872 いつもの
「あの、クウちゃん。ひとつ、質問をいいですか?」
「うん。いいよー」
「クウちゃんって、実はク・ウチャンの愛弟子だったのですか? ク・ウチャン本人ではなくて」
「あー。それはねー」
私はセラに、お兄さまがそう言っちゃったことを説明した。
「それは……。意外ですね……。お兄さまがそんな軽口を叩くなんて」
「でしょー。私もそう言ったんだけどさー。おまえは俺を何だと思っているとか言われてねー」
「なんなんでしょうね」
セラが笑った。
「さあ」
私も笑った。
まあ、うん。
怒っているわけではなし、何でもいいんだけどね。
「……それにしても、やっぱりクウちゃんはすごいです。いろいろな人から頼りにされていて。わたくしは――」
空を見上げて、セラは言った。
「セラ――」
もしかして、無力を感じさせてしまったのだろうか。
私は心配になる。
私の知識は、前世から得ているものだ。
私のオリジナルではない。
クウバーガーにしたって丸パクリだし。
つまり、私がすごいのは、私の努力や才能によるものではないのだ。
それと比べれば、セラは頑張っている。
すごいよ。
と、私は思ったのですが。
はい。
「わたくしは――!」
語気を強めてくるりとこちらを向いた――。
セラの瞳はキラキラだった。
興奮して、光の魔力がわずかなオーラとして溢れているね。
「さすがはクウちゃんと言わざるを得ませんっ! まさに! クウちゃんこそが大陸で1番! 世界で1番! 帝国で1番! カメ様と一緒で1番! わたくしはお友だちとして誇らしい限りです!」
私の手を取ってセラが力説する。
「あはは……」
私はいったい、なにを心配していたのでしょうか。
「さあ、クウちゃん! アレをやりましょう!」
「アレって?」
なんだろか。
「もちろん、アレです! クウちゃんだけに、どうぞ! わたくし、しっかりとお手伝いをさせていただきますので!」
「えっと」
「はい! いつでも大丈夫ですよ! クウちゃんだけに! ですよね!」
「やらないよ」
「え……? ど、ど、どうしてですか……!?」
「いや、だってさ」
正直、よくわからないけど、絶対に恥ずかしいことだし。
いや、うん。
本当は、ほんの少しだけ、わかるけど……。
クウちゃんだけに、くう。
だよね……。
やるわけがないよね?
「そんなー。クウちゃんだけに、しないなんてぇ……」
セラがよろめいた。
「よー! クウ、セラちゃん!」
そこにロックさんの声がかかった。
ロックさんは、エプロンをかけた姫様ドッグ店の店員姿だった。
私たちの姿を見つけて、こちらに歩いてくる。
「やっほー」
私は笑顔で手を振った。
「ボ、ボクなのだ!」
セラは反射的に店員さんモードに入った。
「……相変わらずおまえらは、どこにでもいやがるな」
近づいたところでロックさんが呆れて言う。
「あはは」
「まあ、いいけどよ。それよりバーガーだろ? 今日はうちも出すからよ、でも開店すると絶対に混むから、先にくれてやろうか?」
「もう準備とか出来てるんだ?」
「おう。店からそのまま持ってきたからな」
「なるほど」
「といっても、アレだぞ。フェスティバルだからな! 今日のクウバーガーは特別仕様なんだぜ!」
「へー。どんな?」
「それはおまえ、食べてからのお楽しみだろー」
「そかー」
「セラちゃんも食うよな?」
ロックさんがセラに話を振った。
ロックさんは御前試合を経ても、未だにセラちゃんとセラフィーヌ殿下が同一人物だと気づいていない。
恐るべし鈍さなのです。
もしかしたら、あえて、わざと、そうしているのかも知れないけど。
「……クウちゃんだけに、ですか?」
セラがおそるおそるたずねる。
「ん?」
ロックさんが、なんだそりゃ、という顔で私を見た。
私はなんとなく笑顔を作った。
それを見てロックさんは、あー、と、何かを悟ってくれたようだ。
「クウちゃんだけに、クウ、か!」
ロックさんが言った。
「はい! そうです! クウちゃんだけに、クウ! です!」
「クウちゃんだけに、クウ! だもんな!」
「はい! クウちゃんだけに、クウ! クウちゃんだけに、クウ! クウちゃんだけに――」
ここでいつものようにセラは力を溜めて――。
それにロックさんが乗って――。
「「クウ!」」
声を揃えて言った。
「クウちゃん、やりましたーっ! わたくし、やりましたよー!」
セラが爽やかに報告してくる。
「わははは! 意味わかんねーけど、相変わらず元気だな、おまえらは!」
ロックさんはお気楽だ。
「そかー」
私は笑顔のまま、軽い頭痛を覚えた。
ちなみに姫様ドッグ店のフェスティバル限定クウバーガーは超激辛で、私とセラは盛大にむせた。
ほんの一口で食べられなくなってしまったけど……。
残りは、ブリジットさんが食べてくれた。
ありがとう。




