875 開場っ!
「よー! ウェルダン、おっはよー!」
「来たか、クソガ――マイヤ様。どうですかな! 我がオダウェル商会が徹夜で仕上げた調理場は!」
「うん。いいねー。素晴らしい」
今日はさすがに人目が多いので、マイヤ様なのは許してあげよう。
というわけで。
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、闘技場に作られた特設の調理場に来ました。
1人です。
セラは大宮殿に送り届けました。
今頃は、ちゃんと皇族として正規に入場するため、大急ぎでドレスに着替えていることでしょう。
ステージは、ウェルダンが自慢する通り、見事に仕上がっていた。
闘技場の北側に作られた特設のステージに、4つのピカピカのキッチンが南向きに並んで設置されていた。
キッチンの正面、ステージの下には、たくさんの食材が置かれていた。
観客は、四方すべての席に座る。
キッチンの裏側になってしまう北側席は他の場所の半分の値段とした。
おかげでチケットは、全席、売り切ることができた。
満員御礼だ。
すばらしい。
陛下達の特別観戦室は、東の北側にあった。
間近でステージを見下ろせる特等席だ。
その下の席は高級席として、貴族やお金持ちな人たちの専用にした。
最前列には、審査員の皆様が座る。
帝国の旗もたくさん飾られて、実に豪華な仕上がりだった。
私が適当にデザインした美食ソサエティのバーガーシンボルまで旗にされてたなびいているのは……。
うん。
気にしないでおこう。
ちなみに公式に行われている賭けは……。
1番人気は、大宮殿料理長のバンザさん。
2番人気は、拮抗してハラデル男爵。
3番人気は、やや差を付けられて、若手の英才トルイドさん。
そして……。
超大穴として、シャルさん。
みんな、ぜひ、最高のバーガーを作り上げてほしいものだ。
ちなみにキッチンを挟んだ中央は小さな市場となっていて、野菜と肉が豪華に積み上げられている。
参加者は、そこから素材を持ち運んで、調理を進めるのだ。
おーっと、シャルさんが大根!
大根を手にしたぞー!
果たして大根をどのように調理し、挟むというのかー!
みたいなノリで、きっと盛り上がるだろう。
とはいえ、事前にアンケートはとって、必要な素材は聞いているけど。
ただ、絶対にそれしか使ってはいけない、ということではないので、素材の状態や対戦相手の動向を見て――。
アドリブで素材を変更するのはアリだ。
代わりに、自家製の素材の持ち込みは不可とさせてもらった。
今回は、あくまで準備された素材での勝負となる。
バンズも、帝都のパン屋からウェルダンが厳選した10種類の中から選ぶ。
まあ、うん。
本当に真の最強バーガーを作るのであれば、すべての素材を参加者の持ち込みにするべきだった気はするんだけど……。
私が、素材は現場で選んだ方が勝負として盛り上がるかなーと……。
演出重視で、そのように決めてしまいました。
素材の宣伝にもなるので、ウェルダンは大乗り気だったし。
調理場を見ていると、お兄さまが来た。
「クウ。そろそろバーガー・フェスティバルの開始時刻だ。これから開園の挨拶に向かうが一緒に来るか?」
「はい。そうですね。せっかくなので」
開園の挨拶は、闘技場にある3階のロビーから行われる。
顔は見せずスピーカーだけの挨拶ではあるんだけど、ロビーからは正面にゲートを見ることができた。
ゲートが開いて人々が入ってくる様子は、さぞかし壮観だろう。
せっかくだし私も見てみたい。
「くく。ク・ウチャンの愛弟子として紹介してやろうか?」
「やめてくださいねっ!」
「冗談だ」
「もー」
「ナマニエルも来い。自らの成果をその目で確かめよ」
「はっ! 光栄でございます、殿下!」
びしっと直立してから、ウェルダンが一礼する。
ふむ。
正直、ウェルダンが真面目にしているだけで私は笑えてしまうね……。
くまったものだ。
くまったくまった。
さあ、というわけで場所を変えて開園となりました!
眼下の石畳の広場には、たくさんの屋台!
そして、正面のゲートの向こうには、たくさんお客さんが今や遅しと開園の時間を待っていた。
空は、綺麗な秋晴れのクリアブルー。
澄んでいて、高い。
「皆、本日はよくぞ集まってくれた。
本大会の実行委員長、カイスト・エルド・グレイア・バスティールである。
本日はこの地に、帝国各地から、我こそはというバーガー自慢の店が集い、屋台を開いている。
今、帝国は、空前のバーガーブームである。
皆、バーガーを存分に楽しむと良い。
そして、午後から行われる最強バーガー決定戦に期待すると良い」
キタイ……。
キ・タ・イ……。
ハッ!
いかん!
なぜ私は、すぐにキタイに反応してしまうのか!
「バーガーとは何か。その真髄を、皆は見ることになるであろう」
お兄さまの挨拶はおわった。
さあ!
ゲートが開いた!
待ってましたと、たくさんの人がフェスティバル会場に入ってくる。
祭りの始まりだー!
ただ、魔力感知をする限り、ユイやナオは来ていないね……。
ふむ。
別に開園に合わせて来るという約束はなかったから、きっと普通に帝都で楽しんでいるんだろうけど……。
なんとなく心配になる。
果たして本当に、マリエにすべてお任せしちゃってよかったのだろうか。
これから私は、ウェルダンと打ち合わせの予定だ。
より良い実況とするために、素材や調理機材の名称と主な使い方についてを最終確認するのだ。
どうしようか……。
私は迷って……。
結局、ウェルダンに謝って、少し外出させてもらうことにした。
念の為に、様子を見てこよう。




