表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

873/1359

873 閑話・マリエのお出かけ




 こんにちは、私、マリエです。

 今日は朝から、ユイナちゃんとナオさんとエリカさん――変装してお忍びな3人と帝都の観光です。

 今日は、最強バーガー決定戦の開催日。

 各地からたくさんの人が集まって、帝都は朝から賑やかです。

 すでに多くのお店が開いて、それぞれにバーガーを売ったり、帝都土産をあれやこれやと売り込んでいます。


「帝国は平和ですわね」


 私と並んで歩くエリカさんがポツリと言いました。


「王国も平和ですよね?」


 エリカさんのジルドリア王国は、帝国と張り合えるほどの大国です。

 栄えていると聞きます。


「ええ。今はなんとか。去年は、各地で暴動が起きたりして大変でしたけれど」

「そうなんですかぁ……」

「帝国には、そういう話は流れてきませんの?」

「はい。私は初めて聞きました」

「そうですか」


 それは本当のことです。

 他国の話なんて、庶民の耳にはそんなに入ってきません。

 少しは入ってきますけど。

 エリカさんのことなら、10歳の時に国中をあげての盛大な誕生祭を開いたということですね。

 最近なら、新獣王国のこととか。

 凄まじい強さで領土を奪還して新生を果たした、とか。

 新生獣王軍を率いる戦士長ナオ・ダ・リムは一騎当千の強者で、その力はソード様にも匹敵する、とか。

 その戦士長のナオ・ダ・リム様は、私が聞いた話では、若くて素敵で超イケメンな男の人ということでしたけど……。

 本物は今、ユイナちゃんと一緒に、私とエリカさんの前にいますね。

 カメの甲羅のリュックを背負った同い年の女の子です。

 まあ、はい。

 私のところに流れてくる噂は、その程度の正確さです。


「気楽な散歩って最高だね! なんか走りたくなっちゃうね! ねえ、ナオ、少しだけ走っちゃおっか!」

「了解。カメは走る」

「うんうんっ! 今時のカメは走れるよねー!」


 ナオさんが、ユイナちゃんと2人で、楽しそうに駆け出しました。

 私はポケっとその光景を見送って……。

 ハッと我に返りました!

 いけません!

 ユイナちゃんが駆け出すなんて、学院祭の悲劇再びのフラグです!

 どうせまた前を見ずに、何かにぶつかります!


「ユイナちゃん! 町で走っちゃ駄目ー!」

「あははー! 平気だよー! まずは中央広場に行くんだよねー! まっすぐでいいよねー! 迷子にはならないよー!」

「そういう問題じゃなくってー!」


 私の伸ばした手は、むなしい空回りです。

 もちろん放ってはおけません。


「待ってー!」


 私は追いかけることにしました。


 ああっ!


 ユイナちゃんとナオさんの前に、脇道から出てきた荷馬車がぁぁぁぁ!


 このままでは激突!

 荷馬車が破壊されてしまいます!


「あああああああ!」


 私が悲鳴を上げると……。


 ユイナちゃんとナオさんが、急停止しました。

 その前を、荷馬車が横切っていきます。


 振り返ったユイナちゃんが得意顔でポーズを決めます。


「いえーい! あははー。ねえ、マリエちゃん、びっくりした? また私、馬車にぶつかると思っちゃった? 今のは、ちゃーんと来ているのがわかって、ちょっとやってみたのでしたー!」

「どっきり成功」


 ナオさんも振り返って指でVサインです。

 無表情ですが、ピクピクと動く銀色の獣耳が可愛らしいです。


「もー! 心臓が止まると思ったよー!」

「2人とも、はしゃぎ過ぎですの。大人のすることではありませんわね」


 エリカさんが呆れて言います。


「私、まだ12歳だよ? 子供だよね?」


 ユイナちゃんはキョトンとしますけど――。


「立場をお考えなさい」


 エリカさんがピシャリと言ってくれました。


 本当にその通りです。

 まあ、うん。

 2人は自国では常に人目に晒されて落ち着く暇もないそうなので、浮かれてしまうのはわかりますけど。


 その後は、何事もなく中央広場に着きました。


 まずは、姫様ロールと姫様ドッグをみんなで楽しく食べる予定です。

 帝都のお約束ですよね!

 今日はお祭りなので、朝からオープンしていますし!

 朝なので、まだ混み合っていませんし!

 さすがは私。

 カンペキで隙のない計画なのです!


 ただ……。


 騒動は、私のカンペキな計画とは別のところで起きるようです。


 状況は、一目見て、だいたい理解できます。


 どうやら小さな男の子が、貴族の青年たちにぶつかって、姫様ドッグをぶつけてしまったようです。

 足元に姫様ドッグが散らばっていました。

 青年の服には、赤い汚れがあります。


 お母さんが男の子を抱きかかえて、しゃがんで震えていました。

 外から来た親子なのでしょう。

 帝都では見ることのない色や柄の服装でした。


 そして、その2人を、綺麗な服を着たご令嬢がかばっているようです。


 青年の笑い声が響きました。


「はははは! 聞いたか、皆! どこのご令嬢が出しゃばってきたかと思えば、ただの庶民の娘だと!」

「そう言ってやるな。淑女の練習とは立派なものではないか」

「どこで使うんだよ、それ」

「さあな」


 私は、実は庶民の娘というそのご令嬢に、見覚えがありました。

 昨日、モッサを先生と呼んで、門下生の人たちと一緒に、バーガーを綺麗に食べる練習をしていた子です。


「とにかく、皆様からすれば些細なことでしょう? 恫喝などせず、笑って許してあげるくらいの度量を見せてはいただけないかしら」


 女の子が物怖じすることなく、堂々とした態度で言います。

 その姿は、まさにご令嬢です。


「駄目だな。このガキのせいで、俺は、皇帝陛下までいらっしゃる、この後の予定が遅刻になるんだぞ。許せどうこうより、まずは責任を取るのが筋だよな。せめて衣服代くらいはよこせ」

「貴方の服は高価すぎて、この方に払えるわけがないでしょう」

「なら、おまえが立て替えろ」

「残念ながら、先程も申し上げましたように、私は庶民の娘です。そこまでのお金なんてありません」

「なら脱げ。おまえの高そうなその服で勘弁してやるよ」


 わはははは。


 と、青年たちが笑います。


 …………。

 ……。


 私は、うん、諦めました。


 だって、ユイナちゃんたちは立ち止まって……。

 じっと、その話を聞いています。

 さっきまでの浮かれた顔がどんどん消えていって、ものすごく怖くなっていくのがわかります……。


 やがてエリカさんが言います。


「本当に、ほっとしましたわ。こういうのは王国だけではありませんのね」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
でも服を汚されたのは事実だし、責任を取るべきだとは思うね。笑って許す度量があれば素晴らしいけど、他人があーだこーだ言うことではない。 学園祭で壺を割った時に、運び手になることで許してあげたご令嬢がいた…
[一言] まさかあちらから騒動がやってくるとは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ