852 ボンバーハッピー
ふわふわ美少女のなんでも工房。
それが我が家だ。
すでに、なんでもではなくなっているけど、依頼さえあれば受け付けるつもりなので店名は変更していない。
ただ、うん。
そろそろ、美少女となんでもは外していいかなーとは思っている。
なにしろ「ふわふわ工房」としか呼ばれていないし。
私もそう言っているし。
まあ、それはともかく。
帰宅するとお店にはお客さんがいたので、私は身を浮かせて3階の自分の部屋にそのまま入った。
いつもの精霊の服に着替えてから1階のお店に降りる。
「店長。おかえりなさい」
カウンターにいたエミリーちゃんが笑顔を見せてくれる。
「ただいまー」
私もカウンターに並んだ。
カウンターの上にはサンドゴーレムのハトちゃんがいた。
ハトちゃんは待機中。
じっとしていると、普通に可愛い置物だ。
「ほら、ハトちゃんもご挨拶して」
エミリーちゃんに言われて、ハトちゃんがぱたぱたと羽を動かした。
賢いね。
お客さんが帰って私たちだけになったところで、エミリーちゃんが聞いてくる。
「店長、今日もファーの訓練はするんですか?」
「うん。するよー」
「今日は私も見たいですっ! お父さんとお母さんには、クウちゃんの訓練を見学するって言って、許可はもらいましたっ!」
「楽しみなのである。ファーからいろいろと学んで、将来は妾のゴレくんもしゃべらせるのである」
フロアにいたフラウが人形ゴーレムを頭に乗せて戻ってきた。
ゴレくんというのは、人形ゴーレムの名前のようだ。
ただ現状、ハトちゃんとゴレくんは1時間くらいで魔力が消えて砂に戻ってしまうので、ずっと同じ個体ではない。
ふむ。
私、思う。
私のゴーレムはどうなのだろうか。
ファーを取り出して聞いてみた。
「ねえ、ファー。ファーはどんな動力で動いているの?」
「魔力デス」
「それって、私が供給したの?」
作った時に。
「ハイ。初期状態デハソウデス。ソノ後ハ、待機モードノ時ニ大気中ノ魔素ヲトリコムコトデ補充シマス」
「なるほど」
てことは、アイテム欄に入れてしまうのは問題なのか。
「私が追加で供給することは可能?」
「可能デス」
「ちなみに今の魔力は、何パーセントくらい残っている?」
「96パーセントデス」
ふむ。
ファーは呼び出してから、一度も魔力の補充をしていないはずだ。
連続稼働時間は、かなり長そうだ。
「ならさ、ここにいる2体のゴーレムに足りないことを教えて? この2体、魔力が切れると崩れちゃうんだよね。補充もできないみたいだし」
私に言われて、ファーがじーっとハトちゃんを見つめた。
その後で、ゴレくんのことも見つめた。
そして、言った。
「固定化力ノ不足デス」
「クリエイト・ゴーレムの時の魔力が足りなかったってこと?」
「ハイ。加エテ、形状のイメージ不足デス」
「魔力を高くして、もっと明確なイメージで生成できれば、自動的にファーと同じ仕様になるってこと?」
「ハイ」
なるほど。
そんなことを話していると――。
からんからん。
鈴が鳴って、ドアが開いた。
「こんにちはっす。武具の受け取りに来たっす」
タタくんたちだ。
「いらっしゃいませー。修理はおわってるよー。工房にあるから取りに来てー」
「はいっす」
ぞろぞろとボンバーズのメンバーが入ってくる。
ただ、ボンバーの姿がない。
「どうぞ」
エミリーちゃんが、メンバーのみんなを奥の工房に連れて行ってくれる。
私はタタくんに話しかけた。
「ボンバーは?」
「今日は朝から中央広場のベンチでドリームについて考えているっす」
「えっと。どゆこと?」
「つまりはフラレて、黄昏れているっす」
「昨日のことだよね?」
「そうっすね」
「あれってフラれたの? 忘れ去られていただけだよね?」
師弟のドラマに押されて。
「少なくともボンバーは、そう感じたようっすよ。オルデがついに金持ちの紳士になびいてしまったって」
「ふむ」
「まあ、どうせすぐに復活するっす。それより店長さん、お支払いをしたいので金額をお願いするっす」
「あ、うん。そうだねー」
まずは商売か。
武具の修復は、私の場合は生成技能でチョチョイなんだけど――。
一応、相場に近いお金はもらうことにしている。
価格はヒオリさんが決めてくれる。
私は楽々なのだ。
で、支払いを受けて、修理のおわった武具を荷車に乗せて、あとは軽く雑談でもしてお帰りだねー。
と、いうところで……。
「こんにちは、クウちゃんさんっ! 今日もいい天気で、最高に素晴らしい1日でしたね! まさに、ボンバーハッピーですねっ!」
満面の笑顔を浮かべた爆発野郎ボンバーが、なぜか胸に黄色のツボを抱えて、お店の入り口に現れた。
なぜ、ツボ。
と私が思っていると――。
「クウちゃんさん、私はついに――。人生に本当に必要なものは何かということに気づきました! それはハッピー! ボンバーハッピーなのです! ハッピーさえあれば、ドリームなんていらなかったのです! 見てくださいこのツボを! このツボはハッピーを招く奇跡のツボなのです! このツボさえあれば人生はハッピー間違いなしなのです!」
ツボを抱きしめたボンバーが恍惚の表情で叫んだ。
あ、うん……。
これ、完全に駄目なヤツだ……。




