849 ボンバーミッション
私とタタくんは、人の行き交う夕暮れのエメラルドストリートを、モッサとオルデが歩き過ぎた方向に走った。
まずはボンバーを見つけないとね。
いきなり騒動になっていなければいいけど……。
ボンバーの姿は、中央広場で簡単に見つけることができた。
何しろ巨体だ。
その巨体が木立に隠れているのだ。
それはもう、はみ出ている。
近くの人たちの視線を浴びて、びっくりするほどに目立っている。
ただ、それでも、一応は横からなので……。
あと、周囲が暗くなってきていることもあって……。
2人には気づかれていない。
ボンバーの視線の先には、モッサとオルデがいた。
2人は姫様ロール店の広場沿いのテラス席に座って、パスタを食べていた。
テラスはすでにライトアップされていて、オシャレ感が強い。
オルデは、ここでも指導を受けているのだろう。
声までは聞こえないけど、そんな雰囲気だった。
ちなみに姫様ロール店では、今ではスイーツだけではなくて、いろいろなものを食べることができる。
今ではすっかり、人気のカフェ店だ。
なんか気づく度に、どんどん進化している。
店長さんも頑張っているね。
また今度、なにか楽しいイベントを開いてあげよう。
それはともかく。
今はボンバーだ。
ボンバーの背中からは、ぐぬぬぬぬぬ、と声が聞こえるようだ。
「店長さん、僕がおぶって連れて帰るっすから、いつものように蹴っ飛ばして意識も飛ばしちゃってくださいっす」
「タタくん、ちょっとだけ様子を見ようか」
「どうしてっすか?」
「面白そうだし」
どんなことになるのか、実に興味がある。
騒動になっていれば話は別だけど、現状ではなっていないのだ。
問題はないよね。
「……悪趣味っすよ」
常識人のタタくんには眉を顰められたけど、私は気にしない。
「いいからいいからっ」
「……わかったっす。同行させていただくっす」
「しかし、アレだねえ……」
「どうしたっすか、しみじみと?」
「ボンバーも大人になったもんだ」
「今の姿を大人になったと言っていいものかは謎っすけど……。暴れていなくて本当によかったっす」
しばらく待っていると、2人の食事がおわった。
2人が店から出てくる。
2人の姿は、それなりにお嬢様と執事だ。
モッサがいかにも執事なのもあるけど、オルデがまっすぐに前を見て堂々と歩く姿も様になっている。
「……あの子って、実はお金持ちのお嬢様だったんすかね」
タタくんがそんなことを言うくらいだ。
ボンバーに続いて、私たちも2人の跡を追った。
モッサとオルデは、広場のターミナルから乗合馬車に乗った。
馬車はすぐに出発する。
残念ながらボンバーは乗らなかった。
走って追跡するようだ。
私たちもそうした。
時は、夕暮れ。
長く影の伸びた帝都の大通りを、馬車は快調に進む。
良くも悪くもトラブルなく……。
私たちは平和に追跡した。
「どこに行くんだろうね」
「方向からして、あの子の家だと思うっすけど」
「そかー」
「それにしても店長さん、タフっすね」
「そう?」
「自分やボンバーは小走り程度なら半日でも余裕っすけど、店長さんも息ひとつ切らしていないっすよね」
「あははー。まあねー」
お。
馬車が止まって、モッサが降りてきた。
続いてオルデが、モッサのエスコートを受けて降りようとしたけど――。
動きを気にしすぎて、バランスを崩してしまった。
モッサが支えたので転ぶことはなかったけど――。
残念ながら優雅にとはいかなかった。
まだ練習が必要のようだね。
触れ合ってしまった2人を見て、ボンバーの背中が震えた。
だけど、我慢したようだ。
モッサとオルデは、大通りから薄暗い横道に入った。
帝都は、大通りと主な通り沿いは本当に綺麗で発展しているけど、横道に入れば様相は一変する。
雑然としたものだった。
人通りもなくて、危ない雰囲気も感じる。
実際には、帝都の治安はかなり良くて、横道に入り込んでも、危険な目に遭うことはまずないけど。
なにしろ黒頭巾と呼ばれる隠密部隊が、悪党を容赦なく狩っている。
最近、悪い連中がいるねえ……。
なんて噂が立つ頃には、そいつらは処理されているのだ。
モッサは、うん。
ホント、私に感謝してほしいところだねっ!
なんにしてもこの先には、オルデの家があるそうだ。
なので今日は、送り届けておしまい。
というところだろう。
ボンバーがどうするかは知らないけど……。
なにもしないようなら、私たちはさっさとに帰りますかねー。
お腹も空いたし。
と私は思ったのだけど……。
そうはいかないようだ。
オルデとモッサの前に、スキンヘッドの若者たちが立ちはだかったのだ。
その数は、ざっと20。
全員、黒い拳法着を身に着けていた。
敵反応はないけど、明らかに少しは戦える連中に見えた。
ふむ。
どこかで見た連中な気がするね。
誰だったかな。
ただ、私の小鳥さんブレインをフル回転させても、スキンヘッドの集団と遭遇した記憶はない。
私が首をひねっていると――。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ついに奇声を発して、爆弾野郎のボンバーが飛び出した。




