ、うん。


 いるにはいるけど……。


 カメのリュックを背負った銀色の髪の獣人の女の子と、ぽわわんとしたメガネをかけた女の子が。


 ただ、この2人が護衛ということはないだろう。


 ただ、うん。


 この2人は、なんか気がつくとこっちが敬語を使っているというか、いくつも年下なのに妙な迫力を感じるというか……。

 私の敏感な危機センサーが、大いに反応するというか……。

 ただの少女には思えないのだけど……。

 とはいえ2人は、エリカのことなんてそっちのけで、なぜかボンバーを捕まえて一緒に遊び始めた。

 護衛やメイドなら絶対にやらない行為に違いなかった。


 ボンバーが現れた時には、正直、ギョッとした。

 最近、彼は、ハッピーにハマっている。

 黄色い服を着て、ハッピーハッピー言っている。

 正直、怪しすぎる。

 赤の他人になったわけではないから、近づかれてしまったら、あきめらめて同席を許すしかなかったけど……。

 なにしろボンバーは、それなりにお金持ちで気前がいい。

 ただひたすらに高級品を愛していた頃は、まさにダーリンとして私にもたくさんのハッピーをくれた。

 私としても、無下にはできないのだ。

 ただ今は、それが本当に虚しい。

 なんかどうにも、キャッキャッする気にはならないのだ。

 むしろ静かに、落ち着いていたい。

 それが今の私だった。


 幸いにも、ボンバーは私には気づかなかった。

 エリカとの時間を壊されなくて、本当によかったとホッとした。

 エリカは帝都の人間ではない。

 今日がおわったら、せっかく友達になれたというのに、もう会うことはできないかも知れないのだ。


 ボンバーについては、いきなり飛んでいった。


 唐突に現れた空色の髪の女の子が、唐突に大きな声をあげた。

 その声に驚いて目を向ければ――。

 女の子が綺麗な足をスカートから伸ばして、恥ずかしげもなくボンバーのことを蹴り飛ばしたのだった。


 え。


 と、思った。


 だって、どう考えても、あり得ない。


 女の子が蹴って、ボンバーが空の彼方に消えた、とか。


 女の子は、ふわふわ工房の店主だ。

 ハイエルフという。

 なので、特別な力とか、そういうのを持っているのだろうか……。


「オルデ、気になさいますな」


 私が動転して女の子の方を見ていると、エリカが言った。


「ねえ、エリカ……。今の、見たよね……?」

「世の中には、気にしたら負け、ということがありますの。そういうことは気にしないことが大切ですの」


 エリカは悠然とした態度で紅茶を飲む。


「でも……。ねえ、エリカ、私さっき、夢の話をしたよね?」

「ええ。気がついたらトリスティン王国の王城にいて、そこで次の国王に説教したら求婚されたという話でしたね」

「うん、そう。その時のね、ソード様なんだけど……。なんか、あの子にそっくりというか……。同じというか……」

「オルデ」


 エリカが、手にしていたティーカップを置いた。

 意外なことに、カチャリ、と、それなりに大きな音が立った。


「これは、友人となったからこその忠告ですけれども――。夢は夢。現実に持ち込むべきではありませんの」


 エリカは目を合わせず、そんなことを言った。

 忠告……。

 私はその意味を考える。

 つまり、それは、私の推測は正しいということなのだろうか。

 あの工房の女の子が、実はソード様。

 だとすれば、千載一遇のチャンスかも知れない。

 オネガイとか。

 オネダリとか。

 できちゃうかも知れない。


「せっかくの夢が、消えてしまいますわよ」


 私の顔色を見てか、エリカが言った。

 その言葉を聞いて、私は我に返った。


「――そうね。ごめんなさい。今のは忘れて。夢は夢よね」

「それが賢明ですの」


 相手は聖女様の片腕、他国の重鎮を相手にして、余裕の上から目線で会話ができるほどの存在だ。

 そんな相手を、私みたいな小娘が、どうこうできるはずもないか。

 それこそ存在ごと消されておしまいだ。


「とはいえ――」


 と、エリカが言葉を続けて、


「夢を胸に抱くことは、とても良いことですの。それはきっと、オルデに新しい道をもたらすと思いますの」

「そうね。それは、自分でもそう思う」


 お嬢様道を極めたとしても、私には何もないかも知れない。

 実際、友達にも言われる。

 礼儀なんて勉強して、どうなるの、どうするの、と。

 さっきの貴族にも言われた。

 それは、その通りだと思う。

 なにしろ私は、ただの庶民の娘だし。

 だけど、違うのだ。

 少なくとも、私が私のことを好きになれる。

 姿勢を正して、まっすぐに前を見て、綺麗な足取りで町を歩く。

 それは、新しい自分だった。

 自分の足で歩いていることを感じられる自分だった。


「……ヒミツを握って、オネガイしてオネダリなんて、どう考えても、お嬢様のすることじゃないよね」


 私はつぶやいた。

 するとエリカは、なぜか困った顔をした。

 その視線が少しだけ大通りに向いたので、私もそちらに目を向けた。

 通りには、空色の髪の女の子とユイナとナオの姿があった。

 ユイナとナオが、空色の髪の女の子に抱きついている。

 大通りは賑わしい。

 なので、気にするまでは耳に入ってこなかったけど、注視すれば声もちゃんと聞こえてくる。


「ねー! クウー! 買ってよー!」

「買って。買って」

「あーもう! 駄目ったら駄目!」

「うえーん。なんでー! 私のオネガイ聞いてよー! オネダリさせてよー!」

「私たちは無一文。クウが頼り」


 ユイナとナオの2人が、オネガイしてオネダリしていた。

 それはもう恥ずかしげもなく、堂々と。


「これから君たちはバーガーを食べに行くんだよ。フェスティバルの会場でたくさんのバーガーが待っているというのに、クウバーガーだってあるのに、その前にクレープなんて食べてどうするっていうの」

「だってぇ、美味しそうなんだもん! ねーねー!」

「チョコクリームを希望」

「私はベリーね! ベリーいっぱい!」

「ダーメ」

「もー。バーガーなんていいからー。クウバーガーよりクレープなのー」

「……は? 今なんつった?」

「あ、えっとぉ……」

「私はくう。クウバーガーを、くう」

「あー! ナオ! 裏切ってー! かくなる上はー!」

「……なに?」

「オネダリさせてくれなきゃ、クウのヒミツをバラし――あいたたた! 許して許して冗談だから嘘だからぁぁぁ!」


 その大騒ぎを聞いていたエリカが、静かに席を立つ。


「オルデ。出ましょうか」

「え、ええ……」


 私たちはカフェを出た。

 代金は当然のようにエリカが出してくれた。

 金貨で。

 お釣りはいりませんわ、と付け加えて。

 お店の人も驚いたけど、私も驚いて、思わずそのまま奢られてしまった。

 いや、うん。

 エリカ、本当は庶民じゃないよね?

 知ってたけど。


 エリカは、まだ騒いでいる三人のところに行くと、腰に手を当てて、呆れた声でキツめに言った。


「貴女たち、いい加減にしなさい。何をしているのですか」


 私も、本気でそう思った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ハッ!そういえばここにはマリエがいたんだ!なんという隠密...!読者からも逃れるとは
[一言] 一番オネダリをしてるエリカが大人に見える。 それにしても全力で休日を楽しんでるユイナちゃんがかわいい
[一言] 一文字も出てこないのにマリエの凄さがあらためてわかる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ