85 お友だちと賑やかに
「……セラ、いいの? こんなところに来ちゃって。怒られない?」
「お父さまには黙って出てきたので怒られるかも知れませんが、平気です」
「いいならいいけど……」
「だって、みんな大忙しでお祭り騒ぎなのに、わたくしだけ部屋でぽつんとしているなんて悲しすぎます」
セラはデビュタントが済むまで、皇族としての行事には出られないんだっけ。
貴族のお友だちは――
ずっと呪いで閉じこもっていたのか、そういえば。
「歓迎するよっ!」
手を取って、お店の中に招いた。
「みんなー! 紹介するねっ! この子も私の友達で――」
えっと、どうしよう。
皇女様とは紹介できない。
「初めまして、セラです。クウちゃんには剣を教えてもらっています」
まごついていたら、セラが自分で挨拶した。
「へー。剣士の見習いなんだ。私、アンジェ! 魔術師の見習い! よろしくね!」
「わたし、エミリー! お姉ちゃん、すごく綺麗。お姫さまだね」
エミリーちゃん、鋭い。
ひと目見て、セラの正体を見抜いたかのような発言だ。
「なんかその言い方だと、私が綺麗じゃないみたいだけどー?」
「アンジェちゃんも綺麗だよ。クウちゃんは可愛い」
「ふっふー。ならばよしっ! エミリーも可愛いわよっ!」
胸を張って偉そうにアンジェはうなずき、エミリーちゃんの頭をなでた。
「ボクはゼノねっ! この子はひおりんっ! よろしくね」
「……某、ヘルプ」
奥では相変わらずゼノがヒオリさんにひっついていた。
ヒオリさんは顔色が悪くなっているけど、ヒオリさんだし平気だよね、うん。
大丈夫じゃなさそうなら後で白魔法をかけよう。
オダンさんは、私に一言断わった後で、「ほう、これはすごいな」と感心しつつ店内を見て歩いている。
「賑やかな方たちですね」
「うん」
セラと顔を合わせて、くすりと笑う。
私は店内を見回して、思う。
「……セラ、エミリーちゃん、アンジェ、ゼノ。あとヒオリさんもか。
こっちの世界に来て友達になった子たちが、まさか今日、いきなり一度に集まるなんて思わなかったよ」
あといないのは、フラウか。
ナオもいないけど、ナオは前世からの友達だしね。
「クウちゃんが旅で知り合った方たちなんですよね」
「うん。例の世直し旅」
「わたくしもいつか、旅をしてみたいです」
「楽しかったよー」
生活が落ち着いたら、私もまた行こう。
ダンジョン巡りをせねば!
「ねえ、クウっ! せっかくだし、なんかしましょうよっ!」
アンジェが横から私の腕に絡みついてきた。
「わたしね、一期一会は大切だと思うの。みんなと遊びたい」
反対の腕にはエミリーちゃんがくっついてくる。
「クウがいれば、ボクも参加したっていいよね?」
ゼノが私の肩にひょいと乗ってくる。
「……そ、某も参加します」
ようやく解放されたヒオリさんが、テーブルにへたりこんだ。
「宴会か? おう、やれやれっ! 宴会は、やればやるほど幸せになるからな!」
オダンさんが笑う。
それには私も同意だ。
「そだねっ! いいかも! 宴会しよう!」
よし決定。
と、なぜか、目の前にいるセラが頬を膨らませている。
「どうしたの、セラ」
「……わたくしだけクウちゃんにくっつく場所がありませんっ!」
可愛らしいことを言う。
空いていると言えば背中だけど、それは失礼か。
ふむ。
「しょうがないにゃー」
緑魔法と銀魔法をセットして、身体強化と重力操作で。
ふわっとセラを浮かせて、お姫さま抱っこ。
「これでいい?」
「……は、恥ずかしいですっ! これはっ!」
「いいからいいから。いい子いい子」
「どうしてクウちゃんはわたくしを子供扱いしたがるんですかっ! 同い年ですよっ!」
あれ怒らせちゃったかな。
「わかったよー。そんなに嫌なら降ろすよー」
「……イヤとは言っていません」
ぷいとそっぽを向かれた。
でも、照れているのはよくわかる。
可愛らしい。
「わはは。クウちゃんはモテモテだなっ! なあ、宴会するなら、俺も隅っこで軽く食べててもいいかな?」
「いいよー」
「おしっ! ならちょいと買ってくるか!」
オダンさんが出ていこうとすると、外からドアが開いた。
「おや、これは大賑わいですな」
なんと現れたのは、私服姿のバルターさんだった。
私は執事さんだと思っていたけど、実は公爵で内務卿の偉い人だ。
「どうしたんですか、いきなり」
「はははっ。少しクウちゃんの様子を見ようと思いましてな。ちょうど知人の娘も来ているようでしたし」
さすがはバルターさん。
空気を読んで、セラのことをストレートには言わない。
「いやしかし、先の陛下の演説会。クウちゃんも見ていましたかな?」
「はい。一応」
「なんでも、光の精霊の祝福があったとか」
あ、うん。
絶対に忙しいのに、なんで来たのかわかったよ!
私、するどい。
「……喜んでくれてましたか?」
一応、暗に、はい私がやりましたと伝える。
これを確認しに来たのだろう。
「はははっ。それはもう国がひっくり返るほどの大騒ぎですぞ」
楽しそうにバルターさんは笑っているので、よくわからないけれど、たぶん、うまいこといったのかな。
「皇帝陛下、物語に出てくる英雄みたいだったもんね! 英雄帝よね!」
アンジェが興奮した声で話に入ってくる。
全力でエミリーちゃんが同意する。
抱いたままのセラを見ると、困ったような顔をされた。
「クウちゃんのお知り合いの方ですよね? どうです、これから子供たちが宴会をするのですが、隅で軽く食べるのは」
オダンさんが無謀にもバルターさんを軽食に誘った。
相手は公爵様ですよ……?
正体を知ったらひっくり返りそうだ。
「おお、それはありがたいですな。ご一緒させていただきましょう」
バルターさん、しれっと笑顔で受けちゃったよ。
いいんだろうか……。
まあ、いいか。
よく考えれば皇女様も普通にいるしね。
気にしないことにしよう。
「おしっ! ならひとっ走り行ってくらぁ! エミリー、クウちゃんに迷惑かけないようにいい子にしているんだぞ」
「わかってるよ、お父さん」
オダンさんが走ってお店を出ていく。
そういえばお店の外に馬車が止まっていたり護衛の人が立っていたりしないね。
「バルターさん、一人で来たんですか?」
「安全は確保されておりますのでご心配なさらず」
セラの分と合わせて、忍者軍団が何重にも我が家を囲んでいるのかな?
こわっ!
「ねえ、クウ。どうでもいいけど、宴会って言い方はやめない? もう少しお洒落にお茶会って言おうよ」
「お茶会っ! いいですねっ!」
私の胸の中でセラがアンジェの意見に同意する。
「ならお茶会ってことで」
そう言えばお姫さま抱っこしたままだったので、セラを降ろしてあげた。
「ささ、皆の衆、準備しよー」
アンジェとエミリーちゃんも引き離す。
「クウちゃんず、第一回お茶会!」
「おー。というか、ゼノもどいてね?」
身体強化しているので平気だけど、いつまでも肩にいられては邪魔だ。
「ねえ、ゼノちゃん。クウちゃんずってなーに? わたし、初めて聞いたの」
「ふっふー。ボクとクウとで組んだ防衛隊の名前だよー。今朝も、帝都の地下に潜んでいた邪神の落とし子を退治してきたんだー」
「すごいんだねっ!」
「……それ、ホントなの?」
エミリーちゃんは素直に感動するけど、アンジェが疑うのはもっともだね。
邪神の落とし子とか言い方がオーバーすぎる。
「ただの悪いスライム退治だよ? そんなに大げさなことじゃないよ」
「そうなんだ。それでもすごいわね」
「興味深い話ですな。クウちゃん、明日にでも、ぜひセラさんの家で詳しい話を聞かせてほしいものです」
「は、はい……」
バルターさんがニッコリ笑ってきた。
お説教されそうな笑顔だ。
もちろん、ちゃんと報告には行くつもりだったんですよ!?
ただ今朝の出来事だったから時間がなくてね!?
そう言い訳したかったけど。
「ねえ、クウ。ところでさ、私、なんにも聞いてなかったけど、その子とパーティーを組んだの?」
今度はアンジェがニッコリと笑ってきた。
うん、パーティーはアンジェと組む約束をしていたからねっ!
不愉快になるよねっ!
なんでみんな笑顔が怖いのか!
「臨時だよ、臨時。この子、便利だったからさ。感知アイテムみたいな感じでね」
「ボク、アイテム!?」
「クウちゃん、お友だちをアイテム扱いしちゃダメです」
セラに怒られた。
「ねえ、クウちゃん。わたしもクウちゃんずに入りたいっ!」
エミリーちゃんが抱きついてくる。
「クウちゃんず、正式名称じゃないからね?」
さすがに恥ずかしいです、それは。
「ならどんな名称?」
「えっと……」
帝都防衛隊もパーティー名ではないよね。
どうしよう。




